住民訴訟の対象となる「財産の処分」及び「契約の締結」

(平成10年11月12日最高裁)

事件番号  平成6(行ツ)239

 

最高裁判所の見解

住民訴訟は、地方自治法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為又は

怠る事実を対象とするものでなければならない

(同法二四二条の二第一項本文)ところ、

普通地方公共団体の所有に属する不動産は、

公有財産として同法における「財産」に当たるものと規定されている

(同法二三七条一項、二三八条一項一号)から、

普通地方公共団体の所有に属する不動産の処分は、

当該不動産が当該普通地方公共団体の住民の負担に係る公租公課等によって

形成されたものであると否とを問わず、

同法二四二条一項所定の「財産の処分」として

住民訴訟の対象になるものと解される。

 

また、右の不動産について売買契約を締結する行為は、

同項所定の「契約の締結」に当たり、

住民訴訟の対象になるものと解される。

 

記録によれば、本件の保留地は、

本件事業の換地処分の公告があった日の翌日である

昭和五六年九月五日に福山市の所有に属することとなり、

同市がこれを同五七年八月二七日に随意契約によって

売却したというのであるから、

右売却当時同市の「財産」であったものであり、

右売却行為は、「財産の処分」及び「契約の締結」に当たり、

住民訴訟の対象になるものというべきである。

 

同市は、本件事業の施行者として保留地を取得し、

これを処分したのであるが、もとより普通地方公共団体の事務として

本件事業を施行していたのであり(地方自治法二条三項一二号)、

普通地方公共団体としての地位とは

別個独立に施行者としての地位を有し、

これに基づいて保留地を取得して処分したというものではない。

 

また、市が保留地を定めるのは、

土地区画整理事業の施行の費用に充てるためである(法九六条二項)から、

保留地の処分は、その財産的価値に着目してされる行為にほかならず、

これについては、一般の財産の処分に関する法令の規定は適用されないものの、

右の保留地を定めた目的に適合し、施行規程で

定める方法に従わなければならないものと定められており(法一〇八条一項)、

施行規程のうち保留地の処分方法を定める規定(法五三条二項六号)は、

財務会計上の規範ということができる。

 

現に、本件事業の施行規程(昭和四四年福山市条例第五七号)においては、

保留地の処分は、施行者があらかじめ予定価格を定め、

一般競争入札によるのを本則とし、入札希望者がないとき、

落札者が契約を結ばないとき、国又は地方公共団体が

公用又は公共の用に供するため必要とするとき、

その他特に施行者が必要と認めたときには、

随意契約によることができる旨が規定されており(同条例七条)、

これは財務会計上の観点から保留地の処分方法を規制するものと解される。

 

本件の保留地の売却がこのような

施行規程等財務会計職員の遵守すべき

規範に適合するものであったか否かを審査することは、

本件事業の在り方そのものを

直接審査の対象にするものではないことが明らかである。

 

そして、市の施行する土地区画整理事業に要する費用は

施行者である市が負担することとされており(法一一八条一項)、

保留地の処分代金額が低下することは、

他に新たに財源を求めない限り、

市が一般財源から負担すべき額の増大をもたらすから、

特段の事情のない限り市に損害を生じさせるものというべきである。

 

なお、市の施行する土地区画整理事業においては、

当該事業の施行後の宅地の価額の総額が

その施行前の宅地の価額の総額を超える場合に、

その差額に相当する金額を超えない価額の一定の土地を保留地として

定めることができるものと規定されている(法九六条二項)のは、

右差額が施行者である市が費用を負担して施行する

土地区画整理事業の結果生み出される価値であることから、

これを従前地の所有者らに帰属させずに事業の費用に充てて

市の財政負担を軽減することができるものとする

趣旨であると解されるのであり、

保留地が実質的に減歩を受けた土地所有者らの

共有に属するというのは、相当でない。

 

以上のとおり、本件の保留地の処分は、

「財産の処分」及び「契約の締結」に当たるものとして、

住民訴訟の対象になると解することができるから、

これと異なる見解に立って本件訴えを不適法として却下した原判決は、

地方自治法二四二条の二第一項の解釈適用を誤るものとして、

破棄を免れない。

 

そして、本件については、更に審理判断を尽くさせるため、

原審に差し戻すこととする。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

判例をわかりやすく解説コーナー


スポンサードリンク