傷害致死被告事件

(平成20年4月25日最高裁)

事件番号  平成18(あ)876

 

この裁判では、

責任能力判断の前提となる精神障害の有無及び程度並びに

これが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,

精神医学者の鑑定意見等が証拠となっている場合における,

裁判所の判断の在り方について裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

本件記録に徴すると,被告人が心神耗弱の状態にあったとして

限定責任能力の限度で傷害致死罪の成立を認めた原判決は,

被告人の責任能力に関する証拠の評価を誤った違法があり,

ひいては事実を誤認したものといわざるを得ない。

 

これが判決に影響することは明らかであって,

原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

 

ところで,坂口鑑定及び深津鑑定は,

統合失調症にり患した者の病的体験の

影響下にある認識,判断ないし行動は,

一方で認められる正常な精神作用により補完ないし

制御することは不可能であるという理解を前提とするものと解されるが,

これと異なる見解の有無,評価等,

この問題に関する精神医学的知見の現状は,

記録上必ずしも明らかではない。

 

また,被告人は,本件以前にも,

被害者を殴りに行こうとして,交際相手に止められたり,

他人に見られていると思って思いとどまったりしているほか,

本件行為時にも通行人が来たため更なる攻撃を中止するなどしており,

本件行為自体又はこれと密接不可分な場面において,

相応の判断能力を有していたと見る余地のある事情が存するところ,

これをも「二重見当識」として説明すべきものなのか,

別の観点から評価検討すべき事柄なのかについて,

必ずしも明らかにはされていない。

 

さらに,被告人は本件行為の翌日に自首するなど

本件行為後程ない時点では十分正常な判断能力を

備えていたとも見られるが,このことと行為時に

強い幻覚妄想状態にあったこととの関係も,

坂口鑑定及び深津鑑定において十分に説明されているとは評し難い。

 

本件は,被告人が正常な判断能力を備えていたように見える事情も

相当程度存する事案であることにかんがみると,

本件行為当時の被告人の責任能力を的確に判断するためには,

これらの点について,精神医学的知見も踏まえて

更に検討して明らかにすることが相当であるというべきであり,

当裁判所において直ちに判決するのに

適しているとは認められない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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