特定の株主に対する株主総会の招集通知の欠如と他の株主との関係における取締役の職務上の義務違反の有無

(平成9年9月9日最高裁)

事件番号  平成6(オ)362

 

最高裁判所の見解

上告人A1が前訴の口頭弁論の終結時である本件株主総会開催の直前ころに

D自動車に対する関係で株主としての地位を有していたことは、

前訴の判決によって確定しており、本件においては

その後本件株主総会が開催されたころまでに同上告人の

右地位に変更が生じたことはうかがわれないところ、

定款上株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨の

制限の付されている会社において株式の譲渡等がされた場合には、

会社に対する関係でその効力の生じない限り、

従前の株主が会社に対する関係ではなお株主としての地位を有し、

会社はこの者を株主として取り扱う義務を負うのであるから

(最高裁昭和四七年(オ)第九一号同四八年六月一五日第二小法廷判決・

民集二七巻六号七〇〇頁、最高裁昭和六一年(オ)

第九六五号同六三年三月一五日第三小法廷判決・

裁判集民事一五三号五五三頁参照)、

D自動車の取締役である被上告人らは、

上告人A1を株主として取り扱い、

本件株主総会の招集の通知を行う

職務上の義務を負っていたものというべきである。

 

そして、株主総会開催に当たり

株主に招集の通知を行うことが必要とされるのは、

会社の最高の意思決定機関である株主総会における

公正な意思形成を保障するとの目的に出るものであるから、

同上告人に対する右通知の欠如は、

すべての株主に対する関係において取締役である

被上告人らの職務上の義務違反を構成するものというべきである

(最高裁昭和四一年(オ)第六六四号同四二年九月二八日第一小法廷判決・

民集二一巻七号一九七〇頁参照)。

 

本件株主総会の招集に先立って、

前訴において上告人A1の株主としての

地位の確認請求を棄却すべきものとする控訴審判決が言い渡されていたが、

右判決は、その確定を待って、初めて実体法上の

権利義務関係についての効力を生ずるのであって、

確定に至るまでは、会社の負う前記義務に消長を来すことはない。

 

また、仮に当時本件新株発行を早期に行う必要性が存在したとしても、

株主に対する株主総会の招集の通知が会社の意思決定に関して

有する意義が前記のとおりであることに照らし、

取締役における事務処理上の便宜のいかんによって、

右通知を行う義務が免除されることはあり得ない。

 

してみると、これらの事情は、被上告人らに職務上の

義務違反がありこれにつき悪意又は

重大な過失もあったとすることを妨げるものではないというべきである。

 

なお、上告人A2が申し立てた本件新株発行差止めの

仮処分事件の帰すうが、右判断を左右するものでないことは、いうまでもない。

 

また、本件においては、本件株主総会における

決議の取消しの訴えは提起されておらず、

上告人A2が提起した本件新株発行の無効の訴えについては

請求を棄却する判決が確定しているが、これらの事情によって、

被上告人らの前記義務違反の違法性ないし

責任の存在が否定されるものでないことは、

当裁判所の判例の趣旨に照らし、明らかである

(最高裁昭和三三年(オ)第一〇九七号同三七年一月一九日

第二小法廷判決・民集一六巻一号七六頁、

最高裁昭和三九年(オ)第一〇六二号同四〇年一〇月八日第二小法廷判決・

民集一九巻七号一七四五頁参照)。

 

なお、本件において、仮に上告人A1に対して

本件株主総会の招集の通知が行われ、

同上告人がその議決権を行使していたならば、

本件新株発行に賛成する株主の議決権数は、

商法二八〇条ノ二第二項、三四三条所定の多数に及ばなかったことが予想され、

決議の結果に影響が生ずる可能性があったものというべきである。

 

四 そうすると、上告人A1の前訴における株主としての

地位の確認請求につき請求を棄却すべきものとする

控訴審判決が言い渡されていたことなどをもって、

本件新株発行に関し同上告人に対する

本件株主総会の招集の通知を欠いたことについて、

被上告人らに悪意又は重大な過失による

職務上の義務違反があったとは認められないとした原審の前記判断は、

法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ず、

この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

 

この点をいう論旨は理由があり、

その余の論旨について検討するまでもなく、

原判決は破棄を免れない。

 

そして、本件については、

損害に関する当事者の主張を明確にさせるなど、

更に審理を尽くさせる必要があるから、原審に差し戻すこととする。

 

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