不当労働行為救済命令取消

(平成6年12月20日最高裁)

事件番号  平成3(行ツ)155

 

最高裁判所の見解

1 本件各懲戒処分関係

(一)事実関係の下において、

本件ビラ配布は、許可を得ないで被上告人の

学校(a校)内で行われたものであるから、

形式的には就業規則一四条一二号所定の禁止事項に該当する。

 

しかしながら、右規定は被上告人の学校内の職場規律の維持及び

生徒に対する教育的配慮を目的としたものと解されるから、

ビラの配布が形式的にはこれに違反するようにみえる場合でも、

ビラの内容、ビラ配布の態様等に照らして、

その配布が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、また、

生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない

特別の事情が認められるときは、実質的には右規定の違反になるとはいえず、

したがって、これを理由として就業規則所定の懲戒処分をすることは

許されないというべきである(最高裁昭和四七年(オ)第七七七号

同五二年一二月一三日第三小法廷判決・民集三一巻七号九七四頁参照)。

 

右の見地に立って本件ビラ配布について検討すると、

本件各ビラは、いずれも職場ニュースと題する

上告参加人の機関紙であるところ、

本件各ビラの内容は、香川県下の私立学校における

労使間の賃金交渉の妥結額(五月八日配布のもの)、

被上告人との間で予定されていた団体交渉の議題(同月九日配布のもの)、

右団体交渉の結果(同月一六日配布のもの)など、

上告参加人の労働組合としての日ごろの活動状況及び

これに関連する事項であって、違法不当な行為をあおり又は

そそのかす等の内容を含むものではない。

 

また、本件ビラ配布の態様をみると、

本件ビラ配布はa校の職員室内において行われたものではあるが、

いずれも、就業時間前に、ビラを二つ折りにして

(特に五月八日及び一六日配布の片面印刷のものは、

印刷面を内側にして)教員の机の上に置くという方法でされたものであって、

本件ビラ配布によって業務に支障を来したことを窺わせる事情はない。

 

また、生徒に対する教育的配慮という観点からすれば、

ビラの内容が労働組合としての

通常の情報宣伝活動の範囲内のものであっても、

学校内部における使用者と教職員との対立にかかわる事柄を

みだりに生徒の目に触れさせるべきではないということもできるが、

本件ビラ配布は、始業時刻より一五分以上も前の、

通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯に行われたものであって、

前記の教育的配慮という一般的見地を余りに強調するのは、

本件事案の実情にそぐわない。

 

したがって、本件ビラ配布については、

学校内の職場規律を乱すおそれがなく、

また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない

特別の事情が認められるものということができ、

本件各懲戒処分は、懲戒事由を定める就業規則上の

根拠を欠く違法な処分というべきである。

 

そして、校内での組合活動を一切否定する等の

被上告人側の前示組合嫌悪の姿勢、

本件各懲戒処分の経緯等に徴すれば、

本件各懲戒処分は被上告人の不当労働行為意思に基づくものというほかなく、

本件各懲戒処分は、労働組合法七条一号及び

三号の不当労働行為を構成するものというに帰する。

 

(二) 以上により、本件各懲戒処分につき不当労働行為の成立を

否定した原判決には、労働組合法七条一号及び

三号の解釈適用を誤った違法があり、

右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、

原判決は、この点において破棄を免れず、

被上告人からの本件救済命令(一)の取消請求を棄却した

第一審判決は正当であるから、

被上告人の控訴はこれを棄却すべきである。

 

2 団体交渉拒否関係

(一) 前記事実関係によれば、組合掲示板の設置の承認を求める

上告参加人の要求に対する被上告人側の対応は、

校内で生徒の目に触れないところはおよそ存在しないし、また、

組合掲示板にどのような掲示がされても被上告人は

これに介入することができないから許可に踏み切れないなどという

一方的かつ原則論的な主張に終始して、

交渉事項についての実質的な検討に入ろうとしないものであって、

上告参加人との合意達成の意思を最初から有していないに

等しいとの非難を免れないであろう。

 

組合掲示板が校舎内に設置されるものであるからといって、

生徒に対する教育的配慮の観点から

一切これが認められないということにはならないのであって、

被上告人としては、そのために必要と考えられる規制について

上告参加人との間で種々の話合いをするのが、

労使間のあり方として当然の要請というべきである。

 

