分割保険料を滞納すると保険金を支払わない旨の約款の下における滞納保険料の全額が支払われた場合の保険金支払義務の帰すう

(平成9年10月17日最高裁)

事件番号  平成8(オ)2064

 

最高裁判所の見解

1 上告人ら夫婦の長男であるDと被上告人は、平成元年三月三日、

次の内容の自家用自動車保険契約を締結した。

(一) 保険期間 平成元年三月三日午後四時から同二年三月三日午後四時まで

(二) 被保険自動車 D所有の本件事故車

(三) 保険金受取人 D

(四) 保険契約の締結と同時に第一回目の分割保険料一万一九四〇円を支払い、

第二回目以後の分割保険料については平成元年五月から

同二年一月まで毎月二六日に三九八〇円ずつを支払う。

(五) 本件に関係のある保険事故及び保険金は、

(1)被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然の外来の事故により

被保険者(被保険自動車の保有者及び運転者並びに

その正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者)が身体に傷害を被り、かつ、

それによって被保険者に生じた損害について

自動車損害賠償保障法三条による損害賠償請求権が発生しないことを

保険事故とし、右傷害の直接の結果として死亡したときの死亡保険金を

一四〇の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者が

その運行に起因する急激かつ偶然の外来の事故により

身体に傷害を被ったことを保険事故とし、

右傷害の直接の結果として事故発生日から

一八〇日以内に死亡したときの死亡保険金を

五〇〇万円とする搭乗者傷害保険である。

 

(六) 本件保険契約に適用のある約款には、

「当会社は、保険契約者が第二回目以降の分割保険料について、

当該分割保険料を払込むべき払込期日後一か月を経過した後も

その払込みを怠ったときは、

その払込期日後に生じた事故については、保険金を支払いません。」

(保険料分割払特約第五条)という定めがある。

 

2 本件保険契約の第一回目の分割保険料一万一九四〇円は

約定の払込期日である平成元年三月三日に支払われたが、

同年五月二六日及び六月二六日に支払われるべき

分割保険料は払込期日までには支払われなかったところ、

被上告人の代理店として本件保険契約の締結事務を取り扱ったEは、

同年七月一四日、同年五月から七月までの各月二六日に

支払うべき分割保険料の元本の合計額に相当する一万一九四〇円を、

本件保険契約に基づく保険料として、Dに代わって、被上告人に支払った。

 

3 Dは、茨城県常陸太田市において上告人らと同居していたが、

平成元年七月一一日の夕刻に自宅を出て以来行方が分からないでいたところ、

同三年二月一日に同県日立市所在の

a港b埠頭南側約三〇メートル先海底において、

被保険自動車の中で白骨死体となっているのを発見された。

 

Dは、被保険自動車の運行に起因する事故により死亡したものと認められるが、

右死亡事故の発生日時を認めるに足りる証拠はない。

 

二 右事実関係に基づいて検討する。

 

1 前記一1(六)記載の約款の条項は、

保険契約者が分割保険料の支払を一箇月以上遅滞したため

保険会社が保険金支払義務を負わなくなった状態(以下「保険休止状態」という。)が

生じた後においても、履行期が到来した未払分割保険料の

元本の全額に相当する金額が当該保険契約が終了する前に

保険会社に対して支払われたときは、保険会社は、

右支払後に発生した保険事故については保険金支払義務を

負うことをも定めているものと解すべきである。

 

けだし、右条項の趣旨は、保険契約者が保険料の支払を

遅滞する場合に保険金を支払わないという制裁を課することによって、

保険会社の保険料収入を確保するとともに、

履行期が到来した保険料の支払がないのに保険会社が

保険金支払義務を負うという不当な事態の

発生を避けようとする点にあるが、履行期が到来した分割保険料が

支払われたときには、右の制裁を課する理由がなくなるから、

保険金支払義務の再発生を認めることが衡平であり、

契約当事者の通常の意思に合致すると考えられるからである。

 

2 右約款の条項については、保険休止状態の発生による

保険金支払義務の消滅を主張する者は保険休止状態の発生時期及び

それ以後に保険事故が発生したことを主張、立証すべき責任を負い、

保険休止状態の解消による保険金支払義務の再発生を

主張する者は保険休止状態の解消時期及びそれ以後に

保険事故が発生したことを主張、立証すべき責任を

負うものと解すべきである。

 

けだし、保険休止状態の発生は権利消滅事由であるから

権利の消滅を主張する者に立証責任を負わせ、

保険休止状態の解消はいったん消滅した権利の再発生事由であるから

権利の再発生を主張する者に立証責任を負わせるのが、

妥当であるからである。

 

3 本件についてこれをみるのに、前記事実関係によれば、

本件保険契約は平成元年五月二七日から

同年七月一四日に未払保険料が支払われるまでの間は

保険休止状態にあったが、保険事故の発生時期については

平成元年七月一一日以後であることが証明されたにとどまり、

同日以後のいつの時点において保険事故が発生したのかを

認めるに足りる証拠はないというのである。

 

そうすると、保険休止状態の発生時期である

同年五月二七日より後の同年七月一一日以後に保険事故が発生したことが

証明された本件においては、被上告人は、

保険休止状態の発生による保険金支払義務の消滅についての

主張立証責任を尽くしたものということができる。

 

これに対して、保険休止状態の解消時期である

同年七月一四日の保険料の支払の後に保険事故が

発生したことが証明されなかった本件においては、

上告人らは、保険休止状態の解消による

保険金支払義務の再発生についての

主張立証責任を尽くしたものということはできない。

 

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