住宅火災保険の目的建物の譲渡につき保険者に対する通知義務を怠ったときには保険金の支払が免責される旨の普通保険約款の解釈

(平成5年3月30日最高裁)

事件番号  昭和63(オ)1735

 

最高裁判所の見解

1 火災保険は、保険事故発生の危険率に従って保険料が定められ、

運営される制度であるところ、保険の目的の譲渡は、

火災の危険を変更又は増加する可能性を有する事実であるから、

保険者には、保険の目的が譲渡された場合に、

譲渡が危険を変更又は増加したか否か、

変更又は増加したときはその程度を調査の上、

当該保険契約につき、従前の内容で継続することとするか、

追加保険料を請求して継続することとするか、

保険料のうち残存期間相当部分を返還して解除することとするか、

の検討の機会を留保する正当な利益があるものというべきである。

 

したがって、保険の目的が譲渡された場合に、

保険契約者又は被保険者にその事実の通知義務を課した

本件約款八条一項及び保険者による

契約解除権の留保を定める同条三項の各条項は、

有効なものというべきである。

 

2 そして、右のように、保険契約者又は

被保険者に保険の目的譲渡の事実の

通知義務を課した主要な目的が、保険者において

契約解除の機会を留保することにあることからすれば、

右通知義務が履行されないうちに保険事故が発生した場合には

保険者は損害てん補の責めを免れるという効果を伴って

初めてその目的を達することができるものというべく、

右通知義務の不履行に対して保険者を免責するという

効果を定める本件約款八条二項が不合理なもので

効力を有しないものということはできない。

 

これは、保険の目的の譲渡によって危険の著しい変更又は

増加がある場合であるか否かとかかわりがない。

 

また、同条一項によって保険契約者又は

被保険者に課される書面による承認裏書請求という手続が、

不当に煩わしく過大なものということもできない。

 

3 しかし、保険の目的である建物が譲渡された場合において、

本件約款八条一項は、保険契約者又は被保険者に対して

譲渡後遅滞なく右譲渡の事実を通知すべき義務を

課したものと解するのが相当であり、したがって、

同条二項は、保険契約者又は被保険者が保険者に対して

譲渡後遅滞なく右通知義務を履行しないでいる間に

保険事故が発生した場合に保険者が免責されることを

定めているものと解するのが相当である。

 

けだし、保険の目的の譲渡とは保険の目的である

建物の所有権の移転をいうものと解すべきところ、

一般に、売買等の契約によって建物の所有権が

移転する場合においては、

所有権の移転が売買代金の完済や所有権移転登記手続の完了等の時点まで

留保される結果、代金の完済等がされないため約定の期日に

所有権移転の効果が発生しないこともまれではなく、

所有権の移転につきあらかじめ通知することを

要求するのは保険契約者又は被保険者に対して

困難を強いる結果となるので、本件約款八条一項が、

保険の目的の譲渡として、建物所有権の移転の効果が

発生する前にあらかじめ通知することを要求するものと解するのは

相当でないからである。

 

これを本件についてみるのに、本件火災が発生したのは、

Dから上告人に対する本件建物譲渡の二日後のことであり、

本件建物の所有権が移転した後であるとしても、

D又は上告人が被上告人B1火災に対して遅滞なく

右通知義務を履行しなかったということは

できないことが明らかであり、

本件約款八条二項を適用する場合ではないものというべきである。

 

4 そうすると、更に進んで、上告人において

本件保険契約上の権利の譲受について

民法四六七条に規定する対抗要件を具備しているか否か、

上告人が本件火災によって被った損害の額などについて

審理すべきものであり、本件約款八条二項を適用して

被上告人B1火災の免責を肯定した原審の判断には、

同項の解釈を誤った違法があり、この違法が

判決に影響することは明らかであるから、

論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

 

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