公文書開示拒否処分取消請求事件

(平成15年11月21日最高裁)

事件番号  平成11(行ヒ)145

 

最高裁判所の見解

(1) 本件条例10条2号該当性について

ア 本件条例10条2号にいう「個人に関する情報」は,

「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には

文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,

所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,

個人にかかわりのある情報であれば,原則として

上記「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である。

 

もっとも,同条3号が,法人等に関する情報及び事業を営む

個人の当該事業に関する情報について,上記「個人に関する情報」とは

異なる類型の情報として非公開事由を規定していることに照らせば,

本件条例においては,法人等を代表する者又は

これに準ずる地位にある者がその職務として行う行為等当該法人等の行為

そのものと評価される行為に関する情報については,

専ら法人等に関する情報としての非公開事由が

規定されているものと解するのが相当である。

 

また,県政に対する県民の理解と信頼を深め,県政への参加を促進し,

公正で開かれた県政を一層推進することを目的とし,

そのために県民の公文書の公開を求める権利を明らかにして,

県政に関する情報を広く県民に公開することとしている

本件条例の趣旨,目的(1条参照)からすれば,本件条例が,

県の公務員の職務の遂行に関する情報が記録された公文書について,

県の公務員個人の社会的活動としての側面があることを理由に,

これを非公開とすることができるものとしているとは

解し難いというべきである。

 

そして,国等の公務員の職務の遂行に関する情報についても,

国等において同様の責務を負うべき関係にあることから,

上記目的を達成するため,県の公務員の職務の遂行に関する情報と同様に

公開されてしかるべきものと取り扱うというのが

本件条例の趣旨であると解される。

 

したがって,県及び国等の公務員の職務の遂行に関する情報は,

公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き,

公務員個人が本件条例10条2号にいう「個人」に

当たることを理由に同号の非公開情報に当たるものとは

いえないと解するのが相当である。

 

イ 相手方氏名等

本件各文書中の相手方氏名等の記載部分は,

相手方が県東京事務所の会合に出席し,

又は県東京事務所から贈答を受けたことに関する情報に係るものである。

 

国等の公務員以外の相手方に係る上記情報は,

その者の社会的活動等にかかわる情報であり,

その氏名,所属,職名等により特定の個人が識別され,

又は識別され得るものが含まれているものと考えられる。

 

そして,上記相手方が法人等の代表者又は

これに準ずる地位にある者であってその職務として会合に出席したり,

贈答を受けたりした事実は,原審において確定されていない。

 

そうすると,上記情報は,本件条例10条2号の

非公開情報に該当するというべきである。

 

次に,前記事実関係等によれば,国等の公務員である相手方は,

所属する国等の部局の職務として上記会合に

出席するなどしたというのであるから,

これらの相手方に係る上記情報は,

公務員の職務の遂行に関する情報である。

 

このうち相手方の住所又は出身地の記載があり,

その氏名等と合わせて特定の個人が識別され,

又は識別され得るものは,私事に関する情報を含むものとして

同号の非公開情報に該当するが,その余のものは,

同号の非公開情報に該当しないというべきである。

 

なお,上記情報の一部に相手方の経歴を含むものがあるが,

それは相手方が県又は県内公的機関に在職していた当時の職名であり,

これをもって私事に関する情報ということはできない。

 

ウ 従業員氏名等

前記事実関係等によれば,本件請求書等のうち

従業員氏名等が記載されているものには,

債権者が自己の名義で行う請求等の内容のほかに,

その請求内容等に関する問い合わせの便宜のため,

担当する従業員の氏名等が記載されているというのである。

 

そうすると,当該従業員に関する情報は,個人に関する情報であり,かつ,

特定の個人を識別し得るものであるから,

本件条例10条2号の非公開情報に該当するというべきである。

 

