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【判例】共同漁業権放棄の対価としての補償金の配分手続 (平成元年7月13日最高裁)共同漁業権放棄の対価としての補償金の配分手続

(平成元年7月13日最高裁)

事件番号  昭和60(オ)781

 

最高裁判所の見解

1 現行漁業法の定める共同漁業権は、

旧漁業法(明治四三年法律第五八号)のもとにおける

専用漁業権及び特別漁業権を廃止して、

従来の定置漁業権の一部とともに第一種ないし

第五種の共同漁業権に編成替えされたものであり、

沿革的には、入会的権利と解されていた地先専用漁業権ないし

慣行専用漁業権にその淵源を有することは疑いのないところである。

 

2 しかしながら、現行漁業法によれば、漁業権は都道府県知事の免許によつて

設定されるものであり(一〇条)、しかも、

旧漁業法が先願主義により免許していたのを改めて、

都道府県知事が海区漁業調整委員会の意見をきき水面の総合的利用、

漁業生産力の維持発展を図る見地から予め漁場計画を定めて公示し(一一条)、

免許を希望する申請人のうちから、適格性のある者に、かつ、

各漁業権について定められた優先順位に従つて

免許を与えるものとされており(一三条ないし一九条)、

漁業権の存続期間は法定されていて、

その更新は認められていない(二一条)。

 

3 また、同法は、共同漁業権につき、

その免許について適格性を有する者を漁業協同組合又は

漁業協同組合連合会(以下「漁業協同組合等」という。)に限定し(一四条八項)、

右適格性を有する漁業協同組合等に対してのみ

免許をするものとする(一三条一項)一方、

漁業協同組合の組合員(漁業者又は漁業従事者である者に限る。)であつて、

当該漁業協同組合等がその有する共同漁業権ごとに制定する

漁業権行使規則で規定する資格に該当する者は、

当該漁業協同組合等の有する当該共同漁業権の範囲内において

漁業を営む権利を有するものとしている(八条一項)。

 

右八条一項の規定は、昭和三七年法律第一五六号による

改正前の漁業法八条が、漁業協同組合の組合員であつて

漁民(漁業者又は漁業従事者たる個人をいう。)である者は、

定款の定めるところにより、当該漁業協同組合等の有する

共同漁業権の範囲内において「各自漁業を営む権利」を有すると

規定していたものを改めたものであるところ、

右改正前の規定については、右のように漁民である組合員全員が

「各自漁業を営む権利」を有するものとしていたところから、

漁民による漁場管理といういわゆる組合管理漁業権の本質を

法的に表現したもので、組合が管理権限を持ち組合員がそれに従つて

漁業を営む関係は陸における入会山野の利用関係と同じであり、

組合員たる資格を有する漁民は各自漁業を営む権利を有するが、

その行使方法を定款で定め、形式的、機械的にではなく、

団体規制下に実質的平等に権利を行使させようとするものであるとの

見解を容れる余地があつた。

 

これに対し、右改正後の規定は、いわゆる組合管理漁業権について、

組合員(漁業者又は漁業従事者である者に限られる。)は、

組合が定める漁業権行使規則に規定された資格を有する場合に、

当該漁業権の範囲内において

その内容たる漁業を営む権利を有するものとし、

組合員であつても漁業権行使規則に

定める資格要件を充たさない者は

行使権を有しないことを明らかにしたもので、

全組合員の権利という意味での「各自」行使権は存在しなくなるため、

旧規定の「各自」の文言は削除された。

 

そして、右漁業法の改正と同時に行われた水産業協同組合法の改正により、

漁業権行使規則の制定、変更及び廃止が、

総組合員(准組合員を除く。)の半数以上が出席し

その議決権の三分の二以上の多数による議決を要する

総会の特別決議事項とされたが(四八条一項一〇号、五〇条五号)、

同時に、右改正後の漁業法では、

特定区画漁業権及び第一種共同漁業権について

漁業権行使規則を定めるについては、右議決前に、

当該漁業又は沿岸漁業を営む者の三分の二以上の

書面による同意を得なければならないものとして(八条三項)、

関係地区内の漁業者等の利益保護の見地から組合意思の決定に

制約を加えているほか、漁業権行使規則は、

都道府県知事の認可を受けなければ

その効力を生じないものとされている(同条四項)。

 

