不法行為を原因として心神喪失の常況にある被害者の損害賠償請求権と民法724条後段の除斥期間

(平成10年6月12日最高裁)

事件番号  平成5(オ)708

 

最高裁判所の見解

1 民法七二四条後段の規定は、不法行為による

損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、

不法行為による損害賠償を求める訴えが

除斥期間の経過後に提起された場合には、

裁判所は、当事者からの主張がなくても、除斥期間の経過により

右請求権が消滅したものと判断すべきであるから、

除斥期間の主張が信義則違反又は権利濫用であるという主張は、

主張自体失当であると解すべきである

(最高裁昭和五九年(オ)第一四七七号平成元年一二月二一日第一小法廷判決・

民集四三巻一二号二二〇九頁参照)。

 

2 ところで、民法一五八条は、時効の期間満了前六箇月内において

未成年者又は禁治産者が法定代理人を有しなかったときは、

その者が能力者となり又は法定代理人が就職した時から

六箇月内は時効は完成しない旨を規定しているところ、

その趣旨は、無能力者は法定代理人を有しない場合には

時効中断の措置を執ることができないのであるから、

無能力者が法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を

認めるのは無能力者に酷であるとして、

これを保護するところにあると解される。

 

これに対し、民法七二四条後段の規定の趣旨は、

前記のとおりであるから、右規定を字義どおりに解すれば、

不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する

前六箇月内において心神喪失の常況にあるのに後見人を有しない場合には、

右二〇年が経過する前に右不法行為による

損害賠償請求権を行使することができないまま、

右請求権が消滅することとなる。

 

しかし、これによれば、その心神喪失の常況が

当該不法行為に起因する場合であっても、被害者は、

およそ権利行使が不可能であるのに、

単に二〇年が経過したということのみをもって

一切の権利行使が許されないこととなる反面、心神喪失の原因を与えた加害者は、

二〇年の経過によって損害賠償義務を免れる結果となり、

著しく正義・公平の理念に反するものといわざるを得ない。

 

そうすると、少なくとも右のような場合にあっては、

当該被害者を保護する必要があることは、

前記時効の場合と同様であり、

その限度で民法七二四条後段の効果を

制限することは条理にもかなうというべきである。

 

したがって、不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を

経過する前六箇月内において右不法行為を原因として

心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、

その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者が

その時から六箇月内に右損害賠償請求権を行使したなど

特段の事情があるときは、民法一五八条の法意に照らし、

同法七二四条後段の効果は生じないものと解するのが相当である。

 

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