人の容ぼう,姿態を描写したイラスト画を公表する行為と不法行為の成否

(平成17年11月10日最高裁)

事件番号  平成15(受)281

 

(1) みだりに自己の容ぼう等を撮影され,

これを公表されない人格的利益は,被撮影者が

刑事事件の被疑者や被告人であっても法的に保護され,

本件写真の撮影及び本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載は,

被上告人の上記法的に保護された利益である肖像権を侵害する。

 

ある取材,報道行為が他者の肖像権を侵害する結果となる場合であっても,

当該取材,報道行為が公共の利害に関する事項にかかわり,

専ら公益を図る目的でされ,当該取材,報道の手段方法が

その目的に照らして相当であるという要件を満たすときには,

その行為の違法性が阻却される。これらの要件については,

個別にその有無を判断するだけでなく,

その程度を勘案して総合的に判断すべきである。

 

本件写真の撮影及び本件第1記事の掲載は,

公共の利害に関する事項にかかわり,

専ら公益を図る目的でされたと認められる。

 

しかし,本件写真の撮影方法は相当性を欠き,また,

本件第1記事には,被上告人が手錠をされ,

腰縄を付けられた状態であることを殊更指摘する記載があるなど,

本件第1記事の説明文も相当性を欠くから,

本件写真の撮影及び本件第1記事の掲載の違法性が阻却されるものではない。

 

よって,上告会社及び上告人A2は,被上告人に対し,

本件写真の撮影及び本件写真を含む

本件第1記事の本件写真週刊誌への掲載につき損害賠償責任を負う。

 

(2) 個人の容ぼう等を描写する手段が写真であるか

イラスト画であるかは肖像権侵害の有無を決定する本質的問題とはいえず,

イラスト画に描かれた容ぼう等がある特定の人物のものであると

容易に判断することができるときには,当該イラスト画は,

その個人の肖像権を侵害する。本件イラスト画は,

被上告人の容ぼう等をとらえたものと容易に判断することができるから,

被上告人の肖像権を侵害するものである。

 

本件第2記事は,公共の利害に関する事項にかかわるものではあるが,

これを全体として見た場合,被上告人が第1事件の訴えを提起した事実を

やゆする意図に出たものであって,

本件第2記事の本件写真週刊誌への掲載が

専ら公益を図る目的でされたとは認められず,

本件イラスト画による肖像権侵害の違法性が阻却されるものではない。

 

本件イラスト画は被上告人の肖像権を侵害するものであり,

本件第2記事の文章は,被上告人を侮辱し,

又はその名誉を毀損するものであるから,

上告人らは,被上告人に対し,本件イラスト画を含む

本件第2記事の本件写真週刊誌への掲載につき損害賠償責任を負う。

 

3 しかしながら,

原審の上記判断(1)は結論において是認することができるが,

同(2)は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 

(1)人は,みだりに自己の容ぼう等を

撮影されないということについて法律上保護されるべき

人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号

同44年12月24日大法廷判決・

刑集23巻12号1625頁参照)。

 

もっとも,人の容ぼう等の撮影が

正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,

ある者の容ぼう等をその承諾なく

撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,

被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,

撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,

被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を

超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。

 

また,人は,自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに

公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり,

人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,

その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,

被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,

違法性を有するものというべきである。

 

これを本件についてみると,前記のとおり,

被上告人は,本件写真の撮影当時,

社会の耳目を集めた本件刑事事件の被疑者として拘束中の者であり,

本件写真は,本件刑事事件の手続での

被上告人の動静を報道する目的で撮影されたものである。

 

しかしながら,本件写真週刊誌のカメラマンは,

刑訴規則215条所定の裁判所の許可を受けることなく,

小型カメラを法廷に持ち込み,

被上告人の動静を隠し撮りしたというのであり,

その撮影の態様は相当なものとはいえない。

 

また,被上告人は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の

容ぼう等を撮影されたものであり,

このような被上告人の様子をあえて

撮影することの必要性も認め難い。

 

本件写真が撮影された法廷は

傍聴人に公開された場所であったとはいえ,

被上告人は,被疑者として出頭し在廷していたのであり,

写真撮影が予想される状況の下に任意に

公衆の前に姿を現したものではない。

 

以上の事情を総合考慮すると,本件写真の撮影行為は,

社会生活上受忍すべき限度を超えて,

被上告人の人格的利益を侵害するものであり,

不法行為法上違法であるとの評価を免れない。

 

そして,このように違法に撮影された本件写真を,

本件第1記事に組み込み,

本件写真週刊誌に掲載して公表する行為も,

被上告人の人格的利益を侵害するものとして,

違法性を有するものというべきである。

 

(2) 人は,自己の容ぼう等を描写したイラスト画についても,

これをみだりに公表されない

人格的利益を有すると解するのが相当である。

 

しかしながら,人の容ぼう等を撮影した写真は,

カメラのレンズがとらえた被撮影者の容ぼう等を

化学的方法等により再現したものであり,それが公表された場合は,

被撮影者の容ぼう等をありのままに示したものであることを

前提とした受け取り方をされるものである。

 

これに対し,人の容ぼう等を描写したイラスト画は,

その描写に作者の主観や技術が反映するものであり,

それが公表された場合も,

作者の主観や技術を反映したものであることを

前提とした受け取り方をされるものである。

 

したがって,人の容ぼう等を描写したイラスト画を

公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて

不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,

写真とは異なるイラスト画の上記特質が参酌されなければならない。

 

これを本件についてみると,前記のとおり,

本件イラスト画のうち下段のイラスト画2点は,

法廷において,被上告人が

訴訟関係人から資料を見せられている状態及び

手振りを交えて話しているような状態が描かれたものである。

 

現在の我が国において,一般に,法廷内における

被告人の動静を報道するために

その容ぼう等をイラスト画により描写し,

これを新聞,雑誌等に掲載することは社会的に

是認された行為であると解するのが相当であり,

上記のような表現内容のイラスト画を公表する行為は,

社会生活上受忍すべき限度を超えて被上告人の人格的利益を

侵害するものとはいえないというべきである。

 

したがって,上記イラスト画2点を本件第2記事に組み込み,

本件写真週刊誌に掲載して公表した行為については,

不法行為法上違法であると評価することはできない。

 

しかしながら,本件イラスト画のうち上段のものは,

前記のとおり,被上告人が手錠,腰縄により

身体の拘束を受けている状態が描かれたものであり,

そのような表現内容のイラスト画を公表する行為は,

被上告人を侮辱し,被上告人の名誉感情を

侵害するものというべきであり,

同イラスト画を,本件第2記事に組み込み,

本件写真週刊誌に掲載して公表した行為は,社会生活上受忍すべき限度を超えて,

被上告人の人格的利益を侵害するものであり,

不法行為法上違法と評価すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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