入会部落の慣習に基づく入会集団の会則

(平成18年3月17日最高裁)

事件番号  平成16(受)1968

 

この裁判は、

入会部落の慣習に基づく入会集団の会則のうち

入会権者の資格要件を一家の代表者としての

世帯主に限定する部分が公序良俗に反しないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 前記事実関係によれば,被上告人は,

本件入会地の入会権者で組織され,本件入

会地の管理・処分を行うこと等を目的とする

入会団体(権利能力なき社団)であると認められる。

 

また,本件入会地は,戦後,国が賃借した上で

駐留軍の用に供するために使用されているが,

その賃料は,入会団体である被上告人により

管理されているというのであるから,本件入会地について,

いまだ入会権が消滅したものとも

その性質を変容したものともいうことはできない。

 

そうすると,上告人らは,

被上告人の会員の地位を有するというためには,

本件入会地について入会権者の地位を有すること,

すなわち,本件慣習に基づいて本件入会地についての

入会権者の地位を取得したことを

主張立証しなければならないというべきである

(最高裁昭和35年(オ)第1244号同37年11月2日第二小法廷判決・

裁判集民事63号23頁参照)。

 

そして,本件慣習によれば,上告人らが

被上告人の会員の地位を取得したというためには,

原則として,①上告人らが本件払下げ当時のA部落民又は

明治40年から昭和20年までの間に一定の要件を満たして

A部落民と認められた者の男子孫であり,

現在A区内に住所を有し居住していること,

②上告人らがA区内に住所を有する一家の世帯主(代表者)であり,

被上告人に対する届出等によってその役員会の議を経て

入会したことという要件を満たす必要があるということになる。

 

(2) ところで,入会権は,一般に,一定の地域の住民が

一定の山林原野等において共同して雑草,まぐさ,

薪炭用雑木等の採取をする慣習上の権利であり(民法263条,294条),

この権利は,権利者である入会部落の構成員全員の総有に属し,

個々の構成員は,共有におけるような

持分権を有するものではなく(最高裁昭和34年(オ)

第650号同41年11月25日第二小法廷判決・

民集20巻9号1921頁,最高裁平成3年(オ)第1724号

同6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号1065頁参照),

入会権そのものの管理処分については入会部落の一員として

参与し得る資格を有するのみである

(最高裁昭和51年(オ)第424号同57年7月1日

第一小法廷判決・民集36巻6号891頁参照)。

 

他方,入会権の内容である使用収益を行う権能は,

入会部落内で定められた規律に従わなければならないという拘束を受けるものの,

構成員各自が単独で行使することができる(前掲第一小法廷判決参照)。

 

このような入会権の内容,性質等や,原審も説示するとおり,

本件入会地の入会権が家の代表ないし

世帯主としての部落民に帰属する権利として

当該入会権者からその後継者に承継されてきたという歴史的沿革を

有するものであることなどにかんがみると,

各世帯の構成員の人数にかかわらず各世帯の代表者にのみ

入会権者の地位を認めるという慣習は,

入会団体の団体としての統制の維持という点からも,

入会権行使における各世帯間の平等という点からも,

不合理ということはできず,現在においても,

本件慣習のうち,世帯主要件を公序良俗に反するものということはできない。

 

しかしながら,本件慣習のうち,男子孫要件は,

専ら女子であることのみを理由として

女子を男子と差別したものというべきであり,

遅くとも本件で補償金の請求がされている平成4年以降においては,

性別のみによる不合理な差別として民法90条の規定により

無効であると解するのが相当である。

 

その理由は,次のとおりである。

男子孫要件は,世帯主要件とは異なり,

入会団体の団体としての統制の維持という点からも,

入会権の行使における各世帯間の平等という点からも,

何ら合理性を有しない。

 

このことは,A部落民会の会則においては,

会員資格は男子孫に限定されていなかったことや,

被上告人と同様に杣山について入会権を有する他の入会団体では

会員資格を男子孫に限定していないものもあることからも明らかである。

 

被上告人においては,上記1(4)エ,オのとおり,

女子の入会権者の資格について一定の配慮をしているが,

これによって男子孫要件による女子孫に対する差別が合理性を

有するものになったということはできない。

 

そして,男女の本質的平等を定める日本国憲法の基本的理念に照らし,

入会権を別異に取り扱うべき合理的理由を見いだすことはできないから,

原審が上記3(3)において説示する本件入会地の入会権の

歴史的沿革等の事情を考慮しても,

男子孫要件による女子孫に対する差別を正当化することはできない。

 

(3) 上告人X4らについては,前記のとおり世帯主要件は

有効と解すべきであり,家の代表者としての世帯主であることの

主張立証がないというのであるから,

本件入会地の入会権者の資格を取得したものとは認められず,

上告人X4らが被上告人の会員であることを否定した原判決は,

正当として是認することができる。

 

この点についての論旨は,採用することができない。

 

他方,上告人X1らは,A部落民以外の男性と婚姻した後に

配偶者の死亡により世帯主として独立の生計を

構えるに至ったものであるというのであるから,

現時点においては,世帯主要件を満たしていることが明らかである。

 

もっとも,上告人X1らが,被上告人の会則に従った入会の

手続を執ったことについては,その主張立証がないけれども,

男子孫要件を有する本件慣習が存在し,

被上告人がその有効性を主張している状況の下では,

女子孫が入会の手続を執ってもそれが認められることは期待できないから,

被上告人が,上告人X1らについて,

入会の手続を執っていないことを理由に

その会員の地位を否定することは信義則上許されないというべきである。

 

したがって,男子孫要件を有効と解して

上告人X1らが被上告人の会員で

あることを否定した原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

この点をいう論旨は,理由があり,原判決のうち

上告人X1らに関する部分は破棄を免れない。

 

そして,以上の見解の下に上告人X1らの請求の当否について

更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,

本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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