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【判例】抵当権者の明渡請求の可否 (平成3年3月22日最高裁)抵当権者の明渡請求の可否

(平成3年3月22日最高裁)

事件番号  平成1(オ)1209

 

最高裁判所の見解

1 抵当権は、設定者が占有を移さないで

債権の担保に供した不動産につき、

他の債権者に優先して自己の債権の弁済を受ける

担保権であって、抵当不動産を

占有する権原を包含するものではなく、

抵当不動産の占有はその所有者にゆだねられているのである。

 

そして、その所有者が自ら占有し又は

第三者に賃貸するなどして抵当不動産を

占有している場合のみならず、

第三者が何ら権原なくして抵当不動産を占有している場合においても、

抵当権者は、抵当不動産の占有関係について

干渉し得る余地はないのであって、

第三者が抵当不動産を権原により占有し又は不法に

占有しているというだけでは、

抵当権が侵害されるわけではない。

 

2 いわゆる短期賃貸借が抵当権者に損害を

及ぼすものとして民法三九五条ただし書の規定により

解除された場合も、右と同様に解すべきものであって、

抵当権者は、短期賃貸借ないし

これを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を

占有する賃借人ないし転借人(以下「賃借人等」という。)に対し、

当該不動産の明渡しを求め得るものではないと解するのが相当である。

 

けだし、民法三九五条ただし書による短期賃貸借の解除は、

その短期賃貸借の内容(賃料の額又は前払の有無、敷金又は

保証金の有無、その額等)により、

これを抵当権者に対抗し得るものとすれば、

抵当権者に損害を及ぼすこととなる場合に認められるのであって、

短期賃貸借に基づく抵当不動産の占有それ自体が

抵当不動産の担保価値を減少させ、抵当権者に損害を

及ぼすものとして認められているものではなく

(もし、そうだとすれば、そもそも短期賃貸借すべてが

解除し得るものとなり、短期賃貸借の制度そのものを否定することとなる。)、

短期賃貸借の解除の効力は、解除判決によって、以後、

賃借人等の抵当不動産の占有権原を抵当権者に対すで関係のみならず、

設定者に対する関係においても消滅させるものであるが

同条ただし書の趣旨は、右にとどまり、更に進んで、

抵当不動産の占有関係について干渉する権原を有しない抵当権者に対し、

貸借人等の占有を排除し得る権原を付与するものではないからである。

 

そのことは、抵当権者に対抗し得ない、

民法六〇二条に定められた期間を超える賃貸借

(抵当権者の解除権が認められなくても、

当然抵当権者に対抗し得ず、抵当権の実行により消滅する賃借権)に

基づき抵当不動産を占有する貸借人等又は不法占有者に対し、

抵当権者にその占有を排除し得る権原が付与されなくても、

その抵当権の実行の場合の抵当不動産の買受人が、

民事執行法八三条(一八八条により準用される場合を含む。)による

引渡命令又は訴えによる判決に基づき、

その占有を排除することができることによって、

結局抵当不動産の担保価値の保存、

したがって抵当権者の保護が図られているものと

観念されていることと対比しても、見やすいところである。

 

以上、要するに、民法三九五条ただし書の規定は、

本来抵当権者に対抗し得る短期賃貸借で

抵当権者に損害を及ぼすものを解除することによって

抵当権者に対抗し得ない賃貸借ないしは

不法占有と同様の占有権原のないものとすることに尽きるのであって、

それ以上に、抵当権者に貸借人等の

占有を排除する権原を付与するものではなく

(もし、抵当権者に短期賃貸借の解除により

占有排除の権原が認められるのであれば、

均衡上抵当権者に本来対抗し得ない賃貸借又は

不法占有の場合にも同様の権原が認められても然るべきであるが、

その認め得ないことはいうまでもない。)、

前記の引渡命令又は訴えによる判決に基づく

占有の排除を可能ならしめるためのものにとどまるのである。

 

3 したがって、抵当権者は、短期賃貸借が解除された後、

貸借人等が抵当不動産の占有を継続していても、

抵当権に基づく妨害排除請求として、

その占有の排除を求め得るものでないことはもちろん、

賃借人等の占有それ自体が抵当不動産の担保価値を

減少させるものでない以上、抵当権者が、

これによって担保価値が減少するものとして

その被坦保債権を保全するため、

債務者たる所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して、

その明渡しを求めることも、その前提を欠くのであって、

これを是認することができない。

 

4 これを本件についてみるに、上告人A1総業は、

F及びGの本件各短期賃貸借を基礎として

本件土地、建物を転借した上告人A2との間の

前記転貸借契約に基づき本件建物を占有してきところ、

民法三九五条ただし書に基づく本件各短期賃貸借の解除により

上告人A1総業の本件建物の占有権原は消滅するに至るが、

被上告人が、物上請求として、又は代位請求として、

A1総業に対し、本件建物の明渡しを求め得るものではないというほかない。

 

5 以上と異なり、被上告人の代位請求を容認すべきものとした上、

被上告人の物上請求を認容した第一審判決に対する

上告人A1総業の控訴を棄却した原審の判断は、

抵当権の効力ないし民法三九五条ただし書の解釈を誤った違法があり、

右違法は、原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は理由があり、本件建物の明渡請求に関する部分については、

原判決は破棄を免れず、第一審判決は取り消されるべきである。

 

そして、以上説示したところによれば、

被上告人の上告人A1総業に対する代位請求及び

物上請求はいずれも棄却すべきものである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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