他主占有事情

(平成7年12月15日最高裁)

事件番号  平成6(オ)1905

 

最高裁判所の見解

民法一八六条一項の規定は、

占有者は所有の意思で占有するものと推定しており、

占有者の占有が自主占有に当たらないことを

理由に取得時効の成立を争う者は、

右占有が所有の意思のない占有に当たることについての

立証責任を負うのであるが、右の所有の意思は、

占有者の内心の意思によってではなく、占有取得の原因である権原又は

占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものであるから、

占有者の内心の意思のいかんを問わず、

占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に

基づき占有を取得した事実が証明されるか、

又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、

若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかったなど、

外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して

占有する意思を有していなかったものと解される事情

(このような事情を以下「他主占有事情」という。)が

証明されて初めて、その所有の意思を否定することが

できるものというべきである

(最高裁昭和五七年(オ)第五四八号同五八年三月二四日第一小法廷判決・

民集三七巻二号一三一頁参照)。

 

これを本件についてみると、原審の(1)の判断は、

D又は上告人らの内心の意思が所有の

意思のあるものと認めるに足りないことを理由に、

同人らの本件土地の占有は所有の意思のない

占有に当たるというに帰するものであって、

同人らがその性質上所有の意思のないものとされる

権原に基づき占有を取得した事実を

確定した上でしたものではない。

 

原審の(2)の判断は、D及び上告人らが

本件土地の登記簿上の所有名義人であったE又は

Fに対し長期間にわたって移転登記手続を求めなかったこと、

及び本件土地の固定資産税を全く負担しなかったことをもって

他主占有事情に当たると判断したものである。

 

まず、所有権移転登記手続を求めないことについてみると、

この事実は、基本的には占有者の悪意を

推認させる事情として考慮されるものであり、

他主占有事情として考慮される場合においても、

占有者と登記簿上の所有名義人との間の人的関係等によっては、

所有者として異常な態度であるとはいえないこともある。

 

次に、固定資産税を負担しないことについてみると、

固定資産税の納税義務者は

「登記簿に所有者として登記されている者」

である(地方税法三四三条一、二項)から、

他主占有事情として通常問題になるのは、

占有者において登記簿上の所有名義人に対し

固定資産税が賦課されていることを知りながら、

自分が負担すると申し出ないことであるが、

これについても所有権移転登記手続を求めないことと大筋に

おいて異なるところはなく、

当該不動産に賦課される税額等の事情によっては、

所有者として異常な態度であるとはいえないこともある。

 

すなわち、これらの事実は、

他主占有事情の存否の判断において占有に関する

外形的客観的な事実の一つとして意味のある場合もあるが、

常に決定的な事実であるわけではない。

 

本件においては、原審は、

D又は上告人らの本件土地の使用状況につき、

(ア) Dは、それまで借家住まいであったが、

昭和三〇年一〇月ころ、本件土地に建物を建築し、

妻子と共にこれに居住し始めた、

(イ) Dは、昭和三八年ころ、

本件土地の北側角に右建物を移築した、

(ウ) Dは、昭和四〇年八月ころ、

移築した右建物の東側に建物を増築した、

(エ) 上告人A1と結婚していた上告人A2は、

昭和四二年四月ころ、Dが移築し、

増築した建物の東側に隣接して作業所兼居宅を建築した、

(オ) 上告人A2は、昭和六〇年、Dが移築し、

増築した建物と上告人A2が建築した作業所兼居宅とを

結合するなどの増築工事をして現在の建物とした、

(カ) E又はFは、以上のD又は上告人A2による建物の建築等について

異議を述べたことがなかった、との事実を認定しているところ、

DはEの弟であり、いわばD家が分家、E家が本家という関係にあって、

当時経済的に苦しい生活をしていたD家が

E家に援助を受けることもあったという原判決認定の事実に加えて、

右(ア)ないし(カ)の事実をも総合して考慮するときは、

D及び上告人らが所有権移転登記手続を求めなかったこと及び

固定資産税を負担しなかったことをもって

他主占有事情として十分であるということはできない。

 

なお、原審は、本件土地の固定資産税につき、

Eらに対していつからどの程度の金額が賦課されていたのか、

D又は上告人らにおいていつそれを知ったのかについて

審理判断していない。

 

3 以上の次第で、原審の右(1)、(2)の判断は、

所有の意思に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、

ひいて審理不尽、理由不備の違法をおかしたものであり、

右違法は、原判決のうち上告人らの被上告人らに対する

第二次的及び第三次的請求に係る部分の結論に

影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は、右の趣旨をいうものとして理由があり、

原判決は右部分につき破棄を免れない。

 

そこで、更に審理を尽くさせるため、

右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。

 

二 本件上告について提出された上告状及び

上告理由書には上告人らの被上告人らに対する

第一次的請求に係る部分についての上告理由の記載がないから、

右部分については適法な上告理由書提出期間内に

上告理由書の提出がなかったことに帰する。

 

そうすると、右部分についての上告は、

不適法であるから、これを却下すべきである。

 

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