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【判例】報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分が憲法21条に違反しないとされた事例 (平成元年1月30日最高裁)報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分が憲法二一条に違反しないとされた事例

(平成元年1月30日最高裁)

事件番号  昭和63(し)116

 

最高裁判所の見解

報道機関の報道は、民主主義社会において、

国民が国政に関与するにつき重要な判断の資料を提供し、

国民の「知る権利」に奉仕するものであつて、

表現の自由を保障した憲法二一条の保障の下にあり、

したがつて報道のための取材の自由も

また憲法二一条の趣旨に照らし、

十分尊重されるべきものであること、

しかし他方、取材の自由も何らの制約をも受けないものではなく、

例えば公正な裁判の実現というような

憲法上の要請がある場合には、

ある程度の制約を受けることのあることも否定できないことは、

いずれも博多駅事件決定が判示するとおりである。

 

もつとも同決定は、付審判請求事件を審理する

裁判所の提出命令に関する事案であるのに対し、

本件は、検察官の請求によつて発付された

裁判官の差押許可状に基づき検察事務官が行つた

差押処分に関する事案であるが、国家の基本的要請である

公正な刑事裁判を実現するためには、

適正迅速な捜査が不可欠の前提であり、

報道の自由ないし取材の自由に対する制約の許否に関しては

両者の間に本質的な差異がないことは

多言を要しないところである。

 

同決定の趣旨に徴し、

取材の自由が適正迅速な捜査のためにある

程度の制約を受けることのあることも、

またやむを得ないものというべきである。

 

そして、この場合においても、差押の可否を決するに当たつては、

捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び

差し押えるべき取材結果の証拠としての価値、

ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、

取材結果を証拠として押収されることによつて

報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び

将来の取材の自由が受ける影響

その他諸般の事情を比較衡量すべきであることは

いうまでもない(同決定参照)。

右の見地から本件について検討すると、本件差押処分は、

被疑者Aがいわゆるリクルート疑惑に関する

国政調査権の行使等に手心を加えてもらいたいなどの趣旨で

衆議院議員Bに対し三回にわたり多額の現金供与の申込をしたとされる

贈賄被疑事件を搜査として行われたものである。

 

同事件は、国民が関心を寄せていた重大な事犯であるが、

その被疑事実の存否、内容等の解明は、

事案の性質上当事者両名の供述に負う部分が大であるところ、

本件差押前の段階においては、

Aは現金提供の趣旨等を争つて被疑事実を否認しており、

またBも事実関係の記憶が必ずしも明確ではないため、

他に収集した証拠を合わせて検討してもなお事実認定上疑点が残り、

その解明のため更に的確な証拠の収集を

期待することが困難な状況にあつた。

 

しかもAは、本件ビデオテープ中の未放映部分に自己の弁明を

裏付ける内容が存在する旨強く主張していた。

 

そうしてみると、AとBの面談状況をありのままに収録した

本件ビデオテープは、証拠上極めて重要な価値を有し、

事件の全容を解明し犯罪の成否を判断する上で、

ほとんど不可欠のものであつたと認められる。

 

他方、本件ビデオテープがすべて

原本のいわゆるマザーテープであるとしても、

申立人は、差押当時においては放映のための編集を了し、

差押当日までにこれを放映しているのであつて、

本件差押処分により申立人の受ける不利益は、

本件ビデオテープの放映が不可能となり

報道の機会が奪われるという不利益ではなく、

将来の取材の自由が妨げられるおそれがあるという不利益にとどまる。

 

右のほか、本件ビデオテープは、その取材経緯が

証拠の保全を意図したBからの情報提供と依頼に基づく

特殊なものであること、当のBが

本件贈賄被疑事件を告発するに当たり重要な

証拠資料として本件ビデオテープの存在を挙げていること、

差押に先立ち検察官が報道機関としての立場に配慮した

事前折衝を申立人との間で行つていること、

その他諸般の事情を総合して考えれば、

報道機関の報道の自由、取材の自由が

十分これを尊重すべきものであるとしても、

前記不利益は、適正迅速な捜査を遂げるために

なお忍受されなければならないものというべきであり、

本件差押処分は、やむを得ないものと認められる。

 

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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