公文書非公開決定取消請求事件

(平成13年5月29日最高裁)

事件番号  平成9(行ツ)152

 

最高裁判所の見解

(1) 知事の交際は,本件条例5条6号にいう交渉

その他の事務に該当すると解されるから,

これらの事務に関する情報を記録した文書を

公開しないことができるか否かは,

これらの情報を公にすることにより,

当該若しくは同種の交際事務の実施の目的が

達成できなくなるおそれがあるか否か,

又はその公正かつ適切な執行に著しい支障が生じる

おそれがあるか否かによって決定されることになる。

 

ところで,知事の交際事務は,相手方との間の信頼関係ないし

友好関係の維持増進を目的として行われるものであるところ,

相手方の氏名等の公表,披露が当然予定されているような場合等は別として,

相手方を識別し得るような文書の公開によって

相手方の氏名等や支出金額が明らかにされることになれば,

一般に,交際費の支出の要否,内容等は,

府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして個別に

決定されるという性質を有するものであることから,

不満や不快の念を抱く者が出ることが容易に予想される。

 

そのような事態は,交際の相手方との間の信頼関係あるいは

友好関係を損なうおそれがあり,交際それ自体の目的に反し,

ひいては交際事務の目的が

達成できなくなるおそれがあるというべきである。

 

また,これらの交際費の支出の要否やその内容等は,

支出権者である知事自身が,個別,具体的な事例ごとに,

裁量によって決定すべきものであるところ,

交際の相手方や内容等が逐一公開されることとなった場合には,

知事においても上記のような事態が生ずることを懸念して,

必要な交際費の支出を差し控え,

あるいはその支出を画一的にすることを

余儀なくされることも考えられ,

知事の交際事務の公正かつ適切な執行に著しい支障が

生じるおそれがあるといわなければならない。

 

したがって,本件公文書のうち交際の相手方が識別され得るものは,

原則として本件条例5条6号により公開しないことが

できる公文書に該当するというべきである。

 

もっとも,知事の交際事務に関する情報で交際の相手方が

識別され得るものであっても,相手方の氏名等が外部に公表,

披露されることがもともと予定されているもの,すなわち,

交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる

交際に関するものなど,相手方の氏名等を公表することによって

上記のおそれがあるとは認められないようなものは,

例外として同号に該当しないと解するのが相当である。

 

上記の交際の相手方及び内容が不特定の者に知られ得る状態でされる

交際に該当するか否かは,当該交際が,その行われる場所,

その内容,態様その他諸般の事情に照らして,

その相手方及び内容がそれを知られることが

もともと予定されている特定の関係者以外の

不特定の者に知られ得る性質のものであるか

否かという観点から判断すべきである。

 

そうであれば,知事と相手方との交際の事実そのものは

不特定の者に知られ得るものであっても,

支出金額等,交際の内容までは不特定の者に

知られ得るものとはいえない情報は,

他に相手方の氏名等を公表することによって

上記のおそれがあるとは認められないような事情がない限り,

同号に該当するものと解される

(最高裁平成3年(行ツ)第18号同6年1月27日

第一小法廷判決・民集48巻1号53頁,最高裁平成8年(行ツ)第210号,

第211号同13年3月27日第三小法廷判決・

民集55巻2号登載予定参照)。

 

(2) 本件条例5条1号は,私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような

個人情報が記録されている公文書の公開を

しないことができるとしているものと解されるが,

知事の交際の相手方となった私人としては,その具体的な費用,

金額等までは通常他人に知られたくないと望むものであり,

そのことは正当であると認められる。

 

そうすると,このような交際に関する情報は,

その交際の性質,内容等からして交際内容等が

一般に公表,披露されることがもともと予定されているもの,

すなわち,交際の相手方及び内容が不特定の者に

知られ得る状態でされる交際に関するものを除いては,

同号に該当すると解するのが相当である。

 

したがって,本件公文書のうち私人である相手方に係るものは,

相手方が識別され得るようなものであれば,

原則として,同号により公開しないことができる

公文書に該当するというべきである(上記各判決参照)。

 

(3) なお,本件条例2条1項により,実施機関は,

公文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるよう

この条例を解釈し,運用するものとされており,

実施機関において,公文書の公開請求に対し,

同項の趣旨をも踏まえて,

本件条例5条1号に該当する独立した

一体的な情報が記録されている公文書について,

当該情報を更に細分化し,そのうち氏名,

生年月日その他の特定の個人を識別することが

できることとなる記述等の部分(個人識別部分)のみを非公開とし,

その余の部分を公開するなどといった態様の

部分公開をその裁量判断により任意に行うことなども,

本件条例の許容するところと解される。

 

