不法行為に基づく損害賠償請求訴訟の係属による不当利得返還請求権の消滅時効の中断

(平成10年12月17日最高裁)

事件番号  平成6(オ)857

 

最高裁判所の見解

1 被上告人らと上告人Aは、いずれも昭和五〇年八月二日に死亡した

Dの相続人である。

上告人Aは、昭和四八年一〇月一日から昭和五〇年七月一六日までの間に、

Dが株式会社E相互銀行F支店の同人名義の貸金庫内に

保管していた同人所有の銀行預金証書、株券等の全部をひそかに持ち出した上、

順次預金の払戻しを受け、あるいは株券を売却して、

払戻金や株券売却代金を着服した。

 

2 D及び被上告人Bは、昭和五〇年七月一六日、

上告人Aが右貸金庫内のD所有の預金証書、株券等の

全部を持ち出していることを知り、同上告人に対し、

持ち出した預金証書等を返還するよう求めたが、これを拒まれた。

 

同上告人は、D死亡後にされた遺産分割協議の席上でも、

持ち出した財産の内容や処分の全容等を秘匿して明かさなかった。

 

3 被上告人らは、昭和五八年六月六日、上告人Aを被告として

本件訴訟を提起し、同上告人が着服した

預金払戻金及び株券(E相互銀行の株券を除く。)の売却代金相当額につき、

被上告人らの相続分に応じた損害賠償を請求するとともに、

E相互銀行の株券につき、同上告人がいまだ売却せずに所持しているものと考えて、

共有物の保管者である被上告人Bへの引渡し等を請求した。

 

4 被上告人らは、

昭和六三年四月一四日の第一審口頭弁論期日において、

前記E相互銀行の株券は既に上告人Aにより売却されていることが判明したとして、

引渡し等の請求を右株券の売却時における価額相当額についての

被上告人らの相続分に応じた損害賠償請求に変更した。

 

5 また、被上告人らは、

同年一一月三〇日の第一審口頭弁論期日において、

上告人Aによる預金払戻金及び前記各株券売却代金の着服を理由とする

不当利得返還請求を追加した上、

平成元年二月一五日の第一審口頭弁論期日において、

従前の損害賠償請求の訴えを取り下げた。

 

6 その後の第一審口頭弁論期日において、上告人Aは、抗弁として、

被上告人らが追加した不当利得返還請求については、

被上告人らが貸金庫内からの預金証書等の持出事実を知った日である

前記昭和五〇年七月一六日から一〇年の時効期間の経過により、

右請求を追加する以前に消滅時効が完成している旨主張し、

時効を援用した。

 

二 1 右事実関係の下においては、

被上告人らが追加した不当利得返還請求は

上告人Aが預金払戻金及び株券売却代金を

不当に着服したと主張する点において、

昭和五八年六月六日に提起した本件訴訟の訴訟物である

不法行為に基づく損害賠償請求と

その基本的な請求原因事実を同じくする請求であり、また、

同上告人が不法に着服した預金払戻金及び株券売却代金につき

被上告人らの相続分に相当する金額の返還を請求する点において、

前記損害賠償請求と経済的に同一の給付を目的とする

関係にあるということができるから、

前記損害賠償を求める訴えの提起により、

本件訴訟の係属中は、右同額の着服金員相当額についての

不当利得返還を求める権利行使の意思が継続的に

表示されているものというべきであり、

右不当利得返還請求権につき催告が

継続していたものと解するのが相当である。

 

そして、被上告人らが第一審口頭弁論期日において、

右不当利得返還請求を追加したことにより、

右請求権の消滅時効につき中断の効力が

確定的に生じたものというべきである。

 

また、前判示のとおり、上告人Aが持ち出した

前記E相互銀行の株券を既に売却していたことを秘匿していたため、

被上告人らは、当初、同上告人が右株券を所持しているものとして

右株券の引渡し等を求める訴えを提起したものであって、

その時点で右株券が売却されていることを知っていれば、

訴え提起時に他の株券と同様、相続分に応じた

売却代金相当額の損害賠償請求権を

行使する意思を有していたことは明らかというべきである。

 

したがって、被上告人らのした右株券の引渡し等の請求には、

被上告人らの当該株券売却代金相当額の損害賠償又は

不当利得の返還を求める権利行使の意思が表れていたとみることができるから、

本件訴訟の係属中、右不当利得返還請求についても

催告が継続していたものと解するのが相当であり、

その後の口頭弁論期日において被上告人らが

不当利得返還請求を追加したことにより、

右請求権の消滅時効につき中断の効力が

確定的に生じたものと解すべきである。

 

2 原審は、被上告人Bが本訴を提起したのが

昭和五八年六月六日であり、不当利得返還請求権の消滅時効は

本訴の提起により中断したというべきであるとして、

上告人Aの消滅時効の抗弁を排斥したものであるが、

右に判示したところによれば、原審の右判断は

正当として是認することができる。

 

原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク