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【判例】金銭の不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任 (平成3年11月19日最高裁)金銭の不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任

(平成3年11月19日最高裁)

事件番号  昭和62(オ)888

 

最高裁判所の見解

前記事実関係によれば、本件約束手形は不渡りとなり

その取立金相当額の普通預金口座への寄託はなかったのであるから、

右取立金に相当する金額の払戻しを受けたことにより、

被上告人は上告人の損失において法律上の原因なしに

同額の利得をしたものである。

 

そして、金銭の交付によって生じた不当利得につき

その利益が存しないことについては、

不当利得返還請求権の消滅を主張する者において

主張・立証すべきところ、本件においては、

被上告人が利得した本件払戻金を

Dに交付したとの事実は認めることができず、

他に被上告人が利得した利益を喪失した旨の

事実の主張はないのである。

 

そうすると、右利益は被上告人に

現に帰属していることになるのであるから、

原審の認定した諸事情を考慮しても、

被上告人が現に保持する利益の返還義務を

軽減する理由はないと解すべきである。

 

なお、原審が仮定的に判断するように、

被上告人が本件払戻金を直ちにDに交付し、

当該金銭を喪失したとの被上告人の主張事実が

真実である場合においても、

このことによって被上告人が利得した

利益の全部又は一部を失ったということはできない。

 

すなわち、善意で不当利得をした者の返還義務の範囲が

利益の存する限度に減縮されるのは、

利得に法律上の原因があると信じて利益を失った者に

不当利得がなかった場合以上の不利益を

与えるべきでないとする趣旨に出たものであるから、

利得者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅は、

返還義務の範囲を減少させる理由とはならないと解すべきところ、

本件においては、被上告人は本件払戻しの

約三時間後に上告人から払戻金の返還請求を受け

右払戻しに法律上の原因がないことを認識したのであるから、

この時点での利益の存否を検討すべきこととなる。

 

ところで、被上告人の主張によれば、Dに対する

本件払戻金の交付は本件約束手形の取立委任を

原因とするものであったというのであるから、

本件約束手形の不渡りという事実によって、

被上告人はDに対して交付金相当額の

不当利得返還請求債権を取得し、被上告人は

右債権の価値に相当する利益を有していることになる。

 

そして、債権の価値は債務者の資力等に左右されるものであるが、

特段の事情のない限り、その額面金額に

相当する価値を有するものと推定すべきところ、

本件においては、Dに対する本件払戻金の

交付の時に右特段の事情があったとの事実、さらに、

被上告人が本件払戻しに法律上の原因がないことを

認識するまでの約三時間の間にDが受領した金銭を喪失し、

又は右金銭返還債務を履行するに足る資力を失った等の事実の主張はない。

 

したがって、被上告人は本件利得に法律上の原因がないことを

知った時になお本件払戻金と同額の利益を有していたというべきである。

 

そうすると、前記事実関係の下において、

被上告人の利得した一七〇〇万円のうち一〇〇〇万円について、

同金額及びこれに対する遅延損害金の

支払請求を棄却した原審の判断には、

民法七〇三条の解釈適用を誤った違法があり、

これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 

したがって、論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、

原判決中上告人の敗訴部分は破棄を免れない。

 

そして、前記説示に照らせば、

右部分の請求を棄却した第一審判決を取り消し、

一〇〇〇万円及びこれに対する履行の請求を受けた日の後である

昭和五九年五月一二日から支払済みまでの年五分の割合による

遅延損害金の支払を求める部分についても

上告人の請求を認容すべきものである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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