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【判例】懲戒処分取消請求事件 (平成元年9月28日最高裁)懲戒処分取消請求事件

(平成元年9月28日最高裁)

事件番号  昭和61(行ツ)62

 

最高裁判所の見解

1 地方公務員につき地方公務員法所定の懲戒事由がある場合に、

懲戒処分を行うかどうか、

懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、

懲戒権者の裁量にゆだねられているものと解すべきである。

 

そして、右懲戒事由が争議行為等を禁止した

同法三七条一項に違反したことを理由とするものである場合には、

当該争議行為の規模、態様、その目的、これによる影響のほか、

当該公務員の争議行為への関与の程度、処分歴、

選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、

諸般の事情を総合的に考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、

懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを、

その裁量的判断により決定することができるものと解すべきである。

 

したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するに当たっては、

懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又は

いかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、

その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、

懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が

社会観念上著しく妥当を欠き、

裁量権を濫用したと認められる場合に限り

違法であると判断すべきものである

(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号

同五二年二一月二〇日第三小法廷判決・

民集三一巻七号一一〇一頁参照)。

 

2 右の見地に立って、原審の確定した前記事実関係に基づき、

本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものと

認められるかどうかについて検討する。

 

(一) 本件争議行為は、自治労定期大会の決定に従い、

人事院勧告の完全実施及び地方財源の確保等を

要求して行われた全国的規模のものであって、

本件争議行為当日は、県職組の指令に基づき

その組合員約四八〇名が始業時より約一時間一斉に職務を放棄し、更に、

県職組の立てた方針どおりピケッティングが実施された庁が多かったため、

本件争議行為に参加した組合員約四八〇名のほか、

約一六〇〇名もの多数の職員が出勤時刻から

本来の職務に就くことができないという

由々しい事態を生じたものであり、

公共性を有する県の行政機関の業務に対し

重大な影響をもたらしたものとみざるを得ない。

 

また、本件争議行為が県当局の警告を無視して

行われたものであることも軽視することはできない。

 

(二) 被上告人B1は、当時、県職組諫早支部副支部長であり、

本件争議行為に際し、県職組本部の指令に基づいて、

県職組本部から送付された争議行為のための批准投票用紙を

組合員に配付して賛否の投票をさせ、また、

諫早県税事務所ほか二箇所で本件争議行為参加を

呼びかける趣旨の宣伝活動を行い、更に、

諫早保健所で職員に対し争議行為実施命令を伝達して

争議行為参加を指示するなどしており、

本件争議行為の実施に至る過程で支部三役の一員として

積極的な役割を果たしたものとみるべきである。

 

そして、同人は、本件争議行為当日、

午前八時三〇分から九時二五分まで職務を放棄して

同盟罷業を行い、諫早総合庁舎前で行われた職場集会に

参加したのであって、同人が、右庁舎正面玄関前で

行われたピケッティングそのものには加わらなかったとしても、

右にみた本件争議行為の実施に至る過程で

果たした積極的な役割を勘案すると、

同人の本件争議行為への関与の程度が他の支部三役と

比較して軽微なものであるとはいえない。

 

(三) 被上告人B2は、当時、県職組北松南支部副支部長であり、

同B3も、D療養所分会長であり、単なる一般組合員ではないうえ、

被上告人B2は、本件争議行為に際し、県職組本部の指令に基づいて、

県職組本部から送付された争議行為のための

批准投票用紙を組合員に配付して賛否の投票をさせたほか、

同B3とともに、本件争議行為当日、

午前八時三〇分から九時二〇分まで職務を放棄して

同盟罷業を行ったのである。更に、被上告人B2、同B3は、

他の右療養所職員とともに、右療養所のE事務長の説得を無視して

その日の出勤時刻前から右療養所正門前に滞留し続けたのであるが、

それがピケッティングであるとまでは断定し難いとしても、

これにより、出勤しようとする職員に対し平常どおりの

登庁を躊躇させ得る状況を生ぜしめたことは否定し難いところであり、

これを無視することはできない。これらの事実に照らすと、

被上告人B2の本件争議行為への関与の程度が、

他の支部三役と比較して著しく軽微なものであるとも、また、

同B3の本件争議行為への関与の程度が、

ピケッティングに参加した一般組合員と比較して軽微であるとも、

一概にいい難い面がある。

 

(四) 以上の諸点のほか、上告人が、

本件争議行為に関与した支部三役(支部長、副支部長、書記長)に対しては、

原則として、減給一〇分の一を一か月の懲戒処分を行っていること、

被上告人B3に対する処分内容は戒告にとどまるものであること等に照らすと、

本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠くものとはいえず、

他にこれを認めるに足る事情も見当たらない以上、

本件各懲戒処分が懲戒権者にゆだねられた裁量権の範囲を超え、

これを濫用したものと判断することはできないものといわなければならない。

 

3 以上説示したところによれば、

本件各懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き、

懲戒権者にゆだねられた裁量権の行使を誤ったものであるとした

原審の判断には、公務員に対する懲戒処分を行うに当たっての

懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を

誤った違法があるものといわなければならず、

右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、

論旨は理由があり、原判決は、

その余の論旨について判断するまでもなく、破棄を免れない。

 

五 そこで、更に、被上告人らの本件各懲戒処分の取消請求について

判断するに、まず、地方公務員法三七条一項が

憲法二八条に違反するものでないことは、

当裁判所の判例(昭和四四年(あ)第一二七五号同五一年五月二一日大法廷判決・

刑集三〇巻五号一一七八頁)とするところであり、また、

結社の自由及び団結権の保護に関する条約(昭和四〇年条約第七号。

 

いわゆるILO八七号条約)は

公務員の争議権を保障したものではないので、

憲法九八条二項違反の主張は、その前提を欠くものというべきであるから、

被上告人らの違憲主張はいずれも失当である。

 

次に、地方公務員が争議行為を行った場合には、

地方公務員法三七条一項の規定に違反するものとして

同法二九条一項の規定による懲戒処分の対象とされることを

免れないものと解すべきであるから、

同項の規定の適用に当たり、同法三七条一項の規定により

禁止される争議行為とそうでないものとの区別を設け、更に、

右規定に違反し違法とされる争議行為に

違法性の強いものと弱いものとの区別を設けて、

右規定違反として同法二九条一項の規定により

懲戒処分をすることができるのはそのうち違法性の強い

争議行為に限られる旨の被上告人らの主張も失当である

(前掲大法廷判決及び前掲第三小法廷判決参照)。

 

そして、原審が適法に確定した前記事実関係の下において、

被上告人らの前記各行為が懲戒事由に該当し、

これを理由とする本件各懲戒処分が懲戒権の範囲を超え

これを濫用してされたものとはいえないことは、

前記説示のとおりである。

 

したがって、本件各懲戒処分に被上告人ら主張の違法はなく、

その取消しを求める被上告人らの本訴請求は、

理由がないというべきであるから、

被上告人らの本訴請求を棄却した第一審判決は正当であって、

これに対する被上告人らの控訴は理由がないものとして、

これを棄却すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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