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【判例】無罪判決が確定した場合における公訴提起の違法性の有無の判断資料 (平成元年6月29日最高裁)無罪判決が確定した場合における公訴提起の違法性の有無の判断資料

(平成元年6月29日最高裁)

事件番号  昭和59(オ)103

 

最高裁判所の見解

1 刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで

直ちに公訴の提起が違法となるということはなく、

公訴提起時の検察官の心証は、その性質上、

判決時における裁判官の心証と異なり、

右提起時における各種の証拠資料を総合勘案して

合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば

足りるものと解するのが当裁判所の判例

(最高裁昭和四九年(オ)第四一九号同五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・

民集三二巻七号一三六七頁)であるところ、公訴の提起時において、

検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を

遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して

合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば、

右公訴の提起は違法性を欠くものと解するのが相当である。

 

したがつて、公訴の提起後その追行時に公判廷に初めて

現れた証拠資料であつて 通常の捜査を遂行しても公訴の

提起前に収集することができなかつたと認められる

証拠資料をもつて公訴提起の違法性の有無を判断する

資料とすることは許されないものというべきである。

 

これを本件についてみるに、原判決は、

検察官が本件公訴の提起時において、

Kフイルムの撮影者であるKと

L写真の撮影者であるLを取り調べることなく、

H写真、読売写真及びI供述に証拠価値があると

判断したことの違法をいうが、原審は、

本件につき検察官が公訴の提起前に通常要求される捜査を

遂行したものであるか否か、

K及びLの両名を取り調べなかつたことが捜査を怠つた結果であるか否かに

ついて十分な検討を加えていない。

 

この点につき、記録によれば、

一審及び原審証人N(起訴当時、那覇地方検察庁検察官)、

一審証人O(捜査当時、沖縄県普天間警察署刑事課長)は、

Kフイルムを撮影したKから撮影時の状況を聴取するため、

検察庁及び警察署を通じ本人に対し直接、

又はP労働組合事務局等を通じて何度か呼出をしたが、

同人は一度も呼出に応ぜず、同人の協力が得られなかつたこと、

右捜査当時、沖縄返還協定の批准に批判的な市民感情等から、

沖縄の報道機関、カメラマンや一般市民は

本件事件の捜査に極めて非協力的であつたこと、

Kフイルムは第二行為を直接立証するものではないが、

H写真と撮影時点が完全に一致するものではなく

H写真の証拠価値を減殺するものではないと考えた旨を

それぞれ証言している。また、記録によれば、

検察官が公訴の提起前にL写真を撮影したLを

現実に取り調べることが困難であつたことが窺われ、

したがつて、検察官は公訴の提起時に

通常要求される捜査を遂げたものであつて、

K及びLの両名を取り調べなかつたことが

捜査を怠った結果でないことが窺われるのである。

 

更に、原審認定の事実関係によれば、検察官は、

本件公訴の提起に当たり、与儀公園の総決起大会から

本件事件現場までのデモ行進と共にした

被上告人の行動の経過を検討した上、

収集していた警察官作成の捜査関係書類、

供述調書、写真、フイルム、証拠物など

多くの証拠を検討し、とりわけH写真、読売写真、

I供述及びJ供述が重要な証拠であると判断し、

被上告人に対し有罪と認められる嫌疑があるとの心証を持つに

至つたものであるが、原審は、検察官が

右心証を持つについて右各証拠の証拠価値を具体的に

どのように審査したかなど、その判断過程が

合理的なものであつたかどうかについて十分な検討をしていない。

 

この点につき、記録によれば、一審及び原審証人Nは、

公訴の提起に当たり、I供述の信用性を確かめるため、

その供述調書作成前、自ら、Iを第二行為の時間帯に合わせて

本件事件現場の交差点に連れて行き、

その供述どおり塀の上から事件現場を見て、

E巡査部長の倒れていた位置とIの目撃した位置が垂直で、

しかもその間に遮るものがなく、

日没直後の薄明現象による明るさで約一〇メートルの距離からでも

第二行為の模様を目撃することができることを確認し、かつ、

右供述に副うH写真をも参考にしてI供述を

信用した旨を証言している。

 

また、同証人は、公訴提起前、H写真の撮影者H宅に何度も赴き、

同人からH写真のネガを受け取つた際、

H写真の撮影方向、撮影時間及び撮影内容を聴取したこと、

Hは、右写真は被上告人がE巡査部長を踏みつけている

写真であることを明言した旨を証言している

(現に、I及びHは、本件刑事被告事件の公判廷でも

右供述及び右聴取の結果と同趣旨の証言をしている。)。

 

そして、I供述及びH写真について以上の検討を経たものであるならば、

右各証拠と、読売写真、J供述並びに本件公訴の提起時において

検察官が現に収集したその他の証拠資料をも総合勘案すれば、

公訴提起当時、第二行為について有罪と認められる

嫌疑があつたことが窺われるのである。

しかるに、原審は、右各証拠の証拠価値等について

十分な配慮を示すことなく、公訴の提起後

その追行時に公判廷に初めて現れたK証言、L証言等の証拠によつて

事後的に判明した事情をもつて前記I供述、

H写真等の証拠価値を否定し、本件公訴の提起についての

違法性の有無を判断している。

 

2 次に、公訴進行時の検察官の心証は、その性質上、

判決時における裁判官の心証と異なり、

公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して

合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば

足りるものと解するのが当裁判所の判例(前記第二小法廷判決)であり、

公訴の提起が違法でないならば、原則として

その追行も違法でないと解すべきところ、

記録によれば、本件では、本件刑事被告事件の審理の過程で、

I及びHが捜査段階の供述又は聴取の結果と

同趣旨の証言をした等の事実により、

検察官が公訴の提起時において重要な資料とした

I供述やH写真等の証拠価値が公判廷で一層強められたと確信し、

客観的に有罪と認められる嫌疑があると考えたことに合理的な理由があり、

右公訴の追行に違法性を欠くことが窺われるのである。

 

四 してみれば、右の諸点を検討しないで、

検察官の本件公訴の提起・追行をもつて

違法性があるとした原判決には、

国家賠償法一条一項の解釈適用を誤つたか、

又は審理不尽、理由不備の違法があるものというべきであり、

右の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

したがつて、この点の違法をいう論旨は理由があり、

原判決はその余の点について

判断するまでもなく破棄を免れない。

そこで更に審理を尽くさせるため、

本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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