司法書士法(平成14年法律第33号による改正前のもの)8条民法709条

(平成16年6月8日最高裁)

事件番号  平成15(受)709

 

司法書士法(平成14年法律第33号による改正前のもの)2条1項1号に

規定する登記手続の代理事務に係る業務については,

司法書士会に入会している司法書士でない者は,

他の法律に別段の定めがある場合を除き,

これを行ってはならないものとされていること(同法19条1項)及び

上記業務の性質,内容等にかんがみ,司法書士は,

正当な事由がある場合でなければ上記業務に係る嘱託を

拒むことができないものとされており(同法8条),

嘱託を拒んだ場合において,嘱託人の請求があるときは,

その理由書を交付しなければならないとされている

(平成15年法務省令第27号による改正前の司法書士法施行規則23条)。

 

上告人は,所有権移転登記の登記原因である「払下」は,

税務署の公売又は裁判所の競売による売却と同視できるから,

合筆前の本件土地について,足利市から「払下」を登記原因として

所有権移転登記を受けた株式会社Gから有限会社Iに対して

「真正な登記名義の回復」を登記原因として

所有権移転登記がされているのは不自然であり,また,

商号を株式会社Gとし,本店所在地を栃木県足利市d町e番地とする

株式会社が時期を異にして2社存在したことがうかがわれるので,

合筆前の本件土地につき足利市から所有権移転登記を受けた株式会社Gと,

有限会社Iに対する所有権移転登記手続を了した

株式会社Gとの同一性には疑問があり,

これを確認することは困難であるから,

本件土地についての実体的所有関係を確定することができず,

本件売買契約によって本件土地の所有権が

Eに移転するとは限らないと判断したと主張する。

 

しかしながら,所有権移転登記の登記原因である「払下」は,

公売や競売等の公法上の処分がされた場合とは異なり,

市町村が所有する普通財産を地方自治法238条の5第1項に基づき

売り払った場合の登記原因であり,市町村が所有する普通財産の売払いは,

私法上の売買と解されるから

(最高裁昭和33年(オ)第784号同35年7月12日

第三小法廷判決・民集14巻9号1744頁参照),

「払下」を登記原因として所有権移転登記を受けた株式会社Gから

有限会社Iに対して「真正な登記名義の回復」を登記原因とする

所有権移転登記手続がされていることが,

特段,不自然であるということはできない。

 

そして,司法書士である上告人は,上記の場合に,

上記のような所有権移転登記手続が行われることが,

特段,不自然なものではないことを,容易に理解し,

認識することができたものというべきである。

 

また,前記のとおり,商号を株式会社Gとし,

本店所在地を前記の場所とする株式会社が時期を異にして2社存在したとしても,

この事実のみから,直ちに,合筆前の本件土地につき足利市から

「払下」を登記原因とする所有権移転登記を受けた株式会社Gと,

有限会社Iに対する所有権移転登記手続を了した

株式会社Gとの同一性を疑うに足りる

相当の理由があるとまでいうことはできない。

 

そうすると,仮に,上告人が

上記の同一性の点について懸念を持ったとしても,

嘱託をした被上告人に対して上記の懸念を伝えて,

この点に関する説明や商業登記簿謄本等の資料の提出を

求めるなどの調査,確認もせずに,商号を株式会社Gとし,

本店所在地を前記の場所とする株式会社が時期を異にして

2社存在した事実のみに基づき,本件土地についての

実体的所有関係を確定することができず,本件売買契約によって

本件土地の所有権がEに移転するとは限らないと判断したことは

合理性を欠くというべきである。

 

現に,記録によれば,足利市から合筆前の

本件土地の払下げがされた時点(平成4年10月3日)において,

商号を株式会社Gとし,本店所在地を前記の場所として

登記されていた会社は,上記時点以降,合筆前の本件土地につき

有限会社Iに対する所有権移転登記手続が

された時点(平成7年5月18日)に至るまでの間,

商号変更又は本店移転の登記をしたことはなく,

上記の同一性の点は,優に肯認し得るものであることがうかがわれ,

上告人が上記の調査,確認をさえしていれば,

上告人の上記懸念は,容易に

解消することができたものというべきである。

 

してみると,上告人が,本件売買契約の決済日の当日になって,

突然,被上告人及びEに対し,本件土地についての

実体的所有関係を確定することができず,

本件売買契約によって本件土地の所有権がEに移転するとは限らない旨を述べ,

これを理由に本件嘱託を拒んだことには

正当な事由があるとはいえないものというべきであり,

上告人の本件嘱託の拒否及び上記の発言は,

いずれも違法と解すべきであるから,本件事実関係の下において,

被上告人の請求を一部認容した原審の判断は,

結論において是認することができる。

論旨は,採用することができない。

 

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