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【判例】衆議院議員の議員定数配分規定の合憲性 (平成5年1月20日最高裁)衆議院議員の議員定数配分規定の合憲性

(平成5年1月20日最高裁)

事件番号  平成3(行ツ)184

 

最高裁判所の見解

1 法の下の平等を保障した憲法一四条一項の規定は、

国会の両議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、

選挙人資格における差別の禁止にとどまらず(四四条ただし書)、

選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における

各選挙人の投票の有する影響力の平等、

すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきである。

 

2 憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の

仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量に

ゆだねているのであるから(四三条、四七条)、

投票価値の平等は、憲法上、右選挙制度の決定のための唯一、

絶対の基準となるものではなく、原則として、

国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは

理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さなければならない。

 

それゆえ、国会が定めた具体的な選挙制度の仕組みの下において

投票価値の不平等が存在する場合に、

それが憲法上の投票価値の平等の要求に反しないかどうかを判定するには、

憲法上の投票価値の平等の要求と国民の利害や意見を

公正かつ効果的に国政に反映させるという選挙制度の目的とに照らし、

右不平等が国会の裁量権の行使として

合理性を是認し得る範囲内にとどまるものであるかどうかにつき、

検討を加えなければならない。

 

3 公職選挙法がその制定以来衆議院議員の選挙制度として

採用しているいわゆる中選挙区単記投票制の下において、

選挙区割と議員定数の配分を決定するについては、

選挙人数と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ

基本的な基準であるというべきであるが、

それ以外にも考慮されるべきものとして、

都道府県、市町村等の行政区画、地理的状況等の諸般の事情が

存在するのみならず、人口の都市集中化の現象等の

社会情勢の変化を選挙区割や議員定数の配分に

どのように反映させるかという点も考慮されるべき要素の一つである。

 

このように、選挙区割と議員定数の配分の具体的決定に当たっては、

種々の政策的及び技術的考慮要素があり、

これらをどのように考慮して具体的決定に

反映させるかについて客観的基準が存在するものでもないから、

議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が

具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として

是認されるかどうかによって決するほかはない。

 

右の見地に立って考えても、具体的に決定された

選挙区割と議員定数の配分の下における

選挙人の投票の有する価値に不平等が存在し、

あるいはその後の人口の異動により右のような不平等が生じ、

それが国会において通常考慮し得る諸般の要素を

しんしゃくしてもなお、一般に合理性を有するものとは

考えられない程度に達しているときは、

右のような不平等は、もはや

国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、

これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、

憲法違反と判断されざるを得ないものというべきである。

 

もっとも、制定又は改正の当時合憲であった

議員定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は

人口(この両者は、おおむね比例するものとみて妨げない。)の較差が、

その後の人口の異動によって拡大し、

憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至った場合には、

そのことによって直ちに当該議員定数配分規定が

憲法に違反するとすべきものではなく、

憲法上要求される合理的期間内の是正が

行われないときに初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。

 

4 また、議員定数配分規定そのものの違憲を

理由とする選挙の効力に関する訴訟は、

公職選挙法二〇四条の規定に基づいて

これを提起することができるものと解すべきである。

 

二 本件議員定数配分規定の合憲性

1 平成二年二月一八日施行の衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)は、

公職選挙法の一部を改正する法律

(昭和六一年法律第六七号。以下「昭和六一年改正法」という。)により

改正された公職選挙法一三条一項、同法別表第一、

同法附則七ないし一〇項の議員定数配分規定

(以下「本件議員定数配分規定」という。)に依拠したものであるが、

右改正前の議員定数配分規定によって最後に行われた

昭和五八年一二月一八日施行の衆議院議員総選挙当時における

選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の較差は

最大一対四・四〇(以下、較差に関する数値は、

すべて概数である。)であったところ、右改正の結果、

本件議員定数配分規定の下においては、

昭和六〇年一〇月実施の国勢調査による人口に基づく

選挙区間における議員一人当たりの人口の較差が

最大一対二・九九に縮小し、また、昭和六一年七月六日施行の

衆議院議員総選挙(以下「昭和六一年選挙」という。)当時の

選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が

最大一対二・九二に縮小した。その後、

平成二年二月一八日施行の本件選挙当時の選挙区間における

議員一人当たりの選挙人数の較差は最大一対三・一八に拡大するに至った。

 

