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【判例】民法234条1項の規定に違背して建築された建物部分の収去請求が権利濫用に当たるか (平成3年9月3日最高裁)民法234条1項の規定に違背して建築された建物部分の収去請求が権利濫用に当たるか

(平成3年9月3日最高裁)

事件番号  昭和62(オ)1208

 

最高裁判所の見解

1 上告人A2は岩手県遠野市a町b番c宅地

一〇六・一一平方メートル(以下「上告人土地」という。)を、

被上告人は同町b番d宅地八五・九五平方メートル

(以下「被上告人土地」という。)を各所有している。

 

2 被上告人は、昭和五七年五月、被上告人土地に

木造・鉄骨造瓦葺三階建居宅(以下「本件建物」という。)の

建築を行うべく基礎工事の鉄筋組立工事を開始した。

 

そこで、上告人A2は、被上告人に対し、

本件建物を上告人土地と被上告人土地との

境界線(以下「本件境界線」という。)から五〇センチメートル後退して

建築するよう要請した。

 

しかし、被上告人がこれを無視して、

同月二八日、本件建物の基礎コンクリートを流し込んだため、

上告人A2は、同年六月五日到達の書面により

工事中止を申し入れた。また、盛岡地方裁判所遠野支部は、

同月一四日、被上告人に対し、

「上告人A2側の境界から五〇センチメートル以内の場所に建物の

建築工事を続行してはならない。」旨の

工事続行禁止の仮処分決定をした。

 

しかるに、被上告人は、これをも無視して工事を続行し、

本件建物を完成させた。

 

3 本件境界線と完成した本件建物の外壁との間隔は、

原判決添付図面記載の表側(道路側)で

二九センチメートル、裏側で三八センチメートル、

本件境界線と本件建物の支柱基底部との間隔は表側で

一八・五センチメートル、裏側で二九センチメートルである。

 

4 本件建物のある地域は、e駅前の商業地域とみられる

人家の密集している地域であって、必ずしも隣地との

境界線から五〇センチメートル以上の距離を置いていない

建築物も建築されている。被上告人は、

本件建物を建築する以前被上告人土地に建てられていた旧建物を解体し、

その建っていた位置に本件建物を建てたものであるが、

旧建物を解体するに先立って上告人A2と境界について協議し、

旧建物の雨落線より少し被上告人側に後退した線を境界線と定めた。

 

上告人A2は上告人土地を現在駐車場として

(以前は製材所として)使用収益している。

上告人A2は、被上告人と反対側の隣地の所有者であるDとは、

建物を境界線から三〇センチメートル離れた場所に

建築することで合意している。

 

二 原審は、以上の事実関係の下において、

上告人A2が被上告人に対し、民法二三四条二項に基づき、

本件建物のうち本件境界線から五〇センチメートル以内に存する

原判決添付図面記載の青色部分(以下「本件違反建築部分」という。)を

収去するよう求めたのに対し、同条一項の立法趣旨に照らして、

本件境界線から五〇センチメートル以内の部分に

本件建物が存しているため上告人A2において害されている

具体的な生活利益と、被上告人において同項の規定に違反して

建築している部分の大きさに比べて

これを取り壊すために要する費用のほかその手直しに

掛けなければならない困難さ等とを合わせてみるときは、

上告人A2の右収去請求は権利の濫用であると解される、

として右請求を棄却した。

 

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。

すなわち、民法二三四条一項の規定に違背して

建物を築造しようとする者があるときは、

隣地の所有者は、建築着手の時から一年以内であって

建築が竣成しない間は、その廃止又は変更を請求することができ、

右建築をしようとする者は同項所定の距離を保持する義務があるところ、

右建築が同項の規定に違反するため

右期間内に隣地所有者から工事中止の要請を受け、

さらに裁判所の建築工事続行禁止の仮処分決定を受けたにもかかわらず、

あえて建築を続行してこれを竣成させた者は後日その廃止又は

変更の請求を受ける危険を負担して

これをしたものにほかならず、隣地所有者のする

違反建築部分の収去請求は、右建築者において

高額の収去費用等の負担を強いられることがあるとしても、

権利の濫用にならないと解するのが相当である。

 

これを本件についてみるのに、被上告人は、

本件建物の建築着手の直後から、

上告人A2に度々本件境界線から五〇センチメートルの距離を

保持して建物を建築するよう要請され、

同上告人から昭和五七年六月五日到達の書面により

工事中止の申入れを受けたのにその意向を無視し、

しかも裁判所から同月一四日付け前記建築工事続行禁止の

仮処分決定を受けながら、この決定までも無視して

建築を続行し、記録上明らかな同月一七日の

本訴提起後これを竣成させたものであるから、

自ら民法二三四条二項に規定する建築廃止の請求を

受ける危険を招いたものとして、

本件違反建築部分の収去をすべき義務を負うものであり、

上告人A2の本件収去請求は、

まさに正当な権利の行使であって、

何ら権利の濫用に当たるものではないというべきである。

 

原判決は、本件建物の存する地域における境界線からの

距離保持状況、上告人土地の現在の利用状況、

本件違反建築部分の収去費用の額等を掲げるが、

被上告人が上告人A2の度々の中止の要請、

裁判所の仮処分決定、建築廃止を求める

上告人A2の本訴提起等をも無視して前記建築を

竣成させた経緯に照らせば、右の諸事情は、

何ら本件収去請求をもって権利の濫用と目すべき

特段の事情ということはできない。

 

たとい収去費用等が高額になったとしても、

それは被上告人が裁判所の前記仮処分決定等を無視してまで

建築を竣成させた結果にほかならず、

これをもって上告人A2の請求に関し不利な事情とすることはできない。

 

そうすると、上告人A2の本訴請求を棄却すべきものとした原審の判断は、

民法一条三項の規定の解釈適用を誤った違法があり、

右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、

この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決中、

上告人A2の敗訴部分は破棄を免れない。

 

そして、以上判示したところと結論を同じくする

第一審判決は正当であるから、

右部分に対する控訴は理由がなくこれを棄却すべきものである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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