保護処分決定が抗告審で取り消された場合

(平成9年9月18日最高裁)

事件番号  平成8(あ)838

 

最高裁判所の見解

1 家庭裁判所のした保護処分決定に対する少年側からの抗告に基づき、

右決定が取り消された場合には、当該事件を

少年法二〇条により検察官に送致することは

許されないものと解するのが相当である。

 

その理由は以下のとおりである。

(一)少年法は、少年の健全な育成を期し、

非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する

保護処分を行うことを目的としている(一条)。

 

そして、同法によれば、犯罪の嫌疑のある少年の事件については、

その全件を家庭裁判所に送致すべきものとされ(四一条、四二条)、

家庭裁判所は、送致を受けた事件について

調査の結果、審判に付することができないか、

又は審判に付するのが相当でないと認めるときは、

審判を開始しない旨の決定をしなければならず(一九条一項)、

審判の開始を相当と認めるときに限って、

その旨の決定をすることとされている(二一条)。

 

さらに、審判の結果、保護処分に付することができないか、

又は保護処分に付する必要がないと認めるときは、

不処分決定をしなければならず(二三条二項)、

保護処分に付する必要があると認めるときは、

決定をもって少年を保護観察、

少年院送致等の保護処分に付するものとしている(二四条)。

 

そして、事件が検察官に送致されるのは、

本人が二〇歳以上であるため家庭裁判所が審判権を有しない場合

(一九条二項、二三条三項)のほかは、

送致のとき一六歳以上の少年が死刑、

懲役又は禁錮に当たる罪を犯したとされる事件につき、

家庭裁判所がその罪質及び情状に照らして

刑事処分を相当と認める場合に限られている(二〇条)。

 

このような少年法の趣旨、目的及び構造に照らすと、同法は、

少年が一般に未成熟で、可塑性に富むことにかんがみ、

少年の健全な育成のためには、現在及び将来に様々な

不利益をもたらす刑罰によって成人に対するのと

同様にその責任を追及するよりも、

教育的手段によって改善、更生を

図るべきであるとの理念に基づくものであって、

少年に対しては、保護処分その他同法の枠内における処遇を原則とし、

刑罰によってその責任を追及するのは、

その罪質及び諸般の情状に照らし、

このような教育的手段によることが

不適当な場合に限定しようとするものであり、

刑事処分は、少年にとって、保護処分その他同法の枠内における処遇よりも

一般的、類型的に不利益なものとしていると解するのが相当である。

 

(二) また、少年法は、家庭裁判所のした保護処分決定に対しては、

少年、その法定代理人又は附添人にのみ抗告権を認め、

検察官にはこれを認めていない(三二条)。

 

その法制の当否はともかく、法が少年側にのみ抗告権を認めたのは、

専ら少年の権利保護を目的とするものであると解される。

 

したがって、少年側が抗告し、抗告審において、

原保護処分決定が取り消された場合には、

差戻しを受けた家庭裁判所において、

少年に対し保護処分よりも不利益な処分をすることは許されないものと

解するのが相当である。

 

けだし、そのように解しなければ、少年側にのみ抗告権を認めた

抗告制度の趣旨に反し、その抗告権の行使を

不当に制限することとなるからである。

 

(三) 以上の点を考え合わせると、

家庭裁判所が少年をいったん保護処分に付した以上、

その後少年側の抗告によって当初の保護処分が取り消された場合には、

家庭裁判所は、少年に対し保護処分

その他少年法の枠内における処遇をすべきものであり、

これらの処遇より不利益な刑事処分を相当であるとして、

少年法二〇条により事件を検察官に送致することは

もはや許されないというべきである。

 

2 これを本件についてみるに、本件は、

家庭裁判所の少年院送致決定に対して、

少年が抗告を申し立て、抗告審の決定により

事件が家庭裁判所に差し戻されたのであるから、

家庭裁判所としては、刑事処分を相当であるとして

少年法二〇条により検察官送致決定をすることは許されず、

本件検察官送致決定は違法、無効というべきである。

 

したがって、右検察官送致決定を前提として

少年法四五条五号に従って行われた本件公訴提起の手続は

違法、無効といわざるを得ない。

 

3 以上のとおり、本件公訴提起の手続は少年法に違反して

無効というべきであるから、

刑訴法三三八条四号により本件公訴を棄却すべきであるのに、

本件公訴提起に違法はないとした原判決には、

法令の解釈適用を誤った違法があって、

その違法が判決に影響を及ぼし、かつ、

これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

 

よって、その余の所論について判断を加えるまでもなく、

刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、

なお第一審判決は、以上の当裁判所の判断とその結論において

一致しこれを維持すべきものであり、

検察官の控訴は理由がないこととなるから、

同法四一三条ただし書、四一四条、三九六条により

これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

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