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【判例】デモ行進の参加者がこれを規制する警察機動隊員の殴打行為により負傷したとの認定 (平成3年1月18日最高裁)デモ行進の参加者がこれを規制する警察機動隊員の殴打行為により負傷したとの認定

(平成3年1月18日最高裁)

事件番号  昭和62(オ)774

 

最高裁判所の見解

1 原審の認定によれば、被上告人は、

機動隊員の殴打行為により、左後方に飛ばされ、

左肘から路上に落ちて同所に仰向けに転倒したというのであるから、

被上告人の顔面部分の本件傷害は、

機動隊員の一回の手拳による殴打行為に起因したことになる。

 

しかし、本件現場付近を撮影した写真であることに

争いがない乙第三号証によれば、先頭誘導員たる

機動隊員は手袋を着用していたことがうかがわれるのであるから、

手袋着用の手拳による一回の殴打行為により、本件傷害、

特に約四〇針縫合するほどの左上口唇裂傷が生じたとの認定判断については、

経験則上、合理的な疑いを抱かざるを得ないし、

少なくとも、着用した手袋の厚さいかん

(原審証人Fの証言によれば、厚手の軍手を

着用していたことがうかがわれる。)によっては、

そうした傷害の発生が否定される蓋然性は高くなるものと思われる。

 

したがって、右機動隊員がどの程度の厚さの手袋を着用していたのか、

その手袋を着用した手拳による殴打行為と

本件傷害の部位、程度との因果関係の整合性等について

十分審理、判断を加えなければ、殴打行為と

本件傷害発生とを直ちに結び付けることができないはずであるから、

手袋が着用されていたかどうかさえ判断せず、

単にその殴打行為に起因して本件傷害が生じたと即断した

原審の判断には、著しく合理性を欠くものがあるといわなければならない。

 

2 上告人は、被上告人の本件傷害の原因について、

「本件現場において、機動隊の先頭誘導員らが

第二梯団の先頭部に対する前記一の4のような

規制を行いそれを解除したところ、

デモ隊が勢いがついた状態で前進を開始し、

その時、ちょうどそこに飛び出して来た被上告人が、

デモ隊の先頭部に突き飛ばされて歩道方向に前のめりになって

転倒したためである。」と主張しているが、

これについて原審は、被上告人が右主張のように

「前のめりに転倒したとしたら、通常反射的に手又は腕で

顔面部を防護するはずであって、

何ら顔面を防護しないまま前記のような負傷をし、また、

顔面の他の部分や手を何ら負傷しないですむということは、

たやすくは考え難い事態である。」と説示して、

上告人主張のような機動隊員の規制及び解除の事実の有無について

判断を加えないまま(原審は、この点について判断をした

第一審判決理由の該当部分を引用していない。)、

上告人主張の右被上告人の転倒による負傷の可能性を否定している。

 

しかし、およそ全く予知しないときに、

他人から背後を強力で押されて前のめりに転倒したような場合には、

その力の大きさいかんによっては、

反射的に手又は腕で顔面部を防護する暇もなく、

顔面部を直接路上ないしは突起物に激突させることもあり得ることは、

経験則上、容易に想定できるところであるから、

特段の事情もなく、そうした

事態発生の可能性を全く否定してしまうことは、

むしろ経験則に違反する不合理な判断というべきである。

 

そして、本件において、仮に、原審が認定して指摘するような、

デモ隊の宣伝カーによる抗議放送や機動隊の

先頭誘導員の後方所属分隊への復帰等の事情があったとしても、

そうした事情だけで上告人主張の右転倒による

負傷事故の可能性を否定できるものではないから、

原審が本件現場において機動隊員による規制及び解除があったかどうかについて

判断を加えなかった点に、合理的理由を見出し得ない。

 

四 そうすると、原審の前記説示部分には、

前項に指摘した点において経験則違反ひいては

審理不尽、理由不備の違法があるものというべく、

この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 

したがって、この点の違法をいう論旨は理由があり、

原判決は破棄を免れない。

 

そこで、更に審理を尽くさせるため、

本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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