不正競争防止法2条1項1号といわゆる広義の混同を生じさせる行為

(平成10年9月10日最高裁)

事件番号  平成7(オ)637

 

最高裁判所の見解

旧不正競争防止法(平成五年法律第四七号による改正前のもの。

以下、これを「旧法」といい、右改正後のものを「新法」という。)一条一項二号に規定する

「混同ヲ生ゼシムル行為」とは、他人の周知の営業表示と

同一又は類似のものを使用する者が自己と右他人とを

同一営業主体として誤信させる行為のみならず、

両者間にいわゆる親会社、子会社の関係や系列関係などの

緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を

営むグループに属する関係が存すると

誤信させる行為(以下「広義の混同惹起行為」という。)をも包含し、

混同を生じさせる行為というためには

両者間に競争関係があることを要しないと解すべきことは、

当審の判例とするところである(最高裁昭和五七年(オ)

第六五八号同五八年一〇月七日第二小法廷判決・

民集三七巻八号一〇八二頁、

最高裁昭和五六年(オ)第一一六六号同五九年五月二九日第三小法廷判決・

民集三八巻七号九二〇頁)。

 

本件は、新法附則二条により新法二条一項一号、三条一項、四条が

適用されるべきものであるが、新法二条一項一号に規定する

「混同を生じさせる行為」は、右判例が旧法一条一項二号の

「混同ヲ生ゼシムル行為」について判示するのと同様、

広義の混同惹起行為をも包含するものと解するのが相当である。

 

けだし、(一)旧法一条一項二号の規定と新法二条一項一号の規定は、

いずれも他人の周知の営業表示と同一又は類似の営業表示が

無断で使用されることにより周知の営業表示を使用する

他人の利益が不当に害されることを防止するという点において、

その趣旨を同じくする規定であり、

(二)右判例は、企業経営の多角化、同一の表示の商品化事業により

結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業を

取り巻く経済、社会環境の変化に応して、

周知の営業表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、

広義の混同惹起行為をも禁止することが

必要であるというものであると解されるところ、

このような周知の営業表示を保護する必要性は、

新法の下においても変わりはなく、

(三)新たに設けられた新法二条一項二号の規定は、

他人の著名な営業表示の保護を旧法よりも徹底しようとするもので、

この規定が新設されたからといって、

周知の営業表示が保護されるべき場合を限定的に

解すべき理由とはならないからである。

 

これを本件についてみると、被上告人の営業の内容は、

その種類、規模等において現にシャネル・グループの営む営業とは異なるものの、

「シャネル」の表示の周知性が極めて高いこと、

シャネル・グループの属するファッション関連業界の企業においても

その経営が多角化する傾向にあること等、

本件事実関係の下においては、被上告営業表示の使用により、

一般の消費者が、被上告人とシャネル・グループの

企業との間に緊密な営業上の関係又は同一の商品化事業を営む

グループに属する関係が存すると誤信するおそれがあるものということができる。

 

したがって、被上告人が上告人の営業表示である「シャネル」と

類似する被上告人営業表示を使用する行為は、

新法二条一項一号に規定する「混同を生じさせる行為」に当たり、

上告人の営業上の利益を侵害するものというべきである。

 

四 そうすると、原判決中、これと異なる判断の下に、

被上告人営業表示に関する上告人の使用差止め及び

損害賠償の請求を棄却すべきものとした部分には、

法令の解釈適用を誤った違法があり、

この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

この点に関する論旨は理由があり、

その余の上告理由につき判断するまでもなく、

原判決中、右請求に関する部分は破棄を免れない。

 

そして、以上の説示によれば、第一審判決中、

被上告人営業表示の使用差止請求を認容した部分は正当であるから、

被上告人の附帯控訴はこれを棄却すべきであり、

右表示に係る損害賠償請求に関する部分については、

損害額について更に審理を尽くさせる必要があるから、

本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

また、被上告人営業表示を除くその余の表示は、

被上告人が現に使用しているものではなく、

これが使用されるおそれについての主張立証もないので、

原判決中、右表示に関する請求を棄却すべきものとした部分は、

結論において正当であるから、

 

上告人のその余の上告を棄却することとする。

 

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