刑法246条1項,刑訴法336条,刑訴法411条3号

(平成13年1月25日最高裁)

事件番号  平成11(あ)1614

 

最高裁判所の見解

(1) 被告人は,前記のように,

a町農協の共済金担当者であるDから

共済金請求の手続について教示されたとおり,

Cの代表者に休業損害証明書の作成を依頼したところ,

同人からその作成を拒否されたのであるから,

この時点において共済金を不正に請求しようという

意思を有していたとみるのは困難である。

 

(2) さらに,被告人は,共済金を請求するに当たり,

本件証明書のほかに,休業損害証明書用紙に

自ら鉛筆書きした書面及びCでの以前の給料明細書等の書類を提出している。

 

被告人が共済金を不正に請求するつもりであれば,

本件証明書及び本件事故前3か月間のAにおける収入を

証明する書面だけを提出すればよいのであって,

被告人の前記行動は,不正請求を行うにしては

不可解な行動といわざるを得ない。

 

確かに,以上の各書面上,AとCにおける休業期間は重複していることから,

一見したところ,休業損害補償金の二重請求の疑いを生じかねないものである。

 

しかし,Cの分は,代表者印もない

鉛筆書きの書面によるものであるから,

被告人としても,これにより休業損害補償金を

二重に支払ってもらえると期待していたとは到底考え難い上,

Dから2通の書面の関係について問いただされれば,

本件証明書の休業期間の記載に虚偽があることを告げざるを得ず,

被告人自身もそのような意思であったと考える余地が多分にある。

 

そうすると,被告人が本件証明書と鉛筆書きの書面を

他の書類とともに併せて提出したのは,

さきにDから転職後の会社にも休業損害証明書を

作成してもらうよう指示されていたので,

その指示に従い,これに代わるものとして

この鉛筆書きの書面を提出したにすぎず,

補償金の額については専ら共済金支払手続の担当者であるDの

判断に委ねる意思であったと認めるのが合理的である。

 

(3) ところが,前記2通の書面の提出を受けたDは,

「交通事故後の分はみれんよ。」と言って,

Cの分に係る書面を突き返す一方,

本件証明書の内容を問いただすことなく,

これをもとに手続を進めていったのであるが,

被告人としては,以前Dに転職の事実を告げていたので,

共済金支払手続の担当者である同人が,

本件証明書の内容が事実でないことを認識した上で

手続を進めているものと思い,これにあえて

異を唱えなかったのではないかとみ得る余地が多分にある。

 

そうすると,Dが本件証明書の休業期間の記載に虚偽が

含まれていることを認識していたかどうかはともかく,

共済金請求に精通しない被告人としては,必要書類を提出すれば,

共済金支払手続の担当者が正当な補償金の額を算定した上,

手続を進めてくれるものと信じたことには

合理的な理由があるというべきである。

 

(4) このように,本件においては,

本件証明書の提出行為を取り出してみれば,

外形的には詐欺の欺罔行為と目される面があったことは

否定し難いところであるが,しかし,

その際の被告人の行動及びDの対応を総合的に考慮すると,

被告人に積極的に共済金を不正に受給しようというまでの

意思があったとは認め難いというべきである。

 

5 以上の検討によれば,本件共済金請求につき

被告人に詐欺の故意があったと認めるには合理的な疑いが残るから,

詐欺の故意を認めた原判決の判断は,到底是認することができない。

 

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