一個の宣誓に基づき同一の証人尋問手続においてされた数個の虚偽の陳述の罪数
(平成4年9月18日最高裁)
事件番号 昭和61(あ)1297
最高裁判所の見解
1 記録によれば、A株式会社(以下「B」という)代表取締役であった
被告人は、昭和五一年二月一六日及び同年三月一日、
衆議院予算委員会において、Bにおける航空機採用の経緯等に関して
証人として出頭を求められ、同年六月一八日、同委員会から
その証人尋問の際偽証したとして告発されたこと、
同委員会の告発状には、右両日にされた、
被告人の前任者であるCとD社との間に航空機の発注に関する
オプションがあったことは知らなかった旨の陳述
(以下「Cオプション関係の陳述」という)は摘示されているが、
右二月一六日にされた、BがE社から正式の契約によらないで
現金を受領してこれを簿外資金としたことはない旨の
陳述(以下「簿外資金関係の陳述」という)は
摘示されていないにもかかわらず、
検察官はCオプション関係の陳述のほか簿外資金関係の陳述についても
公訴を提起したこと、第一審判決は本件告発の効力は
簿外資金関係の陳述についても及ぶものとし、
原判決もこれを是認したこと、が認められる。
2 所論は、本件偽証罪に関する公訴提起の範囲は
告発者の明示の意思に従うのが相当であるところ、
本件簿外資金関係の陳述部分については、
意識して告発状の記載から除外されたものとみるべきであるから、
前記委員会の告発がなく、訴訟条件を
欠くものとして公訴を棄却すべきであるのに、
これを否定した原判決の見解は、刑訴法上の原則にすぎない
いわゆる告発不可分の原則を議院証言法に基づく
議院等の告発についてまで適用し、
国会の自律権を侵害するものである旨主張する。
3 しかしながら、議院証言法六条一項の偽証罪について
同法八条による議院等の告発が訴訟条件とされるのは、
議院の自律権能を尊重する趣旨に由来するものであること
(最高裁昭和二三年(れ)第一九五一号同二四年六月一日大法廷判決・
刑集三巻七号九〇一頁参照)を考慮に入れても、
議院等の告発が右偽証罪の訴訟条件とされることから
直ちに告発の効力の及ぶ範囲についてまで
議院等の意思に委ねるべきものと
解さなければならないものではない。
議院証言法が偽証罪を規定した趣旨等に照らせば、
偽証罪として一罪を構成すべき事実の一部について
告発を受けた場合にも、右一罪を構成すべき事実のうち
どの範囲の事実について公訴を提起するかは、
検察官の合理的裁量に委ねられ、議院等の告発意思は、
その裁量権行使に当たって考慮されるべきものである。
そして、議院証言法六条一項の偽証罪については、
一個宣誓に基づき同一の証人尋問の手続においてされた数個の陳述は
一罪を構成するものと解されるから
(大審院大正四年(れ)第二八二八号同年一二月六日判決・
刑録二一輯二〇六八頁、大審院昭和一五年(れ)第一二九八号
同一六年三月八日判決・刑集二〇巻五号一六九頁参照)、
右の数個の陳述の一部分について議院等の告発がされた場合、
一罪を構成する他の陳述部分についても
当然に告発の効力が及ぶものと解するのが相当である。
したがって、本件告発の効力がCオプション関係の陳述のみならず
簿外資金関係の陳述についても及ぶとした原判断は、
結論において正当である。
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