(2) 本件条例10条6号該当性について

ア 相手方氏名等

前記事実関係等によれば,本件各文書中の相手方氏名等の記載部分は,

いずれも県東京事務所が在京の国家機関や企業等を対象とした

情報収集,連絡調整等の事務事業として又は

これに関連して行った会合及び贈答の

相手方に係るものであるというのであるから,

これに関する情報は,本件条例10条6号の

「事務事業に関する情報」に当たることが明らかである。

 

ところで,上記情報のうち前記(1)イで述べた

本件条例10条2号の非公開情報に該当するものは,

同条6号該当性を判断するまでもなく

非公開とすることができるものであるから,

同号との関係で更に検討する必要があるのは,

上記情報のうち相手方が国等の公務員であって

その相手方氏名等に住所又は出身地の

いずれの記載もない者に関するものである。

 

まず,上記会合のうち,企業誘致事務に関係しないものは,

上記のとおり純然たる儀礼的な会合ではなく,

内密の協議等を目的とした会合であることをうかがわせる事情もない。

 

また,企業誘致事務に関するものについては,

前記事実関係等によれば,これは,

特定の企業を対象とした誘致折衝活動を前提としたものではなく,

一般的な情報を収集するための会合であり,

その内容自体は文書中に記載されていないというのである。

 

そうすると,上記の国等の公務員を相手方とした上記会合に係る

相手方氏名等の記載部分を公開しても,

同号所定のおそれを生ずることは考え難く,

これに関する情報は,同号の非公開情報に該当しないというべきである。

 

次に,前記事実関係等によれば,

本件各文書中の上記贈答に係る

相手方氏名等の記載部分に記載されている公務員は,

その所属する国等の部局の職務として贈答を受けたというのである。

 

そうすると,上記贈答は,当該公務員個人に対してされたものではなく,

同人が所属する国等の部局に対してされたものというべきである。

 

そして,当該部局名及び贈答内容については,

本件処分において既に公開されているのであるから,

上記の国等の公務員を相手方とした上記贈答に係る

相手方氏名等の記載部分を公開しても,

新たに同号所定のおそれを生ずることは考え難い。

 

したがって,これに関する情報は,

同号の非公開情報に該当しないというべきである。

 

イ 資金前渡職員の口座番号等

本件各文書中の資金前渡職員の口座番号等の記載部分は,

県東京事務所において資金前渡による現金支払を担当する

特定の職員が職務上使用するために開設した金融機関の口座に係るものである。

 

この口座番号等の記載部分が公開されても,

県の事務事業の円滑な実施を困難にするなどの

おそれを生ずることは考え難い。

 

したがって,これに関する情報は,

同条6号の非公開情報に該当しないというべきである。

 

(3) 本件条例10条3号該当性について

前記事実関係等によれば,本件請求書等は,

債権者が任意の様式により作成したものであり,

債権者は,県に対し,これにその口座番号等を記載して

請求等行為を行っているというのであり,

顧客が県であるからこそ債権者が特別に口座番号等を

開示したなどの特段の事情があることは,

原審において確定されていない。そうすると,

本件各文書中の債権者の口座番号等の記載部分に係る情報は,

本件条例10条3号の非公開情報に該当しないというべきである。

 

以上によれば,原判決中上告人敗訴部分に係る原審の前記判断のうち,

会合及び贈答の相手方が公務員でない者及び

国等の公務員であってその相手方氏名等に

住所又は出身地の記載がある者に関する情報並びに

従業員氏名等の記載部分に係る情報について

同条2号該当性を否定した部分には,判決に影響を及ぼすことが

明らかな法令の違反がある。論旨は,

これと同旨をいう限度で理由があり,原判決中上記部分は,破棄を免れない。

 

そして,以上説示したところによれば,

本件処分のうち,本件各文書について会合及び

贈答の相手方が国等の公務員であって住所又は

出身地のいずれの記載もない者の相手方氏名等並びに

債権者及び資金前渡職員の口座番号等の各記載部分を

非公開とした部分は違法であるから,同部分は取り消すべきであるが,

その余の本件非公開部分を非公開とした部分に違法はないから,

同部分に係る被上告人の請求は棄却すべきである。

 

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