保証債務の履行を請求することが権利の濫用に当たるとされた事例

(平成22年1月29日最高裁)

事件番号  平成19(受)2065

 

この裁判は、

A社の財務部門を法人化して設立され,

A社を中核とするグループに属するX社が,

上記グループに属するB社に金員を貸し付け,

B社の代表取締役であるYがこの貸付けに係る

B社の借入金債務を保証した場合において,

B社が既に事業を停止している状況下で,

X社がYに対して保証債務の履行を請求することが

権利の濫用に当たるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

前記事実関係によれば,M社は,Bが代表取締役を,

Lが関西統括部長等を務めていたK社の神戸支店を法人化した会社であり,

その資本金はA社グループに属するD社が全額を出資して

設立されたものであって,その設立後においては,

A社を初めとするA社グループに属する各社との間で,

経営顧問契約等の各種契約を締結し,

顧問料の支払を行うなどして,第1期事業年度には,

その支払総額がM社の売上高に占める割合は

約66%にも上っていたというのである。

 

しかも,上記経営顧問契約に基づき

経営顧問全般の依頼を受けたA社やJ社は,

M社に将来損失や損害が発生しても,

一切責任を負わないことが約されていたことや,

M社の代表者印,銀行届出印及び預金通帳が

A社グループに属するF社によって管理され,

M社名義の預金口座に係る入出金や同社の費用等の支払も

F社によって行われるなど,M社の資金がF社に

掌握されていたことをも考慮すると,

上記のような資本関係や人的関係等を背景として,

A社を初めとするA社グループに属する各社が上記各契約に基づき

M社の売上げから顧問料等の名目により確実に

収入を得ることができる体制が周到に築かれていたということができる。

 

そして,M社は,上記のようにして,

F社に資金を掌握されていただけでなく,

前記事実関係によれば,BあるいはLから,

予算の事前提出を指示され,売上げや利益についても

具体的な目標を設定され,予算の達成率や売上げ等の報告や資料の

提出も求められるほか,個々の業務に関しても

相当強力な指示を受けており,

これらのことからすれば,M社の業務遂行に関し,

その代表取締役にはほとんど裁量の余地はなく,

資金繰りを含めその経営の判断は,BやLに依存し,

その指示に従わざるを得ない経営体制にあったということができる。

 

他方,上告人は,23歳のときに,

A社の代表取締役であるBが代表取締役を務めるK社の

神戸支店にアルバイトとして勤務するようになったが,

同支店が独立する形でM社が設立された際に,

同社の正社員となり,その後わずか数か月後に,

Lの働きかけにより同社の代表取締役に就任したもので,

同社の設立の前後を通じてその勤務場所や勤務実態等に

格別の変化はなかったというのであり,

代表取締役に就任したとはいえ,上記経営体制の下にあっては,

単なる従業員とほとんど異ならない

立場にあったとみることができる。

 

しかるに,Lは,近い将来M社の資金繰りが

行き詰まるおそれがあることを認識しながら,

上告人に対し,同社の代表取締役に就任するよう強く働きかけた上,

上告人の代表取締役就任後間もなくして

同社の資金繰りが行き詰まるや,

上告人に対し,Bが代表取締役を務め,

その全株式を保有する被上告人から融資を受け,

上告人においてこの融資に係る債務を

保証するよう指示したというのである。

 

そして,被上告人は,M社がA社グループの関連会社であるにもかかわらず,

利息制限法所定の制限利率を上回る高利で金員を貸し付け,

これを上告人に保証させているところ,

M社の上記経営体制の下にあっては,

上告人がこれを拒むことは事実上困難であったというほかなく,

上告人が,本件保証契約を締結した直後に弁護士に相談し,

代表取締役を辞任したい旨の通知を送付しているのも,

上記のような事態に困惑してのことであるとみることができる。

 

以上に説示したところを総合すると,

被上告人の上告人に対する保証債務の履行請求は,

M社が既に事業を停止している状況の下において,

A社グループに属する各社がM社の事業活動から

経営顧問契約等の各種契約に基づき顧問料等の名目で

確実に収入を得ていた一方で,

わずかの期間同社の代表取締役に就任したとはいえ,

経営に関する裁量をほとんど与えられていない経営体制の下で,

経験も浅く若年の単なる従業員に等しい立場にあった上告人だけに,

同社の事業活動による損失の負担を求めるものといわざるを得ず,

上告人が同社の代表取締役に就任した当時の同社の経営状況,

就任の経緯,被上告人の同社に対する金員貸付けの条件,

上告人は本件保証契約の締結を拒むことが

事実上困難な立場にあったことなどをも考慮すると,

権利の濫用に当たり許されないものというべきである。

 

原審が認定する他の事実を考慮しても,

この判断は左右されない。

 

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