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【判例】虚偽記載有価証券報告書提出罪、違法配当罪 ( 平成20年7月18日最高裁)虚偽記載有価証券報告書提出罪、違法配当罪

( 平成20年7月18日最高裁)

事件番号  平成17(あ)1716

 

この裁判は、

旧株式会社日本長期信用銀行の平成10年3月期に係る

有価証券報告書の提出及び配当に関する決算処理につき,

これまで「公正ナル会計慣行」として行われていた

税法基準の考え方によったことが違法とはいえないとして,

同銀行の頭取らに対する虚偽記載有価証券報告書提出罪及び

違法配当罪の成立が否定された事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 原判決は,前記3のとおり,

平成10年3月期の決算の当時においては,

資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に

基本的に従うことが唯一の公正なる会計慣行となっており,

改正前の決算経理基準のもとでのいわゆる税法基準による

会計処理では公正なる会計慣行に従ったことにはならないというものである。

 

しかしながら,資産査定通達等によって補充される

改正後の決算経理基準は,金融機関がその判断において

的確な資産査定を行うべきことが強調されたこともあって,

以下に述べるとおり,大枠の指針を示す定性的なもので,

その具体的適用は必ずしも明確となっておらず,

取り分け,別途9年事務連絡が

発出されたことなどからもうかがえるように,

いわゆる母体行主義を背景として,一般取引先とは異なる

会計処理が認められていた関連ノンバンク等に対する

貸出金についての資産査定に関しては,

具体性や定量性に乏しく,実際の資産査定が容易ではないと認められる上,

資産査定通達等によって補充される改正後の

決算経理基準が関連ノンバンク等に対する貸出金についてまで

同基準に従った資産査定を厳格に求めるものであるか

否か自体も明確ではなかったことが認められる。

 

すなわち,記録によれば,ア 改正後の決算経理基準は,

前記2(10)記載のとおり,回収不能と判定される貸出金等に関する償却ないし

引当,最終の回収に重大な懸念があり損失の発生が

見込まれる貸出金等に関する必要額の引当,

これら以外の貸出金等に関する貸倒実績率に基づき

算定した貸倒見込額の引当などについて定めているが,

それ自体は具体的かつ定量的な基準とはなっていなかった。

 

イ 資産査定通達についても,定性的かつガイドライン的なものである上,

同通達において初めて導入された債務者区分の概念は,

例えば「破綻懸念先」の定義において,

「(中略)自行(庫・組)としても消極ないし撤退方針としており,

今後,経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる先をいう」として,

母体行主義のもとにおける関連ノンバンク等に対する貸出金について

これまで採られていた資産査定方法を前提とするような表現が

含まれているなど,関連ノンバンク等に対する貸出金についての

資産査定に関してまで資産内容の実態を客観的に反映させるという

資産査定通達の趣旨を徹底させるものか否かが不明確であった。

 

また,9年事務連絡は,一般取引先とは異なる関連ノンバンクに対する

貸出金についての資産査定の考え方を取りまとめたものであるが,

その内容も具体的かつ定量的な基準を示したものとはいえない上,

前記追加Q&Aに反映はされていたものの,

金融機関一般には公表されていなかった。

 

ウ 4号実務指針については,具体的な計算の規定と計算例がないなど,

これに基づいた償却・引当額の計算が容易ではなく,

また,資産分類(分類Ⅰ~Ⅳ)について触れた規定がなく,

債務者区分,資産分類,引当金算定の関係が必ずしも明確でないなど,

結局,定性的な内容を示すにとどまり,資産査定に当たって定量的な

償却・引当の基準として機能し得るものとなっていなかった上,

銀行の関連ノンバンク等に対する貸出金についてまで

その対象とするものであれば,それまでの取扱いからして,

明確とされていてしかるべきところの,将来発生が見込まれる

支援損(支援に要する費用)につき引当を要するのか否かが

明確にされていないなど(平成11年4月の金融検査マニュアルにおいては,

支援に伴い発生が見込まれる損失見込額に相当する額を

特定債務者支援引当金として計上することなどが定められるとともに,

これを受けて4号実務指針も改正され,上記部分が明確にされた。),

関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関してまで

4号実務指針の対象とすることを徹底して求めるものか否か

必ずしも明らかでなかった。

 

エ 加えて,資産査定通達等の目指す決算処理のために

必要な措置と考えられていた税効果会計

(企業会計上の資産又は負債の金額と課税所得計算上の資産又は

負債の金額との間に差違がある場合において,

当該差違に係る法人税等の金額を適切に期間配分することにより,

法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等の金額を

合理的に対応させることを目的とする会計処理)が

導入されていなかった本件当時においては,

資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準に従って

有税による貸出金の償却・引当を実施すると,

その償却・引当額につき当期利益が減少し,

自己資本比率(BIS比率)の低下に直結して市場の信認を失い,

銀行経営が危たいにひんする可能性が多分にあった。

 

オ 以上のようなことから,平成10年3月期の決算に関して,

多くの銀行では,少なくとも関連ノンバンク等に対する貸出金についての

資産査定に関して,厳格に資産査定通達等によって補充される

改正後の決算経理基準によるべきものとは認識しておらず,

現に長銀以外の同期の各銀行の会計処理の状況をみても,

大手行18行のうち14行は,長銀と同様,

関連ノンバンク等に対する将来の支援予定額については,

引当金を計上しておらず,これを引当金として

計上した銀行は4行に過ぎなかった。

 

また,長銀及び株式会社D銀行の2行は要償却・引当額についての

自己査定結果と金融監督庁の金融検査結果とのかい離が特に大きかったものの,

他の大手行17行に関しても,

総額1兆円以上にのぼる償却・引当不足が

指摘されていたことなどからすると,当時において,

資産査定通達等によって補充される改正後の決算経理基準は,

その解釈,適用に相当の幅が生じるものであったといわざるを得ない。

 

(2) このように,資産査定通達等によって補充される

改正後の決算経理基準は,特に関連ノンバンク等に対する

貸出金についての資産査定に関しては,新たな基準として

直ちに適用するには,明確性に乏しかったと認められる上,

本件当時,関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定に関し,

従来のいわゆる税法基準の考え方による処理を排除して

厳格に前記改正後の決算経理基準に従うべきことも

必ずしも明確であったとはいえず,過渡的な状況にあったといえ,

そのような状況のもとでは,

これまで「公正ナル会計慣行」として

行われていた税法基準の考え方によって

関連ノンバンク等に対する貸出金についての資産査定を行うことをもって,

これが資産査定通達等の示す方向性から逸脱するものであったとしても,

直ちに違法であったということはできない。

 

5 そうすると,長銀の本件決算処理は「公正ナル会計慣行」

に反する違法なものとはいえないから,

本件有価証券報告書の提出及び配当につき,

被告人らに対し,虚偽記載有価証券報告書提出罪及び

違法配当罪の成立を認めた第1審判決及び

これを是認した原判決は,事実を誤認して

法令の解釈適用を誤ったものであって,

破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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