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【判例】 地方公営企業労働関係法11条1項は憲法28条に違反するか (昭和63年12月8日最高裁)地方公営企業労働関係法11条1項は憲法28条に違反するか

(昭和63年12月8日最高裁)

事件番号  昭和56(行ツ)37

 

最高裁判所の見解

地公労法は、現業地方公務員たる地方公営企業職員の

労働関係について定めたものであるが、

同法一一条一項は、「職員及び組合は、

地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の

業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。

また、職員並びに組合の組合員及び役員は、

このような禁止された行為を共謀し、

そそのかし、又はあおつてはならない。」と規定し、

これを受けて同法一二条は、地方公共団体は

右規定に違反する行為をした職員を解雇することができる旨規定し、

また、同法四条は、争議行為による損害賠償責任の免責について

定めた労働組合法八条の規定の適用を除外している。

 

しかし、地公労法一一条一項に違反して争議行為をした者に対する

特別の罰則は設けられていない。

 

同法におけるこのような争議行為禁止に関する規定の内容は、

現業国家公務員たる国の経営する企業に

勤務する職員(以下「国営企業職員」という。)及び

公共企業体職員の労働関係について定めた

公共企業体等労働関係法

(昭和六一年法律第九三号による改正前のもの。

以下「公労法」という。)におけるそれと同一である。

 

ところで、国営企業職員及び公共企業体職員につき

争議行為を禁止した公労法一七条一項の規定が

憲法二八条に違反するものでないことは、

当裁判所の判例とするところであるが

(昭和四四年(あ)第二五七一号同五二年五月四日大法廷判決・

刑集三一巻三号一八二頁、名古屋中郵事件判決)、

この名古屋中郵事件判決が右合憲の根拠として、

国営企業職員の場合について挙げている事由は、

(1) 公務員である右職員の勤務条件は、

国民全体の意思を代表する国会において、

政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮を経たうえで、

法律、予算の形で決定すべきものとされていて、

労使間の自由な団体交渉に基づく合意によつて

決定すべきものとはされていないこと、

(2) 国営企業の事業は、利潤の追求を

本来の目的とするものではなくて国の公共的な政策を遂行するものであり、かつ、

その労使関係には市場の抑制力が欠如しているため、

争議権は適正な勤務条件を決定する機能を十分に果たすことができないこと、

(3) 国営企業職員は実質的に国民全体に対して

その労務提供の義務を負うものであり、

その争議行為による業務の停廃は国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、

又はそのおそれがあること、

(4) 争議行為を禁止したことの代償措置として、

法律による身分保障、公共企業体等労働委員会による

仲裁の制度など相応の措置が設けられていること、

の四点に要約することができる。

 

そこで、名古屋中郵事件判決が右合憲の根拠として

挙げた各事由が地方公営企業職員の場合にも妥当するか否かを検討する。

 

地方公営企業職員も一般職の地方公務員に属する者であるが、

一般職の地方公務員の勤務条件は、

国家公務員の場合と同様、政治的、財政的、社会的

その他諸般の合理的な配慮により、

国民全体の意思を代表する国会が定める法律及び

住民の意思を代表する地方議会が定める条例、予算の形で

決定されるべきものとされているのであつて、

そこには、私企業におけるような団体交渉による

決定という方式は当然には妥当しないというべきである

(最高裁昭和四四年(あ)第一二七五号同五一年五月二一日大法廷判決・

刑集三〇巻五号一一七八頁(岩手県教組事件判決)参照)。

 

そして、このような一般職の地方公務員の勤務条件決定の法理について、

地方公営企業職員の場合にのみ別異に解すべき理由はない。

 

現行法規上、地方公営企業職員の勤務条件の決定に関しては、

当局と職員との団体交渉を経てその具体的内容の一部が

定められることが予定されており(地公労法七条)、

しかも、条例あるいは規則その他の規程に

抵触する内容の労働協約等の協定にも

ある程度の法的な効力ないし

意義をもたせている(同法八条、九条)などの点において、

団体交渉が機能する余地を比較的広く認めているが、

これは、憲法二八条の趣旨をできるだけ尊重し、

また、地方公営企業の経営に企業的経営原理を

取り入れようとする立法政策から出たものであつて、

もとより法律及び条例、予算による制約を免れるものではなく、

右に述べた一般職の地方公務員全般について

妥当する勤務条件決定の法理自体を変容させるものではない。

 

次に、地方公営企業の事業についても、その本来の目的は、

利潤の追及ではなく公共の福祉の増進にあり

(地方公営企業法(以下「地公企法」という。)三条)、

かつ、その労使関係には市場の抑制力が働かないため、

争議権が適正な勤務条件を決定する機能を

十分に果たすことができないことは、

国営企業の事業の場合と同様である。

 

また、地方公営企業職員が実質的に住民全体に対し

その労務提供の義務を負つており、

右職員が争議行為に及んだ場合の業務の停廃が

住民全体ひいては国民全体の共同利益に少なからぬ影響を及ぼすか、

又はそのおそれがあることも、

国営企業職員の場合と基本的には同様である。

 

もつとも、地公労法の適用される地方公営企業は、

法律上具体的に列挙されているものに限定されず(地公労法三条一項)、

その種類、内容、規模等には、種々のものが含まれうるが、

その事業は、あくまでもその本来の目的である

公共の福祉を増進するものとして、

公益的見地から住民ないし国民の生活にとつて

必要性の高い業務を遂行するものであるから、

その業務が停廃した場合の住民ないし

国民の生活への影響には軽視し難いものがあるといわなければならない。

 

更に、争議行為を禁止したことの代償措置についてみるに、

地方公営企業職員は、一般職の地方公務員として、

法律によつて身分の保障を受け、その給与については、

生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに

民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して

定めなければならないとされている(地公企法三八条三項)。

 

そして、職員と当局との間の紛争については、

国営企業職員及び公共企業体職員についての

公共企業体等労働委員会(現国営企業労働委員会)のような

特別の紛争処理機関は設置されていないものの、

労働委員会によるあつ旋、調停、仲裁の途を開いたうえ、

一般の私企業の場合にはない強制調停(地公労法一四条三号ないし五号)、

強制仲裁(同法一五条三号ないし五号)の制度を設けており、

仲裁裁定については、当事者に服従義務を、

地方公共団体の長に実施努力義務を負わせ(同法一六条一項本文)、

予算上資金上不可能な支出を内容とする仲裁裁定及び条例に

抵触する内容の仲裁裁定は、その最終的な取扱いにつき

議会の意思を問うこととし

(同法一六条一項ただし書、一〇条、一六条二項、八条)、

規則その他の規程に抵触する内容の仲裁裁定がなされた場合は、

規則その他の規程の必要な改廃のための

措置をとることとしているのである(同法一六条二項、九条)。

 

これらは、地方公営企業職員につき

争議行為を禁止したことの代償措置として不十分なものとはいえない。

 

以上によれば、名古屋中郵事件判決が

公労法一七条一項の規定が憲法二八条に違反しないことの根拠として

国営企業職員の場合について挙げた各事由は、

地方公営企業職員の場合にも基本的にはすべて妥当するというべきであるから、

地公労法一一条一項の規定は、右判決の趣旨に徴して

憲法二八条に違反しないことに帰着する。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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