医師法21条にいう死体の「検案」の意義

(平成16年4月13日最高裁)

事件番号  平成15(あ)1560

 

最高裁判所の見解

医師法21条にいう死体の「検案」とは,

医師が死因等を判定するために死体の外表を検査することをいい,

当該死体が自己の診療していた患者のものであるか否かを

問わないと解するのが相当であり,

これと同旨の原判断は正当として是認できる。

 

本件届出義務は,警察官が犯罪捜査の端緒を得ることを容易にするほか,

場合によっては,警察官が緊急に被害の拡大防止措置を講ずるなどして

社会防衛を図ることを可能にするという役割をも担った

行政手続上の義務と解される。

 

そして,異状死体は,人の死亡を伴う

重い犯罪にかかわる可能性があるものであるから,

上記のいずれの役割においても

本件届出義務の公益上の必要性は高いというべきである。

 

他方,憲法38条1項の法意は,

何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について

供述を強要されないことを保障したものと解されるところ

(最高裁昭和27年(あ)第838号同32年2月20日大法廷判決・

刑集11巻2号802頁参照),

本件届出義務は,医師が,死体を検案して

死因等に異状があると認めたときは,

そのことを警察署に届け出るものであって,これにより,

届出人と死体とのかかわり等,犯罪行為を構成する事項の供述までも

強制されるものではない。

 

また,医師免許は,人の生命を直接左右する

診療行為を行う資格を付与するとともに,

それに伴う社会的責務を課するものである。

 

このような本件届出義務の性質,内容・程度及び医師という

資格の特質と,本件届出義務に関する前記のような

公益上の高度の必要性に照らすと,医師が,同義務の履行により,

捜査機関に対し自己の犯罪が発覚する端緒を与えることにもなり得るなどの点で,

一定の不利益を負う可能性があっても,

それは,医師免許に付随する合理的根拠のある負担として

許容されるものというべきである。

 

以上によれば,死体を検案して異状を認めた医師は,

自己がその死因等につき診療行為における

業務上過失致死等の罪責を問われるおそれがある場合にも,

本件届出義務を負うとすることは,

憲法38条1項に違反するものではないと解するのが相当である。

 

このように解すべきことは,

当裁判所大法廷の判例(昭和27年(あ)第4223号

同31年7月18日判決・刑集10巻7号1173頁,

昭和29年(あ)第2777号同31年12月26日判決・

刑集10巻12号1769頁,昭和35年(あ)第636号

同37年5月2日判決・刑集16巻5号495頁,

昭和44年(あ)第734号同47年11月22日判決・

刑集26巻9号554頁)の趣旨に徴して明らかである。

 

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