スポンサードリンク

【判例】火災保険普通保険約款上保険会社が保険金の支払につき遅滞の責めを負うべき時期 (平成9年3月25日最高裁)火災保険普通保険約款上保険会社が保険金の支払につき遅滞の責めを負うべき時期

(平成9年3月25日最高裁)

事件番号  平成5(オ)1858

 

最高裁判所の見解

1 損害保険契約は、保険契約者において保険料の支払義務を負う

反面、保険会社は、保険事故の発生により被保険者が

損害を被った場合に、当然に右損害をてん補する義務を負う

双務契約である(商法六二九条参照)。

 

そして、保険契約者の側における義務は保険料の支払により

既に履行されているものであり、また、損害の発生後

そのてん補がされないまま日時が経過するときは、

被保険者の損害の範囲が事後的に拡大することも想定されるから、

それらの事情にかんがみれば、保険会社側の損害てん補の義務は、

損害発生後、遅滞なく履行されることが期待されているものといわなければならない。

 

もっとも、保険金の支払に当たっては、これに先立って、

保険会社において損害の範囲の確定、損害額の評価、

免責事由の有無等について調査を行う必要のあることは、

当然予想されるところである。

 

したがって、このような保険制度に内在する

手続上の必要を考慮すれば、保険契約者等から

保険金支払の請求がされた後も、

調査のために必要な一定期間内は保険会社が保険金支払について

遅滞の責めを負わないとすることにはそれなりの合理性があり、

その旨を約款で定めたとしても、その期間が調査のために

通常必要とされる合理的な範囲内であって、

これにより被保険者が損害発生後遅滞なく

損害のてん補を受ける利益が実質的に害されない限り、

その規定は有効なものといわなければならない。

 

約款二二条本文は、同一七条の規定による手続をした日から

三〇日の期間を猶予期間として定めているが、

右の事情に照らせば、この条項は正に

この趣旨を定めたものとみることができ、

そのことからすれば、約款二二条本文は、

右猶予期間の経過により保険金支払の履行期が

到来することを定めた保険金支払時期についての

約定と解することができる。

 

他方、約款二二条ただし書は、保険会社が

右猶予期間内に必要な調査を終えることができないときは、

これを終えた後、遅滞なく保険金を支払う旨を定めている。

 

しかし、右ただし書の文言は極めて抽象的であって、

何をもって必要な調査というのかが条項上明らかでないのみならず、

保険会社において必要な調査を終えるべき期間も

明示的に限定されていない。

 

加えて、保険会社において所定の猶予期間内に

必要な調査を終えることができなかった場合に、

一方的に保険契約者等の側のみに保険金支払時期が

延伸されることによる不利益を負担させ、

他方保険会社の側は支払期限猶予の利益を得るとするならば、

それは前判示の損害保険契約の趣旨、目的と相いれないところである。

 

したがって、保険契約者等が調査を妨害したなど

特段の事情がある場合を除き、保険金支払時期の延伸について

保険会社が全く責めを負わないという結果を

直ちに是認すべき合理的理由を見いだすことはできない。

 

以上を勘案すれば、同条ただし書は、

これ自体では保険契約者等の法律上の権利義務の

内容を定めた特約と解することはできず、

保険会社において、所定の猶予期間内に

調査を終えることができなかった場合にあっても、

速やかにこれを終えて保険金を支払うべき旨の

事務処理上の準則を明らかにしたものと解するほかはない。

 

そうすると、危険防止のために被災現場への立入りが

制限されていたなど、保険会社と保険契約者等の

いずれの責めに帰することもできない理由により

猶予期間内に所要の調査を終えることができなかった場合にも、

保険会社は、保険金に猶予期間経過後の遅延損害金を付して

支払わなければならないことになるが、

さきに判示したところに照らせば、むしろ、

このように解することが、当事者間の衡平にかなうとともに、

損害保険契約における双方当事者の意思に沿うものというべきである。

 

これを要するに、約款二二条は、

保険契約者等が保険の目的物に損害が発生したことを

保険会社に通知し、所定の書類を提出したときは、

その日から三〇日の経過により保険金支払についての

履行期が到来することを定めたものであって、

保険会社は、右期間内に必要な調査を終えることが

できなかったとしても、右期間経過後は

保険金の支払について遅滞の責めを負うものと解するのが相当である。

 

2 これと異なる見解に立って、

平成四年一月二日が経過するまで保険金支払の

履行期が到来しないとして、保険金二五四七万六一五〇円に対する

遅延損害金の請求のうち同日までの分を棄却した原審の判断には、

約款の解釈を誤った違法がある。

 

3 そして、前記の原審認定事実によれば、

特段の事情の認められない本件においては、

遅くともEが本件火災現場を視察した日である

昭和六〇年一月五日から三〇日が経過した日をもって、

約款一七条所定の手続がされた日とみるのが相当であるから、

その日から約款二二条所定の三〇日が経過した時に

保険金支払の履行期が到来したものというべきであり、

被上告会社は、保険金二五四七万六一五〇円及び

これに対する昭和六〇年三月七日から支払済みまで

年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものである。

 

論旨は右の限度において理由があり、原判決中、

遅延損害金の請求のうち同日から平成四年一月二日までの

分を棄却した部分は破棄を免れない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク