スポンサードリンク

【判例】殺人、殺人未遂、殺人予備、詐欺、詐欺未遂 (平成8年9月20日最高裁)殺人、殺人未遂、殺人予備、詐欺、詐欺未遂

(平成8年9月20日最高裁)

事件番号  昭和63(あ)589

 

最高裁判所の見解

一 原判決及びその是認する第一審判決によれば、

本件は、昭和五一年四月ころから翌五二年三月にかけて、

名古屋市内のE株会社の実質上の経営者であった被告人が、

同社の営業資金等に窮し、同社の債権者で同社に

頻繁に出入りしていた暴力団幹部で、

その暴力団の会長から金員を無心されていたAと共謀の上、

同社を保険契約者、同社の役員等を被保険者として、

保険会社との間に、経営者大型総合保障制度という

保障総額三億円の保険契約を締結し、

同人らを殺害して多額の保険金を騙取しようと企て、

Aの紹介で同社の名目上の代表取締役に就任させていたBや

同社の従業員であったCに右保険を掛けた後、

西尾の配下の者とも順次共謀して、

Bをでき死させようと長良川に誘い出し、

あるいは恵那峡ダムヘの一泊旅行に誘うなどしたが、

不審を抱かれるなどして殺人予備の段階にとどまったため

(第一審判決判示第一の殺人予備)、

前記暴力団会長やその配下の者ら三名とも順次共謀して、

Cを交通事故を装って殺害しようとしたものの、

同人に全治約六七日間の頭部挫傷、

左鎖骨骨折等の傷害を負わせたにとどまり殺害するに至らず

(同判示第二の一の殺人未遂)、単独で、

保険会社からCの右傷害態度等から、

被告人に反省、改しゅんの情をうかがうこともできない。

 

三1 他面、被告人は、Bの関係ではともかく、

Cの殺害未遂や尾関殺害の関係では、実行行為はもちろん、

具体的な殺害方法の謀議にも関与していない。

 

Aが本件一連の犯行にかかわることを決意したのは、

本件以前に結婚式場の経営者に依頼されて

放火をして火災保険金を取得したことがあることや、

所属する暴力団の会長から金員を無心されたことも

無関係ではないことがうかがわれ、

あながち被告人からの働き掛けのみによるとはいい難く、

被告人においては、Aが被保険者の殺害の実行を

引き受けなかったならば、本件企図を実現することが

できなかったものと認められる。

 

Aは、Bが被告人やAの意図を察知して姿を隠した後も

執ようにBを捜し回っていることが認められるほか、

Dの殺害については、Aが、保険金を取得するまで

前記Eを倒産させないために、

同社に相当額の資金をつぎ込んでいたばかりでなく、

前記暴力団会長から金員の調達を強く要求されていた上、

報酬を目当てにした配下の組員らからも実行の催促を受けていたため、

被告人と相謀り、被告人に紹介して

同社の取締役にしていたDに多額の保険を掛けさせた上、

A自身が中心となって、配下の者らから実行者を選び、

殺害計画を立て、実行者らを指揮して殺害計画を

実行するに至ったものであることが認められる。

 

そして、入手できた保険金のうち相当部分は、

本件に関係した暴力団会長をはじめ配下の組員らに対して

報酬として支払われることになっていたものである。

 

このような本件の経過及び被告人がAに対して

強い影響力を有していたとは認められないことからすれば、

当初のB殺害計画についてはともかく、

幸いにもずさんな計画であったためこれが失敗に終わって

以降D殺害に至る経過においては、被告人は、

Aの背後にあって同人らを操ったというよりは、

むしろ積極的に保険金殺人計画を推進する

Aに引きずられていったとみるのが正当と思われる。

 

右のような事情に徴すると、第一審判決の説示するように、

被告人がAと共に本件一連の殺人計画の中で

終始「車の両輪のごとき関係で、

主謀者としての地位を占めていた」として、

特に最も重大なD殺害においても

被告人の主導性をAと同等ないし

これと匹敵するものとみることには

疑問の余地があるといわなければならない。

 

