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【判例】農地の取得時効と過失 (昭和63年12月6日最高裁)農地の取得時効と過失

(昭和63年12月6日最高裁)

事件番号  昭和59(オ)758

 

最高裁判所の見解

被上告人及びFが、上告人からの贈与に基づき

前記各土地の占有を開始した昭和二二年九月当時においては、

農地の所有権を移転するためには、

農地調整法(昭和二二年法律第二四〇号による改正前のもの)四条、

農地調整法施行令(昭和二三年政令第三五号による改正前のもの)二条の各規定に従い、

地方長官の許可を受けることが必要であつて、

右所有権移転を目的とする法律行為は、

これにつき右許可がない限り、

その効力を生じないとされていたものであり、また、

被上告人が、Eからの死因贈与に基づいて

前記各土地の占有を開始した昭和四三年二月二二日当時及びFから

前記F取得地を買い受けた昭和四五年六月三日当時においても、

農地法(前者の当時は昭和四五年法律第七八号による改正前のもの、

後者の当時は昭和四五年法律第五五号による改正前のもの)三条が、

それぞれ同趣旨(ただし、許可の主体は都道府県知事である。

 

以下、前記農地調整法時代の許可を含め「知事の許可」という。)を

規定していたものである。

 

したがつて、農地の譲渡を受けた者は、

通常の注意義務を尽くすときには、

譲渡を目的とする法律行為をしても、

これにつき知事の許可がない限り、

当該農地の所有権を取得することができないことを

知り得たものというべきであるから、例えば、

譲渡についてされた知事の許可に瑕疵があつて

無効であるが右瑕疵のあることにつき

善意であつた等の特段の事情のない限り、

譲渡を目的とする法律行為をしただけで

当該農地の所有権を取得したと信じたとしても、

そのように信じるにつき過失がないとはいえないものというべきである

(最高裁昭和五八年(オ)第一〇六四号同五九年五月二五日第二小法廷判決・

民集三八巻七号七六四頁参照)。

 

これを、本件についてみるに、原審の確定した前記事実関係によると、

被上告人及びFが上告人から前記各土地の贈与を受けた時点及び

被上告人がEから前記各土地の死因贈与を受けた時点において、

右贈与及び死因贈与につき、

いずれも知事の許可があつたとはいえず、また、

記録に照らすと、被上告人は、原審において、

前示の特段の事情のあることを

主張・立証していないことが明らかであるから、

被上告人及びFが前記の贈与ないし死因贈与を受けたことのみによつて、

前記各土地の所有権を取得したと信じたとしても、

そのように信じるについて過失がなかつたとはいえないものというべきである。

 

したがつて、被上告人及びFに右過失がなかつたとした原審の判断には、

民法一六二条二項の解釈適用を誤つた違法があるものというべきである。

 

そして、本件第一の九、一〇の土地については、

後記の他の本件各土地とは異なり、被上告人が、

民法一六二条一項所定の取得時効をも

援用しているものと認める余地はないものというべきであるから、

前記違法は、判決に影響を及ぼすことが明らかであり、

原判決中、本件第一の九、一〇の土地に

係る請求に関する部分は、破棄を免れない。

 

そして、原審の確定した前記の事実関係及び

右に説示したところによれば、

右部分に係る被上告人の請求は理由がないものというべきであるから、

これを認容した第一審判決を取り消した上、右請求を棄却すべきである。

 

もつとも、本件第一の一ないし三の土地及び

本件第一の五ないし八の土地については、

記録に照らすと、被上告人は民法一六二条一項の取得時効をも

援用しているものと認めるのが相当と解されるところ、

原審の確定した前記の事実関係によると、

被上告人は、本件第一の一ないし三の土地及び本件第一の五、六の土地のうち

F取得地を除いた部分並びに本件第一の七、八の土地については、

昭和二二年九月末日から二〇年を超える期間、所有の意思をもつて、

平穏公然にその占有を継続したものということができるから、

結局、被上告人は、昭和四二年九月末日の経過とともに、

右各土地の所有権を時効により取得したものということができる。

 

そうすると、上告人に対し、本件第一の一ないし

三の土地及び本件第一の七、八の土地について

昭和二二年九月末日時効取得を原因とする

所有権移転登記手続を求める被上告人の本訴請求は、

結局容認することができるものというべきであるから、

右請求を認容すべきものとした原審の判断は、

前記の違法にもかかわらず、結論において

是認することができるものというべきである。

 

ところで、本件第一の五、六の土地のうち

F取得地を除いた部分については、前記の説示に照らし、

被上告人にその所有権の時効取得を肯定すべきものであるとしても、

右土地の範囲が図面等により具体的に特定されていないため、

このままでは、被上告人の本訴請求を

認容することはできないものといわざるをえない。

 

更に、F取得地については、Fが、被上告人を介して、

右期間その占有を継続し、その結果、

土地の所有権を時効により取得したものといえるとしても、

被上告人は、昭和四五年六月三日に右土地をFから買い受けるに当たり、

知事の許可を受けたものとはいえないのであるから、

前記の説示に照らし、その所有権を取得することは

できないものといわなければならない。

 

そうすると、これと異なり、本件第一の五、六の土地に係る

被上告人の請求を認容すべきものとした原審の判断は、

法令の解釈適用を誤つた違法があるものというべきであり、

右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかというべきであるから、

原判決中、本件第一の五、六の土地に係る

請求に関する部分は破棄を免れない。

 

そして、右部分については、前記の説示に照らし、

本訴請求を認容すべき部分と棄却すべき部分とを確定させるため、

更に審理を尽くさせる必要があるから、

本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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