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【判例】公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為 (平成元年12月21日最高裁)公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為

(平成元年12月21日最高裁)

事件番号  昭和60(オ)1274

 

最高裁判所の見解

公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、

もとより表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、

その対象が公務員の地位における行動である場合には、

右批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、

その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、

その前提としている事実が主要な点において

真実であることの証明があったときは、

人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、

名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。

 

このことは、当裁判所の判例

(最高裁昭和三七年(オ)第八一五号

同四一年六月二三日第一小法廷判決・

民集二〇巻五号一一一八頁、昭和五六年(オ)第六〇九号

同六一年六月一一日大法廷判決・

民集四〇巻四号八七二頁、昭和五五年(オ)第一一八八号

同六二年四月二四日第二小法廷判決・

民集四一巻三号四九〇頁)の趣旨に徴して明らかであり、

ビラを作成配布することも、

右のような表現行為として保護されるべきことに変わりはない。

 

本件において、前示のような本件ビラの内容からすれば、

本件配布行為は、被上告人らの社会的評価を低下させることがあっても、

被上告人らが、有害無能な教職員で

その教育内容が粗末であることを読者に訴え掛けることに

主眼があるとはにわかに解し難く、

むしろ右行為の当時長崎市内の教育関係者のみならず

一般市民の間でも大きな関心事になっていた小学校における

通知表の交付をめぐる混乱という公共の利害に関する事項についての

批判、論評を主題とする意見表明というべきである。

 

本件ビラの末尾一覧表に被上告人らの氏名・住所・電話番号等が

個別的に記載された部分も、これに起因する結果につき

人格的利益の侵害という観点から別途の不法行為責任を問う余地のあるのは

格別、それ自体としては、被上告人らの

社会的評価に直接かかわるものではなく、また、

本件ビラを全体として考察すると、主題を離れて

被上告人らの人身攻撃に及ぶなど論評としての

域を逸脱しているということもできない。

 

そして、本件ビラの右のような性格及び内容に照らすと、

上告人の本件配布行為の主観的な意図及び

本件ビラの作成名義人が前記のようなものであっても、

そのことから直ちに本件配布行為が専ら公益を図る目的に

出たものに当たらないということはできず、更に、

本件ビラの主題が前提としている客観的事実については、

その主要な点において真実であることの

証明があったものとみて差し支えないから、

本件配布行為は、名誉侵害の不法行為の

違法性を欠くものというべきである。

 

してみると、被上告人らの本訴請求中、

上告人の被上告人らに対する名誉侵害の

不法行為責任を前提として新聞紙上への謝罪広告の

掲載を求める部分(慰藉料請求に関する部分については

後に判示するとおりである。)は、失当として棄却すべきものである。

 

したがって、原判決中、右請求部分につき一部認容した

第一審判決に対する上告人の控訴を棄却した部分には、

法令の解釈適用の誤り、ひいて理由不備の違法があるものというべく、

右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、

この趣旨をいう論旨は理由がある。

 

同第一について

上告人の本件配布行為ののち、被上告人らの中には、

電話、葉書、スピーカーによる嫌がらせや

非難攻撃を繰り返し受け、家族に対してまで

非難の宣伝をされた者があり、その余の者も

右事実を知り同様の攻撃等を受けるのではないかと

落ち着かない気持ちで毎日を送ったことは前示のとおりである。

 

被上告人らの社会的地位及び当時の状況等にかんがみると、

現実に右攻撃等を受けた被上告人らの精神的苦痛が

社会通念上受忍すべき限度内にあるということはできず、

その余の被上告人らの精神的苦痛も、

その性質及び程度において、右攻撃等を受けた被上告人らのそれと

実質的な差異はないというべきところ、

原審が適法に確定したところによると、

被上告人らの氏名・住所・電話番号等を個別的に

記載した本件ビラを大量に配布すれば右のような

事態が発生することを上告人において予見していたか又は

予見しなかったことに過失がある、というのであるから、

被上告人らは上告人の本件配布行為に起因して

私生活の平穏などの人格的利益を違法に侵害されたものというべきであり、

上告人はこれにつき不法行為責任を免れないといわざるを得ない。

 

ところで、被上告人らは、本件配布行為により

名誉及び名誉感情と同時に右のような

人格的利益をも違法に侵害されたとして、

その精神的苦痛に対する慰藉料各一〇万円の支払を請求し、

原審は、これらに対する慰藉料として被上告人らにつき

各五万円を認容した第一審判決を維持しているが、

上告人の名誉侵害の不法行為責任を肯認し得ないことは

前記説示のとおりであるところ、

原審が確定した前示事実関係に照らすと、

被上告人らが上告人の本件配布行為に起因して

人格的利益を侵害されたことのみによる

精神的苦痛に対する慰藉料としては、

被上告人らにつき各二万円が相当であるから、

被上告人らの本訴請求中、慰藉料の支払を求める部分は、

上告人に対し各二万円及びこれに対する昭和五六年三月一日から

支払済みまで民法所定年五分の割合による

遅延損害金の支払を求める限度で認容し、

その余を棄却すべきものである。

 

したがって、原判決中、被上告人らの右請求部分につき

右金員を超えて一部認容した第一審判決に対する

上告人の控訴を棄却した部分には、

理由不備の違法があるものというべく、

論旨は、この趣旨をいうものとして理由がある。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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