刑法18条4項

(平成20年6月23日最高裁)

事件番号  平成20(あ)305

 

この裁判は、

労役場留置期間を定めるに当たり,

1日に満たない端数を生じる換算率を定めても

刑法18条4項所定の同期間を定めない

違法があるとはいえないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 第1審判決は,公訴事実を認定した上,

被告人に対し,①懲役2年6月及び

罰金1億5000万円に処する,

②その罰金を支払うことができないときは,

金21万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する,

③この裁判確定の日から5年間その懲役刑の執行を猶予するという

主文の有罪判決を言い渡した。

 

(2) これに対し,検察官が控訴を申し立て,

第1審判決は被告人を罰金1億5000万円に処した際に

1日の換算額である21万円に満たない端数(6万円)の

罰金額につき換算刑の言渡しをしていないところ,

これでは端数の罰金額につき換算刑の執行が不能となるから,

第1審判決には刑法18条4項の法令適用の誤りがあると主張した。

 

(3) 原判決は,第1審判決は端数金額を1日に換算しない趣旨であり,

1日当たりの換算額により算出される労役場留置の期間に係る執行によって

罰金刑全部の換算刑の執行がされることになるから,

端数金額の部分について執行不能を

生じる旨の所論は当たらないと判断した。

 

そして,原判決は,最高裁昭和24年(れ)第2819号

同26年5月15日第三小法廷判決・

刑集5巻6号1112頁(以下「昭和26年判決」という。)は,

本件と同様の論点に係る事案において,

1日当たりの換算額に満たない金額を生じるとしても,

罰金を完納することができない場合における

労役場留置の期間を定めないものとはいえないから,

刑法18条4項に違反したものとはいえない旨の判断を示しており,

これによれば第1審判決に法令適用の誤りはないとして,

検察官の控訴を棄却した。

 

(4) そこで,検察官が本件上告に及んだ。

2 所論は,原判決が依拠する昭和26年判決は,

刑の執行不能が生じるという観点からの判断は

何ら示していないとの見解に立った上で,

原判決は,「1日の換算額に満たない端数の罰金額について

換算刑の言渡しをしなかった原判決には法令適用の誤りがある。」

旨判示する東京高等裁判所昭和27年(う)第2452号同年9月6日判決・

高等裁判所刑事判決特報34号163頁,

名古屋高等裁判所昭和29年(う)第11号同年3月8日判決・

高等裁判所刑事裁判速報69号,

仙台高等裁判所平成10年(う)第94号同年11月5日判決・

高等裁判所刑事裁判速報集平成10年151頁,

大阪高等裁判所平成17年(う)第1727号同18年3月24日判決及び

名古屋高等裁判所平成19年(う)第146号同年6月21日判決・

高等裁判所刑事裁判速報721号に違反する旨主張するとともに,

上記の点につき,昭和26年判決に判例性が認められるとしても,

同判決は,労役場留置期間の計算に当たり,

生じる端数は1日に換算する旨判示する

最高裁昭和26年(あ)第592号

同31年3月20日第三小法廷判決・

刑集10巻3号355頁(以下「昭和31年判決」という。)により

実質的に変更されたものであって,

原判決は昭和31年判決に違反するとも主張する。

 

しかしながら,昭和26年判決は,

「罰金5万円に処し,同罰金を完納することができないときは

金300円を1日に換算した期間労役場に留置する。」旨の

判決の言渡しを受けた被告人につき,

同被告人が罰金を完納しない場合は166日間留置してもなお,

1日に満たない金額(200円)を生じるが,

そうであるからといって同判決が罰金を

完納することができない場合における

労役場留置の期間を定めないものとはいえないから,

刑法18条4項に違反したものとは

いえない旨の判断を示しているのであって

(同条項は平成7年法律第91号による改正前のものであるが,

昭和26年判決の説示が現行刑法18条4項にも適合することは

明らかである。),この点に関する昭和26年判決の判例性を

否定する所論は失当である。

 

そして,昭和31年判決は,破棄自判の主文において,

1日の換算金額を定めるとともに,端数を生じるときは

その端数は1日として計算する旨を明示したにとどまり,

昭和26年判決を何ら変更するものではなく,

両判決は両立し得ると解される。昭和26年判決によれば,

労役場留置の期間を定めるに当たり1日に満たない端数を生じる

換算率を定めても同期間を定めない違法が

あるとはいえないというのであり,

当裁判所もこの見解を正当と考える(上記端数が生じる場合,

その端数は1日に換算する旨を明示して判決を言い渡す扱いが

実務上広く行われており,それが何ら違法,

不当でないことはもとより明らかである。)。

 

昭和26年判決と相反する判断をした所論引用の高等裁判所の各判決は,

刑訴法405条3号所定の高等裁判所の判例には当たらない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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