労働組合法14条,労働組合法16条

(平成13年3月13日最高裁)

事件番号  平成12(受)192

 

最高裁判所の見解

労働協約は,利害が複雑に絡み合い対立する労使関係の中で,

関連性を持つ様々な交渉事項につき団体交渉が展開され,

最終的に妥結した事項につき締結されるものであり,

それに包含される労働条件その他の労働者の待遇に関する基準は

労使関係に一定期間安定をもたらす機能を果たすものである。

 

労働組合法は,労働協約にこのような機能があることにかんがみ,

16条において労働協約に定める上記の基準が

労働契約の内容を規律する効力を有することを規定しているほか,

17条において一般的拘束力を規定しているのであり,また,

労働基準法92条は,就業規則が当該事業場について

適用される労働協約に反してはならないこと等を規定しているのである。

 

労働組合法14条が,労働協約は,書面に作成し,

両当事者が署名し,又は記名押印することによって

その効力を生ずることとしているゆえんは,

労働協約に上記のような法的効力を付与することとしている以上,

その存在及び内容は明確なものでなければならないからである。

 

換言すれば,労働協約は複雑な交渉過程を経て

団体交渉が最終的に妥結した事項につき締結されるものであることから,

口頭による合意又は必要な様式を備えない書面による合意のままでは

後日合意の有無及びその内容につき紛争が生じやすいので,

その履行をめぐる不必要な紛争を防止するために,

団体交渉が最終的に妥結し労働協約として結実したものであることを

その存在形式自体において明示する必要がある。

 

そこで,同条は,書面に作成することを要することとするほか,

その様式をも定め,これらを備えることによって労働協約が成立し,かつ,

その効力が生ずることとしたのである。

 

したがって,書面に作成され,かつ,両当事者が

これに署名し又は記名押印しない限り,

仮に,労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が

成立したとしても,これに労働協約としての

規範的効力を付与することはできないと解すべきである。

 

ところで,前記認定事実によれば,上告人と支部とは,

平成3年度以降各年度のベースアップ交渉において,

具体的な引上げ額については妥結して本件各合意をするに至ったが,

いずれの合意についても,協定書を作成しなかったというのであるから,

本件各合意が同条が定める労働協約の効力の

発生要件を満たしていないことは明らかであり,

上告人が協定書が作成されていないことを理由にベースアップ分の

支給を拒むことが信義に反するとしても,

労働協約が成立し規範的効力を

具備しているということができないことは論をまたない。

 

のみならず,前記認定事実によれば,本件各合意は,

同条所定の様式を備えた書面に作成された上で

ベ-スアップの内容が実施されることを当然の前提として

されたものであるというほかはないから,

上告人と支部との間に他に交渉事項があり

これが解決しないため同条所定の様式を

備えた書面が作成されないという場合であっても,

ベ-スアップだけは上告人が実施すべき義務を負う

趣旨のものであると解することもできない。

 

平成3年度以降各年度のベースアップ交渉の中身を見ると,

上告人は,具体的な引上げ額のほか,支部の組合員に

ベースアップ分を支給するために作成すべき

協定書に新賃金体系による初任給の額を基準額として

前記のように記載することも交渉事項としたが,支部は,

引上げ額については同意したものの,上記交渉事項に応じれば

事実上新賃金体系を自ら承認する意味を持つがゆえに,

これを拒絶したものであり,その結果,

協定書が作成されなかったというのである。

 

そうであるとすれば,協定書の記載の仕方に関する交渉事項であるとはいえ,

支部がこの交渉事項を受け入れるか否かは労使双方にとって

重要な意義があったのであり,この交渉事項が受け入れられず,

協定書が作成されなかったのであるから,

団体交渉による支部の組合員に対するベースアップの

実施はとんざしたものというほかはない。

 

だからといって,上記交渉事項と切り離して

上告人が支部の組合員に対してベースアップ分を

支給することが本件各合意の時点等にさかのぼって

既に合意されていたものと解することは到底できない。

 

昭和58年度に協定書が作成されずに

ベースアップ分が支給されたこと,

平成3年度の夏期賞与額に関して作成された協定書は

新賃金体系による賃金を基準としていたこと,

上告人がF会の組合員及び非組合員に対しては

各ベースアップ分を各年度の4月にさかのぼって支給したことは,

上記判断を左右するものとはいえない。

 

以上によれば,原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。

そして,被上告人らの主位的請求は理由がないから,

同請求については,第1審判決中上告人敗訴部分を取り消して

同部分につき被上告人らの請求を棄却し,

前記破棄部分に係る被上告人らの附帯控訴を棄却し,

被上告人らが附帯控訴に基づき原審において

拡張した請求を棄却すべきであるが,

予備的請求については更に審理を尽くさせる必要があるから,

本件を原審に差し戻すこととする。

 

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