約束手形金請求事件
(平成11年6月29日最高裁)
事件番号 平成10(オ)2189
最高裁判所の見解
1 被上告人らは、原因関係の抗弁として、次のように主張した。
(一) 本件手形は、有限会社D建設が、上告人や
その代表者Eらから本件不動産及び本件出資持分を買い受ける本件売買に当たり、
手付金の支払のために振り出して上告人に交付したもので、
被上告人らは、その支払を保証する目的で本件裏書をしたものである。
(二) 本件売買には、D建設が代金支払のために環境事業団から
融資を得られたときに初めて
その効力を生ずるとの停止条件が付されており、
これが成就していないから、本件裏書は原因関係を欠く。
(三) 停止条件ではなく、右融資が得られないときに
本件売買の効力を失わせる旨の解除条件であるとしても、
D建設は環境事業団から融資を拒絶され、その条件が成就した。
2 これに対し、上告人は、再抗弁として、
D建設は、故意に環境事業団から融資を得られないようにしたから、
(一) 故意に停止条件の成就を妨害したか、又は
(二) 故意に解除条件を成就させたものであると主張した。
三 条件の成就によって利益を受ける
当事者が故意に条件を成就させたときは、
民法一三〇条の類推適用により、
相手方は条件が成就していないものとみなすことができる
(最高裁平成二年(オ)第二九五号同六年五月三一日第三小法廷判決・
民集四八巻四号一〇二九頁)。
したがって、上告人の右二2(二)の主張(解除条件の成就作出)は、
被上告人らの同1(三)の抗弁(解除条件の成就)に対する
再抗弁となるべきものである。
四 ところが、原判決は、停止条件の不成就と解除条件の成就を
いずれも抗弁として摘示しながら、再抗弁としては、
停止条件の成就妨害のみを摘示し、
解除条件の成就作出を摘示していない。
しかも、原審は、本件売買は解除条件が成就し無効となったから、
本件裏書は原因関係を欠くに至ったとして、
解除条件成就の抗弁を入れながら、
解除条件の成就作出については何らの判断も加えないで、
上告人の請求を棄却した。
右によれば、原判決には、判決に影響を及ぼすべき
重要な事項について判断を遺脱した違法があるといわなければならない。
五 しかしながら、原判決の右違法は、民訴法三一二条二項六号により
上告の理由の一事由とされている
「判決に理由を付さないこと」(理由不備)に
当たるものではない。
すなわち、いわゆる上告理由としての理由不備とは、
主文を導き出すための理由の全部又は一部が
欠けていることをいうものであるところ、
原判決自体はその理由において論理的に完結しており、
主文を導き出すための理由の全部又は
一部が欠けているとはいえないからである。
したがって、原判決に所論の指摘する判断の遺脱があることは、
上告の理由としての理由不備に当たるものではないから、
論旨を直ちに採用することはできない。
しかし、右判断の遺脱によって、
原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反が
あるものというべきであるから(民訴法三二五条二項参照)、
本件については、原判決を職権で破棄し、
更に審理を尽くさせるために事件を
原裁判所に差し戻すのが相当である。
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