共同不法行為の加害者の各使用者間における求償権の成立する範囲
(平成3年10月25日最高裁)
事件番号 昭和63(オ)1383
最高裁判所の見解
1 複数の加害者の共同不法行為につき、
各加害者を指揮監督する使用者が
それぞれ損害賠償責任を負う場合においては、
一方の加害者の使用者と他方の加害者の使用者との間の
責任の内部的な分担の公平を図るため、
求償が認められるべきであるが、
その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、
それぞれが指揮監督する各加害者の過失割合に従って
定めるべきものであって、一方の加害者の使用者は、
当該加害者の過失割合に従って定められる
自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、
その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、
当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、
右の全額を求償することができるものと解するのが相当である。
けだし、使用者は、その指揮監督する被用者と一体をなすものとして、
被用者と同じ内容の責任を負うべきところ
(最高裁昭和六〇年(オ)第一一四五号同六三年七月一日第二小法廷判決・
民集四二巻六号四五一頁参照)、
この理は、右の使用者相互間の求償についても妥当するからである。
2 また、一方の加害者を指揮監督する複数の使用者が
それぞれ損害賠償責任を負う場合においても、
各使用者間の責任の内部的な分担の公平を図るため、
求償が認められるべきであるが、
その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、
被用者である加害者の加害行為の態様及び
これと各使用者の事業の執行との関連性の程度、加害者に対する
各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定めるべきものであって、
使用者の一方は、当該加害者の
前記過失割合に従って定められる負担部分のうち、
右の責任の割合に従って定められる自己の負担部分を超えて
損害を賠償したときは、その超える部分につき、
使用者の他方に対して右の責任の割合に従って定められる
負担部分の限度で求償することができるものと解するのが相当である。
この場合において、使用者は、
被用者に求償することも可能であるが、
その求償し得る部分の有無・割合は
使用者と被用者との間の内部関係によって
決せられるべきものであるから
(最高裁昭和四九年(オ)第一〇七三号同五一年七月八日第一小法廷判決・
民集三〇巻七号六八九頁参照)、
使用者の一方から他方に対する求償に当たって、
これを考慮すべきものではない。
3 また、複数の者が同一の事故車両の運行供用者として
それぞれ自賠法三条による損害賠償責任を負う場合においても、
右と同様に解し得るものであって、当該事故の態様、
各運行供用者の事故車両に対する運行支配、運行利益の程度などを
考慮して、運行供用者相互間における責任の割合を定めるのが相当である。
4 これを本件についてみるに、被上告人の上告人に対する
請求の当否を判断するに当たっては、まず、
GとHとの過失割合に従って両者の負担部分を定め、
Hの使用者としての上告人の負担部分を確定し、次いで、
Gの加害行為の態様及びこれと上告人及び
被上告人の各事業の執行との関連性の程度、
Gに対する上告人及び被上告人の指揮監督の
強弱、本件車両に対する上告人及び被上告人の運行支配、
運行利益の程度などを考慮して、Gの負担部分につき、
その使用者及び本件車両の運行供用者としての
上告人及び被上告人の負担部分を確定する必要があったものというべきである。
5 以上と異なる原審の前記判断は、
損害賠償義務者相互間の求償に関する法令の解釈適用を
誤った違法があるといわなければならず、
その違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
これと同旨をいう論旨は理由があり、
その余の論旨について判断するまでもなく、
原判決は破棄を免れない。
そして、本件については、以上説示したところに従い
更に審理を尽くさせる必要があるから、
これを原審に差し戻すのが相当である。
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