そして,実施機関がこのような

態様の部分公開を任意に行った場合に,

これに不服のある請求者は,非公開とされた部分をも

公開すべきであると主張して,訴訟手続により

当該部分に係る非公開決定の全部取消しを求めることができ,

裁判所は,当該非公開決定が違法であると判断したときは,

これを取り消すことができるものというべきである。

 

本件において,上告人が本件公文書の摘要欄中の

支出の相手方記載部分についてのみこれを非公開とし,

その余の部分を公開する旨の部分公開を行ったのも,

上記の見解に基づくものと理解することができる。

 

(4) ところで,前記事実関係によれば,

本件公文書に記録された本件結婚祝い及び

本件受賞祝賀会の祝いに係る知事の交際に関する情報は,

いずれも交際の相手方である個人が識別され得るものであるから,

原則として本件条例5条1号及び6号に該当するというべきである。

 

そこで,以下,これらの情報が交際の相手方及び

内容が不特定の者に知られ得る状態でされる

交際に関するものであるか否か等につき検討する。

 

まず,本件結婚祝いは,上記事実関係によれば,

いずれも知事が結婚披露宴に招待されて出席した際に

贈ったものであるところ,

結婚披露宴に招待されて出席した際には

祝いを贈るのが習慣であるとはいえ,これらの祝いは,

その贈呈の事実やその内容ないし具体的金額が

当該披露宴の出席者等に披露されるようなものではなく,

知事が披露宴に出席したことにより,

知事から祝いが贈られた事実が当該披露宴の

出席者等に知られるところとなったとしても,

その内容ないし具体的金額までが知られることは

通常は考えられないものである。

 

そうすると,本件結婚祝いについては,

少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に

知られ得るものであったとはいえないから,

これらの祝金に係る知事の交際は,

少なくともその内容が不特定の者に知られ得る状態で

されたものということはできない。

 

また,上記のように,本件結婚祝いについては,

その金額が1万円のものと3万円のものの

2種類があったというのであるから,

この種の祝金の金額は府の相手方とのかかわり等をしんしゃくして

個別に決定されていたということができるのであって,

これらの祝金について相手方の氏名等を

公表することによって前記(1)のおそれがあるとは

認められないような事情があるということもできないのである。

 

したがって,これらの祝金に係る知事の交際に関する情報は,

本件条例5条1号及び6号に該当するというべきである。

 

なお,本件結婚祝いについて,前記のとおり,

上告人は,被上告人の請求を受けて,

支出の相手方記載部分のみを非公開とし,

その余の支出金額等を公開しているのであるが,

このような態様の公開によってはいまだ

当該相手方との関係における交際の内容は

公開されていないというべきところ,

支出の相手方記載部分をも公開すべきものとすれば,

当該相手方との関係において交際の内容が公開されることになるから,

これらの祝金に係る知事の交際に関する情報が

本件条例5条1号及び6号に該当する以上,

支出の相手方記載部分をも公開すべきものとすることはできない。

 

次に,本件受賞祝賀会の祝いは,

上記事実関係によれば,

いずれも知事又はその代理人が当該受賞祝賀会に

出席した際に贈ったものというのであるが,

その贈呈の事実やその具体的金額が

一般に公表,披露されるようなものであるとは考えられず,

この事実関係のみからは,祝金贈呈の事実又は

少なくとも祝金の具体的金額が不特定の者に

知られ得るものであったということはできない。

 

そうすると,これらの祝金に係る知事の交際は,

少なくともその内容が不特定の者に

知られ得る状態でされたものということはできない。

 

また,上記のように,本件受賞祝賀会の祝いについては,

その金額が1万円のものと3万円のものの

2種類があったというのであるから,

この種の祝金の金額は府の相手方とのかかわり等を

しんしゃくして個別に決定されていたということができるのであって,

これらの祝金について相手方の氏名等を公表することによって

前記(1)のおそれがあるとは認められないような

事情があるということもできないのである。

 

したがって,これらの祝金に係る知事の交際に関する情報は,

本件条例5条1号及び6号に該当するというべきである。

 

なお,本件受賞祝賀会の祝いについても,本件結婚祝いと同様に,

その支出金額等が既に公開されているからといって,

支出の相手方記載部分をも公開すべきものとすることはできない。

 

以上によれば,本件結婚祝い及び本件受賞祝賀会の祝いに係る知事の

交際に関する情報が本件条例5条1号又は

6号に該当しないとした原審の判断は,

法令の解釈適用を誤った違法があり,

この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は理由があり,その余の点について判断するまでもなく,

原判決中上記判断に係る部分は破棄を免れない。

 

そして,以上説示したところによれば,

本件処分のうち本件結婚祝い及び本件受賞祝賀会の祝いに係る

交際の相手方である個人の氏名が記録されている

本件公文書中の部分を非公開とした部分に違法はないから,

この部分については被上告人の控訴を棄却すべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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