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【判例】公職選挙法49条1項,公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令53条1項 (平成8年5月31日最高裁)公職選挙法49条1項,公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令53条1項

(平成8年5月31日最高裁)

事件番号  平成8(行ツ)28

 

最高裁判所の見解

原審の適法に確定した事実関係によれば、

所論の不在者投票を行った選挙人二九三名が

提出した請求書兼宣誓書には、選挙の当日自ら

投票所に行き投票をすることができない事由として、

単に旅行中であること又は私事用務等による旅行中であることが

記載されているにとどまり、どのような用務のために

旅行をしなければならないのかについては

記入がされていなかったというのである。

 

選挙期日に選挙人が投票区のある市町村の

区域外に旅行中であるという事由は、

その旅行が儀礼等の理由から社会通念上必要な

用務のための旅行であるとか、又は当日以外に日程を変更することが

著しく困難であるなどの事情が認められる場合に限り、

公職選挙法(以下「法」という。)四九条一項二号所定の

不在者投票事由に該当するものと解するのが相当である。

 

したがって、右事実関係の下においては、

選挙人から不在者投票のための投票用紙及び

不在者投票用封筒(以下「投票用紙等」という。)の交付の

請求を受けたD選挙管理委員会(以下「市選管」という。)の委員長が、

右のような事情の有無について口頭の説明を求めることなく、

その請求に応じて投票用紙等を交付したことは、

同号及び公職選挙法施行令(以下「令」という。)五三条一項の規定に

違反するものといわざるを得ない。

 

これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、

右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。

 

論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、

採用することができない。

 

同第三点について

一 本件選挙における不在者投票の管理執行に関して

原審の適法に確定するところによれば、

本件選挙においては、投票者一万七五一二人のうち

合計一七一三人の者が不在者投票を行ったが、

(1) 市選管では、委員長の補助職員として

不在者投票の管理執行に当たった職員に対して

不在者投票に関する研修等を実施することもなく、

不在者投票の受付事務については経験もない職員などに

ほとんど任せたままであったため、

受付事務を担当した右職員らは、

不在者投票事由の有無について特段の関心を払うことなく、

漫然と投票用紙等の交付の請求に応じており、

その結果、選挙人が提出した請求書兼宣誓書の

記載自体からその申立てに係る事由が不在者投票事由に

該当しないことが明らかなのに受理された不在者投票が

五六票、選挙人が提出した請求書兼宣誓書の記載だけでは

申立てに係る事由が不在者投票事由に該当すると

判断するには足りず、右判断をするためには

請求者の口頭の説明を必要とするにもかかわらず、

その説明を受けることなく受理された投票が所論第二点に係る

二九三票を含め六一二票にも上った、

(2) 市選管の投票記載所では、不在者投票の

投票立会人として届け出られた者の昼食時などに、

右の者以外の者が、適宜交代して不在者投票に立ち会い、かつ、

不在者投票用外封筒に立会人として署名することがあったが、

このうち一〇票については、不在者投票事務の補助執行に従事していた職員が、

右事務の傍ら投票に立ち会い、署名をしたにすぎず、

監視機関としての立会人の役割を十分に果たすことができない

状況の下で投票がされた、

(3) 市選管の委員長は、郵便による不在者投票を行おうとする選挙人に対し、

市選管の記名押印のない不在者投票用外封筒を送付し、

このため、郵便によってされた不在者投票一八票は、

いずれも市選管の記名押印のない外封筒に封入されていた、

(4) 選挙会の発表に係るE候補(当選者)と

F候補(落選者)の得票差は九五八票であり、

各自の得票数に占める不在者投票の割合は、

E候補が一二・五パーセント、

F候補が六・五パーセントであったというのである。

 

投票は、選挙の当日に投票所に赴いて行うのが本則であり、

不在者投票制度はあくまでも例外的な取扱いである上、

ややもすれば不正行為の手段に利用されるおそれのあることは

否定することができないものであって、それゆえに、

法並びにその定めを受けた令及び

公職選挙法施行規則(以下「規則」という。)は、

その濫用を防止し、不正投票の混入を避けるために、

その要件、手続及び様式を厳格に定めているのである。

 

その定めるところに従って不在者投票の管理執行がされるのでなければ、

不在者投票の濫用や不正投票の混入を招き、

公正な選挙を実現することは困難になるものといわざるを得ない

(最高裁昭和三七年(オ)第六九七号同三七年一二月二六日第二小法廷判決・

民集一六巻一二号二五八一頁参照)。特に、選挙人から

投票用紙等の交付の請求を受けた選挙管理委員会の委員長は、

その申立てに係る事由が法四九条一項各号所定の

不在者投票事由に該当するかどうかを厳正に審査し、

これに該当すると判断した場合に限り、

右請求に応ずべきものであって、不在者投票事由の審査義務は、

不在者投票の管理執行に当たって同委員長が尽くすべき、

極めて重要で基本的な義務であることはいうまでもない。

 