また、被上告人が組合掲示板の設置を認めたb校労働組合との関係で、

掲示されたビラの記事内容が労使紛争の原因となったことがあるとしても、

だからといって、それが組合掲示板の設置を求める

上告参加人との団体交渉を拒否する

正当な理由となり得ないことはいうまでもないところである。

 

したがって、被上告人の団体交渉の拒否は、

正当な理由を欠くものとして、

労働組合法七条二号の不当労働行為を構成するものというに帰する。

 

(二) 以上のとおり、団体交渉の拒否につき

不当労働行為の成立を否定した原判決には、

労働組合法七条二号の解釈適用を誤った違法があり、

右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであって、

原判決は、この点において破棄を免れず、

被上告人からの本件救済命令(二)の取消請求を棄却した

第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴はこれを棄却すべきである。

 

3 学級担任の不選任関係

(一) a校において、中学又は

高校の一、二年の学級担任に選任されていた教員は、

特別の事情のない限り、次年度には進級後の

学年の学級担任に選任されるものとされており、

学級担任に選任されないことは、a校の教員間の一般的認識の上で、

学級担任としての適格性に消極的評価が

示されたという受止め方がされていたことを窺うことができる。

 

そして、昭和五十一、二年度を通じて被上告人によって

Fの数学の授業進度の遅れが問題にされたことがなく、

昭和五三年度の校務分掌の決定において中学三年の

数学を担当させないこととされた後も

Fを他の学年の数学の担当に充てるものとされていること、

昭和五十二、三年度において、前年度に学級担任をしていて

次年度に学級担任に選任されなかった者は、

中学三年の学級担任であった者一名を除き全員が

上告参加人の組合員であり、反対に、

前年度に学級担任でなかったのに新たに

学級担任に選任された者は、全員が上告参加人の

組合員以外の者であったこと、

Fが上告参加人の執行委員となり団体交渉の交渉委員に就任するなどして

積極的に組合活動に従事していたこと等の事情に徴すれば、

他に特段の事情の認められない本件においては、

被上告人がFを中学三年の学級担任に選任しなかったのは、

不利益取扱いとして、Fの組合活動を嫌悪する

不当労働行為意思に基づくものといわざるを得ず、

被上告人がFを学級担任に選任しなかった行為は、

労働組合法七条一号の不当労働行為を構成するものというに帰する

 

4 退職勧奨関係

(一) 上告人及び上告参加人は、本訴において、

H理事長は、上告参加人の組合員であるGに対し、

(1) 昭和五二年一月二〇日、(2) J某を介して

同年七月八日、(3) 昭和五五年七月一六日、

(4) 昭和五六年三月一九日の四回にわたって退職勧奨をしたが、

これら退職勧奨は、いずれも被上告人の職員から

Gを排除して上告参加人の運営を支配し

これに介入しようとするもので、上告参加人に対する

不当労働行為に当たる旨の主張をしている。

 

そして記録によれば、前記(1)ないし(4)の退職勧奨につき、

第一審における被上告人代表者I本人の供述及び証人Gの

証言等、上告人及び上告参加人の主張に副うものが存在し、

これに基づいて第一審は、右(1)ないし(4)の

退職勧奨が支配介入として不当労働行為に当たるとし、

本件救済命令(四)を是として被上告人の本訴請求を排斥したことが

記録上明らかである。

 

しかるに原審は、右の経緯及び証拠の存在にもかかわらず、

上告人及び上告参加人主張の(1)ないし(4)の

退職勧奨につき何ら判断を示すことなく、

これと全く時点を異にする

(ア)昭和五三年三月ころ及び

(イ)同五五年四月八日の退職勧奨を認定した上、

それが不当労働行為意思に基づくものでないとの理由で、

本件救済命令(四)を違法とし、被上告人の請求を排斥した

第一審判決を取り消すべきものとしたのである。

 

右は本件救済命令申立て以来の経過を無視して

当事者の主張(争点)につき判断を示さないまま

被上告人の請求を認容したもので、

審理不尽、理由不備、判断遺脱の違法を冒したことが明らかである。

 

(二) 原判決はこの点において破棄を免れず、

本件救済命令(四)の点につき改めて審理させるため、

本件を原審に差し戻すこととする。

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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