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【判例】司法警察員による被疑者の留置についての国家賠償法1条1項所定の違法性の判断基準 (平成8年3月8日最高裁)司法警察員による被疑者の留置についての国家賠償法1条1項所定の違法性の判断基準

(平成8年3月8日最高裁)

事件番号  平成4(オ)77

 

最高裁判所の見解

1 司法警察員による被疑者の留置については、

司法警察員が、留置時において、捜査により収集した

証拠資料を総合勘案して刑訴法二〇三条一項所定の

留置の必要性を判断する上において、合理的根拠が

客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず、

あえて留置したと認め得るような事情がある場合に限り、

右の留置について国家賠償法一条一項の適用上違法の

評価を受けるものと解するのが相当である。

 

2 そして、司法警察員が現行犯逮捕された被疑者を受け取ったときは、

直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、

弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは

直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは

被疑者が身体を拘束された時から四八時間以内に書類及び

証拠物とともにこれを検察官に送致する

手続をしなければならないが(刑訴法二一六条、二〇三条一項)、

ここにいう「留置の必要性」は、犯罪の嫌疑のほか、

「逃亡のおそれ」又は「罪証隠滅のおそれ」等から成るものである。

 

3 以上によって本件をみるに、前記の事実関係によれば、

(一) Dは、E巡査及びF巡査部長の職務質問に対し、

罪を犯したことを認めず、非協力的態度に終始し、

警察官のもとから立ち去ろうとする態度を示し、

人定事項も十分には明らかにしようとしなかった、

(二) Dは、F巡査部長の職務質問に対し、

「わしは、Dや。b町のDや。電話は共産党の東地区委員会に聞けや。

電話は五九一の七八五一や。」と答えたが、

身分証明書など本人と確認できるものを所持しておらず、

自宅の住所及び電話番号の詳細については答えなかった、

 

(三) Dは、逮捕後の取調べに対しては、

本件貼付行為及び住所、氏名を含めた一切の事項について

一貫して完全に黙秘していた、

(四) Dと接見した弁護士も、Dの住所や氏名を明らかにしなかった、

 

(五) Dは、現行犯逮捕の時点で、本件ポスターと

同様のポスターを約三〇枚所持しており、

日本共産党京都東地区委員会から周辺地域の同党掲示板に

ポスターを貼付することを依頼された旨を述べていた、

というのである。

 

これによれば、昭和六二年七月二三日の昼ころ以降の時点においても、

捜査機関が、依然として、本件貼付行為の規模、

動機、組織性などを解明する必要性があると考えていたとしても、

さらには釈放されたDが右の諸点について

罪証隠滅を図るおそれが疑いの余地のないほどに

消滅していると断定するに至らなかったとしても、

それらが直ちには合理的根拠に欠けていたということはできない。

 

してみれば、本件貼付行為が本件掲示板に

本件ポスター一枚を貼付したという

単純かつ比較的軽微な犯罪であることをしんしゃくしても、

昭和六二年七月二二日午後二時五〇分ころの

山科署への引致の時点から同月二四日午前一一時ころの

検察官送致の時点までの間に、Dの留置の必要性が

消滅していたことが客観的に明らかであったとまでいうことはできない。

 

したがって、山科署の司法警察員が、

捜査により収集した証拠資料を総合勘案して

刑訴法二〇三条一項所定の留置の必要性があるものと思料し、

昭和六二年七月二四日午前一一時ころまでDの留置を継続した措置については、

国家賠償法一条一項の違法性を肯定するために必要とされる事情、

すなわち合理的根拠が客観的に

欠如していたことが明らかであるにもかかわらず、

あえて留置を継続したと認め得るような事情は

なかったものというべきである。

 

四 そうすると、右と異なる解釈の下に、

昭和六二年七月二三日午後五時以降のDの留置については

国家賠償法一条一項の違法性が認められるとした原審の判断は、

国家賠償法一条一項の解釈適用を誤ったものであり、

この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は理由があり、他の上告理由について判断するまでもなく、

原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。

 

そして、前記説示に徴すれば、被上告人らの

本件損害賠償請求はすべて理由がないことに帰し、

これと結論を同じくする第一審判決は正当であるから、

右部分に対する被上告人らの控訴は

理由がなくこれを棄却すべきものである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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