原審の適法に確定した前記事実関係によれば、

市選管の委員長は、本件選挙に際して行われた不在者投票については、

選挙人が申し立てた事由が不在者投票事由に

該当するかどうかの審査義務を尽くしたものとはいえず、

そのこと自体が、法四九条一項、令五三条一項に

違反するものといわざるを得ない。

 

加えて、前記(2)の一〇票が実質的に立会人を

欠いた状況下で投票された点で令五六条二項に違反するなど、

市選管では投票立会人の役割の重要性が認識されていたとはみられない上、

前記(3)の一八票は、令五九条の四第三項、規則一〇条の五別記第一三号様式の七に

違反するものと認められる。以上のような不在者投票の管理執行は、

法が不在者投票の要件、手続及び様式を厳格に定めた

趣旨を没却した極めてずさんなものであるというほかはない。

 

そして、このようにずさんな管理執行手続の下で、

全投票者の約一割に当たる一七一三人という

多数の選挙人が不在者投票を行い、

しかも、選挙人が申し立てた事由が

不在者投票事由に該当しないことが明らかであるか、

又は不在者投票事由に該当すると認めるには足りないにもかかわらず、

投票用紙等が交付され、不在者投票が受理されるに至ったものが

六六八票もの多数に上るというのであるから、

不在者投票の管理執行に関する右の各違法が、

不在者投票の濫用や不正投票の混入を招来した可能性は否定し難い。

 

加えて、本件選挙の各候補者の得票に占める

不在者投票の割合が前記のようなものであったことをも考慮すると、

不在者投票の管理執行に関する右の違法は、

不在者投票の全体について、

その公正を疑わしめるに足るものであって、

その結果についても、もしそれが適正に施行されていれば

異なった結果となったのではないかとの疑念を生ずるものといわざるを得ない。

 

そうであれば、不在者投票の総数が

当選者と落選者との得票差を上回っている本件においては、

不在者投票の管理執行手続全般にわたる右違法だけをとらえてみても、

それは、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものということができる。

 

不在者投票の中には、選挙人が提出した請求書兼宣誓書の記載を

事後的、形式的にみる限りでは、

その申立てに係る事由が不在者投票事由に

該当すると認められる投票もあり、

事後的、形式的にみて明らかに投票から

除外すべきものと判断される前記(1)ないし(3)の

不在者投票の数だけでは当選者と落選者との得票差を下回るけれども、

そのことによって、右判断が左右されるものではない。

 

二 本件選挙の開票手続に関して原審の適法に確定するところによれば、

(1) 選挙会の最初の発表では、投票者数と

E、F両候補の得票数が発表されただけで、

無効票数が発表されず、参観者から無効票の内訳を

質問された後である平成五年四月一八日の

午後九時五五分ころに改めてされた二回目の発表によれば、

投票者数が一万七五一二人、E候補の得票九一九九票、

F候補の得票八二四一票、無効票八八票

(ただし、記録によれば、この無効票の中に不受理票九票が

含まれていたことがうかがわれる。)であって、

投票者数よりも投票数が一六票も多かった、

(2) その後、同月二〇日午後七時五〇分ころにされた

選挙会の最終発表によれば、投票者数が一万七五一二人、

E候補の得票九一九九票、F候補の得票八二四一票、

無効票七七票(ただし、記録によれば、

別に不受理票九票があったことがうかがわれる。)で、

無効票の数が変動しただけでなく、なお投票数が

投票者数を上回っていた、

(3) 上告人が被上告人らの審査請求に基づいて

投票の点検をしたところ、投票者数一万七五一二人、

E候補の得票九一九九票、F候補の得票八二二五票、

無効票七七票、不受理票九票であって、

選挙会の発表と比べてF候補の得票数が一六票も少なく、

投票者数が投票数を二票上回ることになった、

(4) 各選挙区の投票録の点検作業は、

選挙会の会場とは別の投票録審査室と称する部屋で行われ、

選挙会が同月一八日に発表した開票結果をめぐって

選挙会の会場が紛糾する最中に、同室に、

開票事務従事者によって第一〇投票区の投票管理代理者が呼び入れられ、

投票録の一部訂正を命ぜられたというのである。

 

投票数の計算は候補者の当落に直接つながるものであるから、

その事務の執行が厳正に行われなければならないことはいうまでもないところ、

右のように、平成五年四月一八日の

午後九時五五分ころの選挙会の発表によれば、

投票数が投票者数を一六票も上回っていたこと、

審査裁決に際する点検によってF候補の得票数に一六票もの

減少があったことに加え、投票者数や不受理票数の

確定資料として重要な意味を持つ各投票区の

投票録の点検が選挙会の会場以外の場所において行われ、

開票事務従事者以外の第三者を呼び入れて

投票録の訂正が行われたことなどからすると、

本件選挙の開票事務の処理は、

著しく厳正を欠いていたものというほかはない。

 

前記の不在者投票の管理執行に関する違法にこのことも

併せ考慮するならば、本件選挙の手続全般にわたって

厳正かつ公正に行われたのかどうかについて疑いを抱かざるを得ず、

その結果についても疑念を生ずるところである。

これらの違法が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあることは、

一層明らかである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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