公職選挙法205条1項

(平成14年7月30日最高裁)

事件番号  平成14(行ヒ)95

 

この裁判は、

村長選挙において現職の村長が他の立候補予定者の立候補を妨害して

自ら無投票当選を果たした行為が公職選挙法205条1項にいう

選挙の規定の違反に当たるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

村選管は,平成12年11月22日,本件選挙の告示日を

同13年1月8日(成人の日),選挙期日を同月13日と決定したため,

同月6日(土曜日)から告示日まで3日連続してa村(以下「村」という。)の

休日に当たることとなった。

 

なお,a村の休日を定める条例(平成2年a村条例第7号)1条1項は

村の休日に村の機関の執務は原則として行わないものとする旨を,

同条2項は同条1項の規定は村の休日に村の機関が

その所掌事務を遂行することを妨げるものではない旨を,それぞれ定めている。

 

本件選挙は現職村長のDの無投票当選になるとの観測が広がっていたところ,

被上告人は,平成13年1月6日,立候補を決意し,

上告人の担当者に休日に戸籍謄抄本の交付を受けられるかを問い合わせた。

 

上告人の担当者は,同日及び同月7日,村役場に電話をかけ,

本件選挙の立候補予定者で戸籍抄本の交付を受けていない者から

同抄本交付申請がされる可能性がある旨の情報を伝え,

交付申請があった場合には慎重に対応してほしい旨の要望を伝えた。

 

村においては,D村長,助役,

総務課長(戸籍謄抄本交付事務の専決権者)及び

総務課主事(戸籍事務の取扱担当者)が,

平成13年1月7日,戸籍抄本の交付申請があった場合の取扱いを協議し,

助役及び総務課長は,戸籍抄本交付の方向で

検討すべきであるという意見を述べたが,

D村長は,村において休日に一般行政事務を行っておらず,

実際の交付例がないのに例外を作ると以後の交付申請等を断ることが困難となり,

少人数の役場では対応しきれなくなるおそれがある旨の意見を述べ,

戸籍抄本交付申請があっても交付しない方針を決定した。

 

被上告人は,同日,総務課が出勤し,Dの立候補届出は受理された。

被上告人は,同日午後1時ころ,村役場に赴き,

戸籍抄本交付申請書に必要事項を記入しようとしたが,

村選管の書記である総務課主事に制されて,記入することができなかった。

 

被上告人は,抗議したり,

立候補届出関係書類の記載内容の事前審査を求めたり,

各所に連絡を取るなど,立候補届出実現のために努力したものの,

戸籍抄本の交付を受けられず,その添付を欠いた

立候補届出が受理される可能性はないものとして

最終的には立候補届出を断念し,

同日午後4時35分ころ,村役場から引き上げた。

 

本件選挙において立候補の届出をした候補者がD1人であったため,

投票は行われず,平成13年1月13日の選挙会において,

同人が当選人と定められた。

 

原審は,上記事実関係の下において,D村長の言動は,

村役場の事務一般に対する支障をおもんぱかっての

行動というだけでは理解することができず,D村長は,

その地位を利用して被上告人の立候補を妨げるために戸籍抄本不交付を決定したと

評価されてもやむを得ないとした上で,村長選挙の候補者でもある現村長が,

その地位を利用して公正中立に行使されるべき戸籍抄本発行権限を濫用し,

他の立候補予定者の戸籍抄本の入手を妨げて立候補届出を妨害し,

自ら無投票当選者となって,有権者の投票の機会を奪ったものであるから,

少なくとも選挙の基本理念である選挙の

自由公正の原則が著しく阻害されたものであり,

公職選挙法205条1項にいう

「選挙の規定に違反すること」があったと認め,

本件選挙を無効とした。

 

論旨は,選挙の規定に違反することがあったとした原審の上記判断には,

法令解釈の誤り,判例違反がある旨をいう。

 

公職選挙法205条1項にいわゆる選挙無効の要件としての

「選挙の規定に違反することがあるとき」とは,

主として選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の

手続に関する明文の規定に違反することがあるとき,

又は直接そのような明文の規定がなくとも選挙法の

基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく

阻害されるときを指すものである

(最高裁昭和27年(オ)第601号同年12月4日第一小法廷判決・

民集6巻11号1103頁,最高裁昭和51年(行ツ)第49号同年9月30日

第一小法廷判決・民集30巻8号838頁参照)。

 

そして,選挙管理の任にある機関以外の者の行為であっても,

選挙の管理執行に密接に関連する事務を行う者が,

選挙地域内の選挙人全般の自由な判断による投票を妨げ,

選挙の自由公正の原則を著しく阻害したと認められるものである場合には,

「選挙の規定に違反することがあるとき」に当たると解するのが相当である。

 

前記事実関係によれば,現職の村長であるDが,

村長選挙において,村長としての地位を利用して

戸籍謄抄本の交付権限を濫用し,他の立候補予定者の戸籍抄本の

入手を妨げてその立候補を妨害し,自ら無投票当選を

果たしたというべきであるとした原審の判断は,

是認することができる。

 

Dの上記行為は,単に特定の立候補予定者の

立候補を阻止したにとどまらず,自らが無投票により

当選人となることによって,選挙人全般が

その自由な判断により投票をする機会を完全に奪ったものというべきである。

 

そして,市町村長の管掌する戸籍謄抄本の交付事務は,

選挙の管理執行そのものではないが,立候補の届出書に

公職の候補者となるべき者の戸籍の謄本又は抄本の添付を

要するとされていること(公職選挙法86条の4第4項,

公職選挙法施行令89条2項1号イ(2))に照らせば,

選挙の管理執行に密接に関連するということができるところ,

Dは,戸籍謄抄本の交付権限を濫用して,

上記行為に及んだというのであり,

上記の事務につき著しく不公正な取扱いをしたものというべきである。

 

そうすると,Dの上記行為をもって公職選挙法205条1項にいう

「選挙の規定に違反することがあるとき」に当たると解するのが相当である。

以上によれば,原審の前記判断は,是認することができ,

原判決に所論の違法はない。上記判断は,

所論引用の判例に抵触するものではない。

論旨は,採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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