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【判例】足立江北医師会設立不許可処分取消請求事件 (昭和63年7月14日最高裁)足立江北医師会設立不許可処分取消請求事件

(昭和63年7月14日最高裁)

事件番号  昭和59(行ツ)276

 

最高裁判所の見解

一 民法三四条が公益法人の設立を

主務官庁の許可にかからしめているのは、

営利を目的としない社団又は財団については、

当該事業を管轄する行政官庁が、当該社団又は

財団が積極的に公益を目的とするものであつて、

社会活動を行ううえで法人格を付与するに値すると

判断したものに限つて法人設立を許す趣旨によるものである。

 

そして、その具体的な許可基準は、法令上何ら定められていない。

したがつて、現行法令上は、公益法人の設立を許可するかどうかは、

主務官庁の広汎な裁量に任されているものとみざるをえず、

主務官庁の右許可に関する判断は、事実の基礎を欠くとか

社会観念上著しく妥当を欠くなどその裁量権の範囲を超え又は

その濫用があつたと認められる場合に限つて

違法となるものといわなければならない。

 

それゆえ、裁判所が公益法人設立の不許可処分の適否を審査するに当たり、

当該不許可処分において主務官庁が

一定の事実を基礎として不許可を相当とするとの結論に至つた判断過程に、

その立場における判断のあり方として

一応の合理性があることを否定できないのであれば、

他に特段の事情がない限り、右不許可処分には裁量権の範囲を超え又は

それを濫用した違法はないものとしなければならない。

 

二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1 足立区は荒川放水路を境としていわゆるb地区とc地区とに分けられ、

本件不許可処分当時、人口六十余万人の大部分は

b地区に居住し、区内の約四〇〇名の医師のおよそ七割が

b地区に就業場所又は住所を有していたが、

H医師会の事務所はc地区に設けられていた。

 

2 H医師会の内部では、昭和四六年ころから、

その運営等をめぐつてb地区の医師の一部と

執行部との間に激しい対立関係が生じ、昭和五〇年七月二五日に、

執行部の方針に不満をもつて同医師会を脱退した医師と

医師会未加入の医師の合計七二名

(いずれもb地区に就業場所又は住所を有する。)が、

新医師会の設立を目指して被上告人の設立総会を開催し、

医道を昂揚し医学仁術の発展普及と公衆衛生の向上を

図るとともに正しい医療の遂行によつて地域社会に

貢献することを目的とする等の内容の定款を定め、

同月三〇日上告人に対し、被上告人を社団法人とするための設立許可申請をした。

 

3 足立区においては、東京都及び他の区と同様、

老人健康保険診査、結核予防法に基づく健康診断及び予防接種事業、

トラホーム予防事業、予防接種法に基づく

予防接種、妊婦健康診査等の事業について、

H医師会に委託するか同医師会から

医師の派遣を求めて実施してきており、

公衆衛生行政を行ううえで地区医師会の協力を

得ることが不可欠のものとなつている。

 

4 被上告人とH医師会とは対立反目し合つていて、

両者の話合いによる事態の収拾は困難な状態にあり、

足立区は、昭和五〇年の日本脳炎予防接種を実施するに際し、

H医師会と対等の立場を主張する被上告人と

右主張に同調しないH医師会との間にあつて、その調整に苦慮した。

 

5 上告人が被上告人の社団法人設立の許可の当否についての

見解を照会したところ、公衆衛生活動に関し支障が生ずることを理由に、

I医師会長、H医師会長は反対の回答をし、

足立区長は好ましくない旨の回答をした。

 

6 上告人は、昭和五〇年九月二五日被上告人に対し、

「被上告人の設立許可申請は、地区医師会の存在する地域において、

会員が混在する状態のままで同一目的の新法人を設立しようとするものであり、

医師会相互の協調ならびに関係機関との間の調整が不十分な状況のもとでは、

地域医療に混乱と障害を生ずるおそれがあるので、認めがたい」

との理由を付したうえ、

社団法人J医師会の設立を許可しないとの本件不許可処分をした。

 

三 右事実関係によれば、東京都及び各区においては、

地区医師会が公衆衛生行政に関する各種事業の実施に広く関与していて、

公衆衛生行政を行ううえで地区医師会の協力を

得ることが不可欠のものとなつているところ、

本件不許可処分当時、b地区では二百数十名の医師の中に

既存のH医師会の会員と被上告人の会員とが混在し、

両者は対立反目し合つていて、話合いによる事態の収拾は困難な状況にあり、

現に足立区は、公衆衛生事業の実施に際し、

両者との関係調整に苦慮したことがあり、そして、

I医師会、H医師会は公衆衛生活動に関する支障を理由に被上告人の

社団法人設立の許可に反対の意向を表明していたのであるから、

このような状況においては、公衆衛生行政の遂行に

責任を有する上告人が、被上告人の社団法人設立を

許可することは地域医療に混乱と障害を

生ずるおそれがあるので相当でないと判断したことに、

主務官庁の立場における判断のあり方として

一応の合理性があることを否定することはできないものといわなければならない。

 

また、他に、上告人の右判断にその裁量権の範囲を超え又は

その濫用があつたとすべき特段の事情は認められない。

 

そうすると、本件不許可処分は、

地域医療の混乱と障害のおそれ等に関する事実上の

根拠に基づかないでされたものであつて、

裁量権の行使を誤つたものであるとした原審の判断には、

公益法人の設立許可に当たつての主務官庁の裁量権に関する

法令の解釈適用を誤つた違法があるものといわなければならず、

右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、

論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

 

そして、原審の適法に確定した事実関係及び右に説示したところによれば、

被上告人の請求は理由がなく、これを棄却すべきことが明らかであるから、

これと同旨の第一審判決は正当であつて、被上告人の控訴は、

これを棄却すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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