和議認可決定の確定による和議債権の変更後に

和議債権者が右変更前の和議債権を自働債権として

右確定前に相殺適状にあった受働債権と相殺することの可否

(平成11年3月9日最高裁)

事件番号  平成10(オ)1318

 

最高裁判所の見解

1 和議法五条は、相殺権の行使に関する破産法九八条の規定を準用し、

和議開始決定時において和議債権者が和議債務者に対して

債務を負担する場合には和議手続によらずに相殺権を

行使することができる旨定めているところ、その趣旨は、

相殺の有する担保的機能を和議手続においても保障し、

互いに債権債務を有する和議債権者と

和議債務者との公平を図る点にあると解される。

 

一方、和議認可決定が確定した場合には、和議条件に従って

和議債務の免除、弁済期の猶予等の実体法上の効力が

和議債権者全員について生じることとなる

(和議法五七条、破産法三二六条一項)。

 

しかし、前記のとおり和議手続によらない相殺権の行使が許容され、

相殺権に対して別除権に匹敵する保護が与えられていることに加え、

和議手続においては、和議債権の確定や和議債務者の

財産の清算が行われないため和議手続中に相殺権を行使する機会が

十分保障されているとは言い難いことをも考慮すると、

和議債権者が和議認可決定の確定前に

相殺の意思表示をしなかったからといって、

直ちに和議認可決定の効力を優先させ相殺権の行使を制限することは、

和議債権者にとって酷であり、

和議債権者と和議債務者との公平を欠くものというべきである。

 

したがって、和議債権と和議債務者の和議債権者に対する債権とが

和議認可決定確定前に既に相殺適状にあった場合には、

和議債権者は、和議認可決定の確定により

和議債権が和議条件に従って変更された後においても、

和議認可決定の影響を受けず、右変前の和議債権を自働債権として

和議債務者の債権と相殺することができると解するのが相当である

(大審院昭和九年(オ)第一九一〇号同一〇年一月一六日判決・

民集一四巻二一頁は、右と抵触する限度において、

これを変更すべきである。)。

 

右の理は、和議認可決定が確定した後、

和議債権者の相殺の意思表示に先立って、

和議債務者が和議条件による和議債権の変更を前提として

弁済や相殺をした場合にも変わるところはない。

 

和議の条件の申出や和議の可否の判断等は、

和議債権者が相殺権を放棄したと認めるべき事情のない限り、

相殺権が行使されることを前提として行われるべきものであるから、

右のように解したからといって、和議債務者に不測の損害を与え、

和議条件の履行に支障を生じるわけではない。

 

これを本件についてみると、前記事実関係によれば、

本件約束手形金債権と本件割賦代金債権は、

いずれも和議認可決定確定前に弁済期が到来し、

相殺適状にあったものと認められる。

 

そして、本件において上告人が相殺権を放棄したと認めるべき事情は存在しないから、

上告人は、和議条件による変更前の本件約束手形金債権を自働債権として

本件割賦代金債権と相殺することができるというべきである。

 

右と異なる原審の判断には、

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、

本件については、原判決中上告人の敗訴部分を

職権で破棄するのが相当である。

 

そして、前記事実関係によれば、上告人の

本訴請求を前記三の限度で認容した第一審判決は正当であるから、

これに対する被上告人の控訴を棄却することとする。

 

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