名誉毀損の行為者が刑事第一審の判決を資料として事実を適示した場合と右事実を真実と信ずるについての相当の理由

(平成11年10月26日最高裁)

事件番号  平成9(オ)411

 

 

最高裁判所の見解

民事上の不法行為たる名誉毀損については、

その行為が公共の利害に関する事実に係り、

その目的が専ら公益を図るものである場合には、

摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば、

右行為は違法性がなく、また、真実であることの証明がなくても、

行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、

右行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しない

(最高裁昭和三七年(オ)第八一五号同四一年六月二三日第一小法廷判決・

民集二〇巻五号一一一八頁、最高裁昭和五六年(オ)第二五号

同五八年一〇月二〇日第一小法廷判決・裁判集民事一四〇号一七七頁参照)。

 

そして、刑事第一審の判決において

罪となるべき事実として示された犯罪事実、

量刑の理由として示された量刑に関する事実その他

判決理由中において認定された事実について、

行為者が右判決を資料として右認定事実と同一性のある事実を

真実と信じて摘示した場合には、右判決の認定に疑いを入れるべき

特段の事情がない限り、後に控訴審においてこれと

異なる認定判断がされたとしても、摘示した事実を真実と信ずるについて

相当の理由があるというべきである。

 

けだし、刑事判決の理由中に認定された事実は、

刑事裁判における慎重な手続に基づき、裁判官が証拠によって

心証を得た事実であるから、行為者が右事実には

確実な資料、根拠があるものと受け止め、

摘示した事実を真実と信じたとしても

無理からぬものがあるといえるからである。

 

これを本件についてみるに、

上告人は、刑事第一審判決の言渡後、控訴審において

これが覆される前に、右判決を資料として、

摘示された事実を真実と信じてGの文章(2)を執筆したものである。

 

そして、甲の部分に摘示された事実は、

第一審判決が業務上横領に該当するとして有罪とした事実、

丙の部分に摘示された事実は、

右判決の量刑の理由の中に記載された事実である。

 

また、乙の部分は、Gの文章(3)には、

妻との海外旅行の支度金を会社に負担させた行為は

第一審において無罪とされたことがおおむね正確に

記述されているという前後の文脈やその記載内容を考慮すると、

被上告人B1が、刑事裁判では無罪とされたものの公私混同と

非難されるような態様で、妻との海外旅行の支度金を会社に

負担させたとの事実を摘示するものと解するのが相当である。

 

そして、第一審判決が、被上告人B1が妻を同伴して

海外に出張した際、正規の支度金の外に支度金名目で

会社から金員を受領したとの外形的事実の存在と

これが会社の内規に反する交際費資金の不当な流用であると

認定していることからすると、判決の認定した右事実と

乙の部分に摘示された事実との間に同一性があるとみて

差し支えはないというべきである。

 

右のとおり、Gの文章(2)に摘示された事実と

刑事判決の認定事実との間には、

同一性があると解され、前記特段の事情の存在が

うかがわれない本件においては、上告人が

摘示された事実を真実と信ずるについて

相当の理由があるというべきであり、

このことは、上告人が刑法学者で、第一審判決に対して

控訴がされたことを知っていたとしても異なるところはない。

 

なお、摘示した事実が第一審判決にのっとったものであることを

読者が容易に知ることができるよう

記載しておくことが望ましかったとはいえようが、

そのことは右の結論を左右するものではない。

 

右のとおり、Gの文章(2)については、

上告人に故意又は過失が認められないから、

名誉毀損による不法行為は成立しないというべきである。

 

右文章につき不法行為の成立を認めた原判決の判断には、

法令の解釈適用を誤った違法があり、

この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

論旨は理由がある。

 

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