事業協同組合の「専務理事は理事長が欠員のときはその職務を行う」旨の定款
(平成5年3月2日最高裁)
事件番号 昭和63(オ)1241
最高裁判所の見解
1 被上告人の定款の定めによれば、
被上告人の役員の定数は、理事四人、監事一人で、
理事のうち一名を代表理事、一名を専務理事とし、
理事会で選任すること、役員の任期はいずれも二年で、
理事又は監事の全員が任期満了前に退任した場合に
新たに選挙された役員の任期も二年であること、
補欠のため選挙された役員の任期は
現任者の残任期間であることが明らかであるから
(なお、理事の任期とは別に代表理事又は
専務理事の任期は定められていない。)、被上告人においては、
代表理事も、専務理事も、他の理事も、
その全員につき同時に任期が満了することが
予定されているものということができる。
そして、原審の確定した前記の事実関係によれば、
Dの後任理事を選出するための総会は
開催されていないというのであるから、Eについても、
他の理事についても、その後任理事を選出するための総会は
開催されていないことになる。
したがって、代表理事のDの理事の任期が満了したのと同時に、
専務理事のEも、他の理事も、
いずれもその任期が満了していたものといわなければならない。
2 他方、中小企業等協同組合法の規定によれば、
事業協同組合の理事は、任期満了又は辞任によって退任した場合には、
後任の理事が選出されるまでの間、なお理事としての権利義務を有し、
代表理事についても、後任の代表理事が選出されるまでの間、
なお代表理事としての権利義務を有するとされているところ
(四二条、商法二五八条一項、二六一条三項)、被上告人においては、
任期満了又は辞任によって役員の員数が
定款所定の前記定数を欠くことになるため、
右の規定を受けて、被上告人の定款には、
任期満了又は辞任によって退任した役員は、
新たに選挙された役員が就任するまで、
なお役員の職務を行うと定められている。
3 被上告人の定款に代行規定があることは
原審の判示するとおりであるが、
代行規定は、代表理事が欠員の場合のほか、
代表理事及び専務理事がいずれも欠員の場合も予定し、
この場合には、「理事会で、理事のうちからその…代行者一人を定める。」
と定められているのであって、被上告人の理事の員数及び
任期に関する前記定款の定め及び任期満了又は
辞任によって退任した理事の権利義務に関する前記法の規定を併せ考えると、
右の代行規定にいう代表理事あるいは専務理事の欠員には、
当該理事が任期満了によって退任したにすぎない場合は
含まないと解するのが相当である。
けだし、代行規定の適用上、代表理事の欠員と
専務理事の欠員とを別異に解すべき理由はなく、
任期満了による退任を欠員に当たるとすれば、
被上告人においては、代表理事も、専務理事も、
他の理事も、いずれも欠員となるので、
代行規定を適用する前提を欠き、定款に代行規定を設けた意味が失われる上、
この場合には、そもそも退任した理事がなお理事としての
職務を行うことが予定されていると解されるからである。
したがって、代表理事が任期満了によって退任した後、
専務理事が代行規定に基づき代表理事の職務を行い得るのは、
代表理事が退任後に死亡その他の事由によって
代表理事としての職務を行い得ない特段の事情が
ある場合に限られるというべきである。
五 そうすると、Dは、理事としての任期が満了した後も、
後任の理事が選出されて代表理事に就任するまでの間、
なお被上告人の代表理事としての権利義務を有していたところ、
何ら右特段の事情のうかがわれない本件においては、
専務理事のEが代行規定に基づき代表理事の職務を行い得る余地はなく、
Eに甲総会の招集権限はなかったものといわなければならない。
そして、Eに甲総会の招集権限がない以上、
甲総会の決議は法律上不存在というほかなく、したがって、
甲総会において理事に選出されて代表理事に
就任したというGが招集した乙総会の決議も、次いで、
乙総会で理事に選出されて代表理事に就任したというHが
招集した丙総会の決議も、
いずれも法律上存在しないことになるから
(最高裁昭和六〇年(オ)第一五二九号平成二年四月一七日第三小法廷判決・
民集四四巻三号五二六頁参照。なお、本件においては、
乙総会も、丙総会も、いわゆる全員出席総会に当たらないことが
明らかである。)、丙総会においてされたとする
上告人の除名決議も、その効力を生ずるに由ないものというべきである。
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