以上の事実は、原審の適法に確定するところである。

 

本件選挙当時の右較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は、

選挙区の選挙人数又は人口と配分議員数との比率の

平等が最も重要かつ基本的な基準とされる

衆議院議員の選挙制度の下で、国会において

通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、

一般に合理性を有するものとは考えられない程度に

達していたものというべきであり、また、

投票価値の不平等に対する評価を異にすべき選挙制度の

仕組みの変更その他右投票価値の不平等を正当化すべき

特別の理由を見いだすことはできない。

 

したがって、本件選挙当時において選挙区間に

存在した投票価値の不平等状態は、

憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至っていたものというべきである。

 

2 前記のとおり、選挙区間における

議員一人当たりの選挙人数の較差は、

昭和六一年改正法による改正の結果昭和六一年選挙当時

最大一対二・九二に縮小することとなったものが

本件選挙当時においては最大一対三・一八に拡大するに至ったが、

これは、漸次的に生じた人口の異動によるものと推認することができる。

 

そして、昭和六〇年大法廷判決によって違憲と判断された

昭和六一年改正法による改正前の議員定数配分規定の下における

投票価値の不平等状態は、右改正の結果解消されたものと

評価することができるものというべきであるが、

その後の右較差の拡大による投票価値の不平等状態は、

右較差の程度、推移からみて、昭和六一年選挙後で

本件選挙のある程度以前の時期において

憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に

達していたものと推認することができる。

 

右の時期については、事柄の性質上

これを判然と確定することは不可能であるので、

右較差の拡大による投票価値の不平等状態が

憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に達した時から

どれだけの期間経過した後に本件選挙が施行されたものかは、

明らかではないといわざるを得ないが、

本件選挙の施行の日までの期間は、

本件議員定数配分規定の施行の日である昭和六一年選挙の施行の日

(昭和六一年七月六日)からは約三年七か月、

昭和六〇年国勢調査の確定値が公表された日(昭和六一年一一月一〇日)からは

約三年三か月である。 以上の事実のほか、

人口の異動は絶えず生ずるものである上、人口の異動の結果、

右較差が拡大する場合も縮小する場合もあり得るのに対し、

国会が議員定数配分規定を頻繁に改正することは、

政治における安定の要請から考えて、

実際的でも相当でもないことを考慮する必要があり、また、

本件選挙当時の選挙区間における議員一人当たりの

選挙人数の較差の最大値が昭和六一年選挙当時の較差の最大値と比べて

著しく掛け離れたものでないことなどを総合して考察すると、

本件において、選挙区間における議員一人当たりの

選挙人数の較差が憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に達した時から

本件選挙までの間にその是正のための

改正がされなかったことにより、

憲法上要求される合理的期間内における

是正がされなかったものと断定することは困難であるといわざるを得ない。

 

なお、衆議院本会議において、昭和六一年改正法案が可決された際、

「今回の衆議院議員の定数是正は、

違憲とされた現行規定を早急に改正するための暫定措置であり、

昭和六十年国勢調査の確定人口の公表をまって、

速やかにその抜本改正の検討を行うものとする。」等との決議がされている。

 

しかし、これは、衆議院が、立法府としての立場で

自らの適切妥当な立法権の行使についての決意を表明したものであって、

右決議の存在は、本来、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に

達していた選挙区間における議員一人当たりの

選挙人数の較差につき憲法の要求する合理的期間内の

是正が行われたか否かという法的判断とは次元を異にする問題であるというべきである。

 

3 したがって、本件においては、本件選挙当時、

選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差は、

憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至っていたものではあるが、

本件選挙当時の本件議員定数配分規定を憲法に違反するものと

断定することはできないというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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