4 他方、水産業協同組合法によれば、漁業協同組合は

法人とされ(五条)、組合員たる資格要件(一八条)を

備える者の加入を制限することはできず(二五条)、

組合からの脱退も自由とされている(二六条)。

 

また、漁業協同組合は、組合員に対する事業資金の貸付け

等同法一一条一項各号所定の事業を営むほか、

一定の組合は、組合員の三分の二以上の書面による同意があるときには、

自ら漁業を営むことができるものとされている(一七条)。

 

更に、漁業権又はこれに関する物権の設定、

得喪又は変更は総会の特別決議事項とされており(四八条一項九号、五〇条四号)、

漁業権の放棄は組合員の全員一致を要するものとはされていない。

 

5 以上のように、現行漁業法のもとにおける

漁業権は都道府県知事の免許によつて設定されるものであり、

しかも、その免許は、先願主義によらず、

都道府県知事が予め定めて公示する漁場計画に従い、

法定の適格性を有する者に法定の優先順位に従つて

付与されるものであり、かつ、漁業権は、

法定の存続期間の経過により消滅するものと解される。

 

そして、共同漁業権の免許は漁業協同組合等に対してのみ付与され、

組合員は、当該漁業協同組合等の定める

漁業権行使規則に規定された資格を有する場合に限り、

当該漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有するものであつて、

組合員であつても漁業権行使規則に定める資格要件を充たさない者は

行使権を有しないものとされており、

全組合員の権利という意味での各自行使権は

今や存在しないのである。

 

しかも、共同漁業権の主体たる漁業協同組合は、

法人格を有し、加入及び脱退の自由が保障され、

組合員の三分の二以上の同意があるときには

組合が自ら漁業を営むこともできるものとされているほか、

総会の特別決議があるときには、

漁業権の放棄もできるものとされている。

 

このような制度のもとにおける共同漁業権は、

古来の入会漁業権とはその性質を全く異にするものであつて、

法人たる漁業協同組合が管理権を、

組合員を構成員とする入会集団が収益権能を分有する関係にあるとは

到底解することができず、共同漁業権が法人としての

漁業協同組合に帰属するのは、法人が物を所有する場合と全く同一であり、

組合員の漁業を営む権利は、漁業協同組合という

団体の構成員としての地位に基づき、

組合の制定する漁業権行使規則の定めるところに従つて

行使することのできる権利であると解するのが相当である。

 

そして、漁業協同組合がその有する漁業権を放棄した場合に

漁業権消滅の対価として支払われる補償金は、

法人としての漁業協同組合に帰属するものというべきであるが、

現実に漁業を営むことができなくなることによつて

損失を被る組合員に配分されるべきものであり、

その方法について法律に明文の規定はないが、

漁業権の放棄について総会の特別決議を要するものとする

前記水産業協同組合法の規定の趣旨に照らし、

右補償金の配分は、総会の特別決議によつて

これを行うべきものと解するのが相当である。

 

6 そうすると、共同漁業権は従来の入会漁業権の性質を失つておらず、

法人たる漁業協同組合が管理権を、

組合員を構成員とする入会集団(漁民集団)が

収益権能を分有するものであり、

右収益権能喪失による損失の補償を目的として

支払われた本件補償金は上告人の組合員を

構成員とする入会集団に総有的に帰属するものであるから、

その分配手続については、構成員全員の一致の協議によるべきであり、

右協議が成立しないときは民法二五八条一項の準用により

分配すべきであるとの見解に立つて、

本件総会決議を無効とした原審の判断には、

法令の解釈適用を誤つた違法があるというほかはなく、

右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、

その点をいう論旨は理由がある。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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