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【判例】報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分が憲法21条 ( 平成2年7月9日最高裁)報道機関の取材ビデオテープに対する捜査機関の差押処分が憲法21条

( 平成2年7月9日最高裁)

事件番号  平成2(し)74

 

最高裁判所の見解

所論は、まず、警視庁高輪警察署派遣警視庁刑事部捜査第四課司法警察員が

Aに対する傷害、暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件について

平成二年五月一六日申立人方においてした

ビデオテープの差押は憲法二一条に違反する旨主張する。

 

そこで検討すると、報道機関の報道の自由は、

表現の自由を規定した憲法二一条の保障の下にあり、

報道のための取材の自由も、憲法二一条の趣旨に照らし

十分尊重されるべきものであること、

取材の自由も、何らの制約を受けないものではなく、

公正な裁判の実現というような憲法上の要請がある場合には、

ある程度の制約を受けることがあることは、

いずれもB駅事件決定(最高裁昭和四四年(し)第六八号

同年一一月二六日大法廷決定・別集二三巻一一号一四九〇頁)の

判示するところである。

 

そして、その趣旨からすると、

公正な刑事裁判を実現するために不可欠である

適正迅速な捜査の遂行という要請がある場合にも、

同様に、取材の自由がある程度の制約を受ける場合があること、

また、このような要請から報道機関の取材結果に対して

差押をする場合において、差押の可否を決するに当たっては、

捜査の対象である犯罪の性質、内容、軽重等及び

差し押さえるべき取材結果の証拠としての価値、

ひいては適正迅速な捜査を遂げるための必要性と、

取材結果を証拠として押収されることによって

報道機関の報道の自由が妨げられる程度及び

将来の取材の自由が受ける影響その他諸般の事情を

比較衡量すべきであることは、明らかである

(最高裁昭和六三年(し)第一一六号

平成元年一月三〇日第二小法廷決定・刑集四三巻一号一九頁参照)。

 

右の見地から本件について検討すると、

本件差押は、暴力団組長である被疑者が、

組員らと共謀の上債権回収を図るため暴力団事務所において

被害者に対し加療約一箇月間を要する傷害を負わせ、かつ、

被害者方前において団体の威力を示し共同して

被害者を脅迫し、暴力団事務所において

団体の威力を示して脅迫したという、

軽視することのできない悪質な傷害、暴力行為等処罰に関する

法律違反被疑事件の搜査として行われたものである。

 

しかも、本件差押は、被疑者、共犯者の供述が不十分で、

関係者の供述も一致せず、傷害事件の重要な部分を確定し難かったため、

真相を明らかにする必要上、右の犯行状況等を収録したと

推認される本件ビデオテープ(原決定添付目録15ないし18)を

差し押さえたものであり、右ビデオテープは、

事案の全容を解明して犯罪の成否を判断する上で

重要な証拠価値を持つものであったと認められる。

 

他方、本件ビデオテープは、

すべていわゆるマザーテープであるが、

申立人において、差押当時既に放映のための編集を終了し、

編集に係るものの放映を済ませていたのであって、

本件差押により申立人の受ける不利益は、

本件ビデオテープの放映が不可能となって

報道の機会が奪われるというものではなかった。

 

また、本件の撮影は、暴力団組長を始め組員の協力を

得て行われたものであって、右取材協力者は、

本件ビデオテープが放映されることを了承していたのであるから、

報道機関たる申立人が右取材協力者のため

その身元を秘匿するなど擁護しなければならない利益は、

ほとんど存在しない。

 

さらに本件は、撮影開始後複数の組員により

暴行が繰り返し行われていることを現認しながら、

その撮影を続けたものであって、

犯罪者の協力により犯行現場を撮影収録したものといえるが、

そのような取材を報道のための取材の自由の

一態様として保護しなければならない

必要性は疑わしいといわざるを得ない。

 

そうすると、本件差押により、申立人を始め報道機関において、

将来本件と同様の方法により取材をすることが

仮に困難になるとしても、その不利益はさして考慮に値しない。

 

このような事情を総合すると、本件差押は、

適正迅速な捜査の遂行のためやむを得ないものであり、

申立人の受ける不利益は、受忍すべきものというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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