労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為

(平成7年4月14日最高裁)

事件番号  平成5(行ツ)141

 

最高裁判所の見解

1 同一企業内に複数の労働組合が併存する場合には、

各組合は、それぞれ独自に使用者との間で

労働条件等について団体交渉を行い、

労働協約を締結し、あるいはその締結を拒否する

権利を有するのであるから、併存する組合の一方は

使用者との間に一定の労働条件の下で時間外労働をすることについて

労働協約を締結したが、他方の組合はより有利な労働条件を主張し、

右と同一の労働条件の下で時間外労働をすることについて

反対の態度を採ったため、時間外労働に関して協約締結に至らず、

その結果、後者の組合員が使用者から時間外労働を禁止され、

前者の組合員との間に時間外労働に関し、

取扱いに差異を生じることになったとしても、

それは、各組合が異なる方針ないし状況判断に基づいて

選択した結果によるものである。

 

したがって、使用者が、団体交渉において、

労勘組合の団結権の否認ないし弱体化を主な意図とする主張に終始し、

右団体交渉が形式的に行われたにすぎないものと認められる

特段の事情のない限り、使用者が、団体交渉の結果により、

時間外労働について、併存する組合の組合員間に

取扱上の差異を生ずるような措置を採ったとしても、

原則として、不当労働行為の問題は

生じないものといわなければならない

(最高裁昭和五三年(行ツ)第四〇号同六〇年四月二三日第三小法廷判決・

民集三九巻三号七三〇頁参照)。

 

2 これを本件についてみると、

原審の適法に確定した前記事実関係及び記録によれば、

以下の諸点を指摘することができる。

 

(一) 上告人は、昭和六二年一二月一日及び

同六三年二月二三日に行われた三六協定の締結及び

賃金支払方法に関する団体交渉において、申立組合に対し、

社員会との間で合意したように、

新賃金計算方法による基礎給の歩合を引き下げることに

同意しないのであれば、深夜にわたる時間外労働の延長を

許容する三六協定の締結には応じられないとの態度を示したものであるが、

このような上告人の主張には、

一応合理的な理由があるものとみることができる。

 

前記のように、時間外割増賃金、

深夜割増賃金を区別して支給していなかった従前の賃金体系について

高知労働基準監督署の改善の指導を受け、上告人は、

これに従って、賃金計算方法を改める必要に迫られていた。

 

そして、従前の賃金体系では、時間外及び深夜労働に対する

割増賃金に当たる部分を判別することはできないものであるから、

就業規則に賃金計算方法についての定めが置かれていることの

うかがわれない本件においては、賃金計算方法を変更することにつき、

労働組合との間に協約が成立するか、

労働者の個別の同意を得られない限り、上告人は、

従来支払っていた賃金に、時間外割増賃金及び

深夜割増賃金を加算して支払う義務があるものと解さざるを得ない

(最高裁平成三年(オ)第六三号同六年六月一三日第二小法廷判決・

裁判集民事一七二号六七三頁参照)。

そのような状況の下において、上告人は、

高知労働基準監督署の指導に従うため、

昭和六二年三月一日以降、全乗務員につき、

賃金を新賃金計算方法によって支払うこととしたところ、

社員会は、新賃金計算方法を承認した上で、

同年一〇月三〇日には、新勤務シフトを前提として、

従前に比べて時間外労働を延長することを許容する新三六協定を締結し、

併せて新賃金計算方法による基礎給の歩合を引き下げることを合意した。

 

これに対して、申立組合及びその組合員は、

新賃金計算方法を承認せず、従来の賃金体系による賃金に

時間外割増賃金及び深夜割増賃金を加算して

支払うことを要求し続けていたというのである。

 

上告人が時間外割増賃金及び深夜割増賃金を含むとの

認識の下に従前の賃金体系を採用していたとすれば、

乗務員に深夜にわたる時間外労働の延長を許容しながら、

従来の賃金に時間外割増賃金及び深夜割増賃金を加算して支払うことは、

過大な賃金を支払わざるを得なくなることを意味し、

経営上の負担になることは容易に推認することができるし、

また、仮に上告人が申立組合の組合員についてだけ

右のような労働条件を認めたならば、

社員会の組合員との対比において、

申立組合の組合員だけに著しく有利な労働条件を

認めることになることが明らかである。

 

このような事情にかんがみると、

前記団体交渉における上告人の主張には、

一応合理的理由があるとみることができる。

 

