公有地に係る土地信託契約

(平成23年11月17日最高裁)

事件番号  平成22(受)1584

 

この裁判は、

公有地に係る土地信託契約において,

受益者に対する費用補償請求権を定めた旧信託法

(平成18年法律第109号による改正前のもの)36条2項本文の適用を

排除する旨の合意が成立していたとはいえないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

上記事実関係によれば,公有地の信託制度の創設に先立ち,

自治省の研究会が昭和61年1月に取りまとめた報告書においては,

信託財産の運用が当初見通しと大きく異なった場合には

信託終了に際し地方公共団体が債務を承継する

可能性があることが明記されており,

同年5月の自治事務次官通知においても,

公有地の信託には旧信託法等の適用が

あることに留意することとされていた上,

A1信託銀行が同年4月に上告人に提出した文書には,

公有地の信託においても管理・処分の成果損失は全て

受益者に帰属する旨が記載されており,上告人のB副知事も,

本件信託契約締結の約2か月前である昭和62年9月,

兵庫県議会において,本件信託事業に関し,

信託終了時に上告人が債務を引き継ぐ可能性が

ある旨の答弁をしているというのである。

 

これらの事実に照らせば,公有地の信託といえども,

旧信託法の規律に従い,受益者に対する費用補償請求権を定めた

旧信託法36条2項本文の適用があるのが原則であることが

公有地の信託に関わる関係者の共通認識であり,

上告人もその例外ではなかったものというべきである。

 

したがって,本件信託契約において

同項本文の適用を排除しようとするのであれば,

そのための交渉が重ねられてしかるべきところ,

上告人と被上告人らとの間において,

本件信託契約の締結に至るまでの間に,かかる交渉がもたれたことは

全くうかがわれない。

 

そして,本件契約書の契約文言を見ても,

18条本文は「信託事務に必要な費用は,信託財産から支弁する。」

と定めているが,そこには受益者に対する費用補償請求権を定めた

旧信託法36条2項本文の適用を排除する趣旨の文言はなく,

また,32条2項4号は

「信託終了に要する費用は,信託財産から支弁する。」

と定めているが,そこにも旧信託法36条2項本文の適用を

排除する趣旨の文言はない。

 

本件契約書32条2項4号は,

同条項が置かれた位置等に照らすならば,

信託終了に際し,被上告人らが

本件信託土地や本件信託施設を上告人に引き渡し,

その登記名義を変更するなどの事務が伴うことから,

これに要する費用の負担について定めたものにすぎないと解される。

 

そして,本件契約書には,ほかに旧信託法36条2項本文の適用を

排除する旨を文言上明確に定めた条項はなく,かえって,

本件契約書においては,不足金が生ずる場合の処理方法について,

上告人と被上告人らがあらかじめ協議するものとされ(25条),

信託の終了時に借入金債務等が残存する場合には被上告人らが

上告人と協議の上これを処理するとされているのであって(32条2項3号),

これらの条項は,被上告人らが負担した費用については,

最終的に上告人がこれを負担する義務を負っていることを前提に,

その具体的な処理の方針等について上告人が被上告人らと

協議する機会を設けるべきことを定めたものと解することができる。

 

加えて,本件信託契約締結後の事情をみても,

本件信託事業は平成7年から収支が悪化し,

平成13年11月20日に上告人に提出された被上告人ら

作成の中期経営健全化計画においては,

信託期間満了時に約81億円もの借入金が

残存する予定である旨の記載がされており,

上告人と被上告人らは,平成15年3月以降,

本件信託事業に資金不足が生じた場合の処理方法について

協議を重ねるようになったが,その協議の過程において,

上告人が,被上告人らに対し,自己の費用補償義務を否定するような

態度を示したことはうかがわれず,かえって,

上告人は,複数回にわたって損失補償契約を締結してまで

被上告人らの資金調達を支援してきたのであって,

上告人は,平成17年12月26日付け文書において,

初めて自己の費用補償義務を明確に否定するに至ったというのである。

 

以上の事情に照らすと,本件信託契約において,

受益者に対する費用補償請求権を定めた旧信託法36条2項

本文の適用を排除する旨の合意が

成立していたとはいえないというべきである。

 

なお,本件契約書18条本文は,被上告人らが

上告人に対する費用補償請求権を行使するより先に,

まず信託財産から費用の補償を受けるべきである旨を

定めた規定であると解する余地がある。

 

そうであるとしても,前記事実関係によれば,被上告人らが

本件信託土地及び本件信託施設を売却することなく

信託財産から補償を受けることは困難であるところ,

これらを売却すれば信託目的が達成不能になることは明らかである。

 

このような事情の下においては,被上告人らが,

上告人に対し,旧信託法36条2項本文所定の

費用補償請求権を直ちに行使することは,

本件契約書18条本文によっても妨げられることはないと

解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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