代表者に建物を賃貸していた会社が右代表者の妻に対し所有権に基づきその明渡しを請求した場合

(平成7年3月28日最高裁)

事件番号  平成4(オ)1013

 

最高裁判所の見解

被上告会社の本訴明渡請求が権利の濫用に当たるか否かは、

被上告会社の法人格が形骸にすぎないか否かによって

直ちに決せられるものではなく、本件建物の明渡しが

実現されることによって被上告会社の受ける利益と

上告人の被る不利益等の客観的事情のほか、

本件建物の明渡しを求める被上告会社の意図とこれを拒む上告人の

意図等の主観的事情をも考慮して決すべきものである。

 

そして、上告人の主張するDと上告人との婚姻生活に関する事実は、

大要、(1) Dは、上告人と共に本件建物に居住して

婚姻生活を営んでいたのに、

夫婦関係が険悪になって上告人とMを残したまま

本件建物から出た後は、上告人に対して生活費を交付せず、

そのため上告人とMは生活に窮し、

やむを得ず他からの援助を受けながら本件建物において生活している、

 

しかも、(2) 上告人の申立てにより、

東京家庭裁判所は、平成二年七月三〇日、Dに対して、

「上告人に対し、婚姻費用分担金として審判確定後直ちに

四九五万六〇〇〇円を、平成二年八月以降離婚又は

別居解消に至るまで毎月末日限り二三万六〇〇〇円を、

いずれも送金して支払え。」との審判をし、

Dの抗告に対して、東京高等裁判所は、

同年一〇月三〇日、抗告を棄却し、

右審判は確定したのであるが、

その後もDはこれに従っていない、

というものである。

 

そうすると、Dが被上告会社の代表者として

その経営及び管理のすべてを行っているという本件においては、

これらの上告人主張の事実は、本件建物の明渡しが

実現されることによって上告人の被る不利益の具体的事実の一部として

意味がある上、Dが本件建物から出た八日後に

賃貸人である被上告会社の代表者と賃借人の立場を兼ねて

賃貸借契約を合意解除した事実と相まって、

本件建物の明渡しを求める被上告会社の意図ないし

動機を推認させる事情の一部として意味がある。

 

結局、上告人の主張するDと上告人との婚姻生活に関する事実は、

被上告会社の本訴明渡請求が権利の濫用に当たるかどうかを

判断するについて考慮すべき重要な事実というべきである。

 

右の事実をもって本訴明渡請求が

権利の濫用に当たる事由とすることはできないとして、

これを審理判断の対象とすることなく、

本訴明渡請求が権利の濫用に当たらないとした原審の判断には、

法令の解釈適用を誤った違法があり、

ひいては審理不尽、理由不備の違法をおかしたものというべきであり、

右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

なお、記録によれば、上告人は、

右権利濫用の主張に先立つものとして、

本件合意解除が信義則に反する旨をも主張しているというべきところ、

原審は、右主張に対する明示の判断をしていない。

 

仮に、前記二の(2)の判断が実質的にはこの点の判断を兼ねているとしても、

上告人の主張するDと上告人との婚姻生活に関する

前記の事実は信義則違反を根拠づける

具体的事実としての意味をも有するから、

これを審理判断の対象とすることなく、

本件合意解除が信義則に反しないものということはできない。

 

四 論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり、

その余の上告理由について判断するまでもなく、

原判決は破棄を免れない。

 

そして、右に判示した点について更に審理を尽くさせるため、

本件を原審に差し戻すこととする。

 

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