(二) 上告人は、新勤務シフトの導入と

これを前提とする三六協定の締結及び

これに伴う新賃金計算方法による基礎給の歩合の変更について

社員会とのみ協議をし、申立組合とは何らの協議を行うことなく、

申立組合の組合員の時間外労働を禁止したものであるが、

賃金の支払に関して前示のような要求を続けていた申立組合が、

新賃金計算方法を承認した上で、

基礎給の歩合を更に引き下げることを簡単に

受け入れないであろうことは容易に推認できるところであって、

上告人が、これらの労働条件について、

まず社員会との間で協議を行い、

これらの点について合意を成立させようとしたとしても、

その態度をあながち不当なものということはできない。

 

そして、上告人は、申立組合の組合員による時間外労働を禁止したものの、

その五日後には、新勤務シフトの導入と

これを前提とする三六協定の締結及びこれに伴う

新賃金計算方法による基礎給の歩合の変更について、

申立組合との間でも団体交渉を行っていることからすると、

申立組合との間で団体交渉を行った時期が遅きに失したものとまではいえない。

 

(三) また、使用者が、多数派組合との間で合意に達した労働条件で

少数組合とも妥結しようとするのは自然の動きというべきであって、

少数派組合に対し、右条件を受諾するよう求め、

これをもって譲歩の限度とする強い態度を示したとしても、

そのことだけで使用者の交渉態度に

非難すべきものがあるとすることはできない。

 

したがって、上告人が申立組合との間で行った団体交渉において、

社員会との間で合意したように、

新賃金計算方法による基礎給の歩合を引き下げることを強く主張し、

この点について合意をしない限り新勤務シフトを前提とする

三六協定の締結には応じられないとの態度を採ったこと自体をもって、

誠実な団体交渉を行わなかったものと評価することはできない。

 

そして、原審は、他に上告人の交渉態度が

不誠実であったことをうかがわせる事実を認定していないから、

その認定した事実関係の下では、

上告人の交渉態度が不誠実であったと評価するには

足りないものといわざるを得ない。

 

かえって、記録によれば、上告人は申立組合との間で行った

団体交渉において、高知労働基準監督署の指導を受け、

従前の賃金体系を改める必要があること、

社員会の組合員らと同様の時間外労働を認めつつ、

これに対して申立組合が要求するような賃金を支払うことは、

経営上困難であることを説明していることがうかがわれるのである。

 

3 申立組合の結成後において

上告人が申立組合及びその組合員に対して行ってきた

前記認定のその他の行為を考慮しても、

右(一)ないし(三)に指摘したところによれば、

上告人が申立組合との間の団体交渉において、

前記のような主張をした主な意図が

申立組合の団結権の否認ないし弱体化にあり、

右団体交渉が、申立組合の組合員が

時間外労働を禁止されているという既成事実を

維持するために形式的に行われたものであると

断定するには足りないものといわざるを得ない。

 

そうすると、上告人が、申立組合との間で

新勤務シフトを前提とする三六協定の締結を拒否して、

申立組合の組合員の時間外労働を禁止している行為が

不当労働行為に当たるとした原審の判断には、

労働組合法七条一号及び三号の解釈を誤った違法があり、

その違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 

この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決のうち、

本件救済命令の別紙記載部分に関する部分は、

その余の論旨について判断するまでもなく破棄を免れない。

 

そして、前記説示によれば、本件救済命令の右部分は、

違法として取消しを免れないものというべきであるから、

第一審判決のうち、本件救済命令の右部分の取消しを求める

上告人の請求を棄却した部分を取り消し、

本件救済命令の右部分を取り消すこととする。

 

四 次に、原審の適法に確定した前記事実関係の下において、

第三次懲戒処分が不当労働行為に当たるとした原審の判断は、

正当として是認することができる。

 

すなわち、前記事実関係によれば、上告人は、

申立組合の設立以後、申立組合の組合員の

業務命令違反行為等をとらえて懲戒処分を繰り返しており、

特に、勤務シフト不遵守を理由としてされた

第一次出勤停止処分及び第二次出勤停止処分は、

申立組合の組合員以外の者の中にも

勤務シフトの不遵守が疑われる者があったのに、

全乗務員の勤務状況の調査が完了しない段階で、

申立組合の組合員のみを対象として行われたものであることや、

上告人は、就業時間内に社員会の設立準備会を行うことを

認める一方で、申立組合の書記長であるJが

就業時間内に組合活動をしたことについては、

三〇日間にもわたる出勤停止処分をしていることなどからすれば、

これら一連の懲戒処分は、申立組合を嫌悪し、

その組合員に不利益を与えることを主な意図として

行われたものと判断せざるを得ない。

 

そして、これらの経緯にかんがみると、

第三次懲戒処分も、それ以前における一連の懲戒処分と

同様の意図の下に行われたものとみるのが相当である。

 

したがって、この点に関する原審の判断は、

正当として是認することができ、

論旨は採用することができない

 

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