2 さらに、保険関係についてみると、

Dの関係では保険会社に不審を抱かれて

保険金騙取の点は未遂に終わっており、

一連の犯行を通じ、Cの関係で保険金として

六三〇万円を取得したものの、結局三億円という

多額の保険金を取得するには至っていない。

 

被告人が本件一連の犯行のきっかけを作り、

条件を整えた点の責任は重大であるが、

その背景には、保険代理店の経営者からの

再三にわたる高額保険への勧誘及び

その契約等に関する手助けがあって、

それほど規模が大きくもなく、経営状態が

良好とはいえない会社であったにもかかわらず、

次々とかかる高額の保険に加入することが

可能であったという事情も指摘できる。

 

また、被告人には前科がなく、

本件以外に社会生活上の問題行動があったものとは認められず、

むしろ真面目に会社経営に当たってきたものと認められる。

 

四1 死刑は、究極の峻厳な刑であり、

「死刑制度を存置する現行法制の下では、

犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の

執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された

被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の

年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、

その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の見地からも

一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、

死刑の選択も許される」

(最高裁昭和五六年(あ)第一五〇五号同五八年七月八日

第二小法廷判決・刑集三七巻六号六〇九頁)のである。

 

2 本件事案の性質や罪質の重大性、被告人の果たした役割の

重要性等にかんがみると、一般予防の見地からも、

被告人に対し死刑を科した第一審判決を是認した

原判決の量刑判断は、あながち理解できなくはない。

 

しかし、本件において生命をねらわれた者は三名であるが、

結局殺害されたのは一名である。

 

そして、被告人が殺人及び殺人未遂の実行行為はもちろん、

殺害方法の謀議にも関与しておらず、

殺人予備にとどまった当初の一件を除く

その後の保険金殺人計画、なかでも

最も重大な犯行として死刑が選択されたD殺害計画については

むしろ首謀である西尾に引きずられていったものであること、

被告人には前科がなく、特段の問題行動もなく

社会生活を送ってきたこと、

Aについて死刑の判決が確定しており、

本件D殺害の実行に加担した他の共犯四名については、

二名が無期懲役に、一名が懲役一三年、一名が

懲役一〇年に処せられていることなどを併せ考えると、

被告人の果たした役割の重要性を考慮しても、

被告人に対し、死刑という極刑を選択することが

やむを得ないと認められる場合に当たるとはいい難いものがある。

 

五 以上の諸点を総合してみると、被告人に対する死刑の科刑は、

結局重きに過ぎ、甚だしく不当であるというべきであって、

原判決及びその是認する第一審判決は、

これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

 

よって、刑訴法四一一条二号により原判決及び第一審判決を破棄し、

同法四一三条ただし書に従い、被告事件について更に判決することとする。

 

第一審判決が認定した罪となるべき事実に法令を適用すると、

本件については、平成七年法律第九一号附則二条一項本文により

同法による改正前の刑法を適用すべきところ、

被告人の第一審判決判示第一の殺人予備の各所為は、

包括して右改正前の刑法六〇条、二〇一条本文、一九九条に、

同判示第二の一の殺人未遂の所為は、

同法六〇条、二〇三条、一九九条に、

同判示第二の二の詐欺の各所為は、包括して

同法二四六条に、同判示第三の一の殺人の所為は、

同法六〇条、一九九条に、同判示第三の二の詐欺未遂の各所為は、

包括して同法六〇条、二五〇条、二四六条一項に、

同判示第四の一ないし三の詐欺の各所為は、

いずれも同法六〇条、二四六条一項に該当するところ、

所定刑中、同判示第二の一の罪につき有期懲役刑を、

同判示第三の一の罪につき無期懲役刑を選択し、

以上は同法四五条前段の併合罪であるが、

同法四六条二項により、被告人を無期懲役に処し、

他の刑は科さないこととし、

第一、二審における訴訟費用については、

いずれも刑訴法一八一条一項ただし書により

被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク